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「1億円の日産 GT-R」に奇跡の試乗! わずか2周のラグナセカでわかったこと
イタルデザインが手がけた720馬力のGT-R
7月のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード(FoS)で華々しいデビューを飾った、日産『GT-R50 by イタルデザイン』(以下GT-R50)。日本円にして1億円以上という価格もさることながら、イタルデザインとのコラボレーションや、 GT-Rニスモ用を大幅に上回るエンジンスペックなど、スーパーカー的興味も尽きなかった。
けれども個人的には、イタルデザインと組んだと聞いて、しばらくは“???”だった。しかもデザインは日産(欧州と北米)で、車両の開発と製造をイタルデザインが担う、というではないか。
GT-Rはもちろんのこと、『スカイライン』も日産も、イタルデザインとの関係が濃い、どころかあったという印象さえまるでない。スバルやトヨタならまだしも印象に残る歴史=クルマ(アルシオーネSVXやアリスト)があったのだけれど……。ましてや、イタルデザインの作品でもないというのであれば?
2018年のイタルデザイン50周年と、19年に迎えるGT-Rの50周年を掛け合わせてみたところで、一年違えばさほどの意味もないだろう。いずれにしてもムリヤリな印象だけが残ってしまう。
そんなモヤモヤした気分が残ったまま、モントレーカーウィークの最中にGT-R50の実物と遭遇した。ところは今、カーウィーク中で最も人気のあるイベント“モータースポーツギャザリング”。GT-Rニスモと並んで、その勇姿があった。
年末に生産開始、日本人のオーダーも
モヤモヤ気分を吹き飛ばすほどの存在感に、まずはひと安心。ブガッティやパガーニ、ケーニグセグといったウルトラハイパーカーの最新モデルが集うクエイルロッジにあって、日本人のひいき目かも知れないけれど見劣りしない。しかも、イベント会場まで自走でやってきたらしく、触れたら壊れそうなコンセプトカーやショーカー、プロトタイプの類とはまるで異なる、生々しい雰囲気さえ醸し出していた。
これで、720馬力&780Nmの世界限定50台以下というのであれば、1億円以上でもきっと売れることだろう。そんな確信をいだいて、初対面は終わったのだった。
翌日。奇跡が起きた。日産&ダッツン(DATSUN)をメインテーマのひとつとしてラグナセカ開催されていた“モータースポーツ・リユニオン”(戦前から90年代前半くらいまのでありとあらゆるクラシックレーシングカーによるレースイベント)。そのブース近くに、くだんのGT-R50と同ニスモが飾ってあった。
近づいてみれば、そこにイタルデザインのチーフデザイナー、フィリッポ・ペッリーニがいた。彼とはランボルギーニ時代からの友人で、イタルデザインがVWアウディグループに吸収されてからも親しくしている。都合よく、日産のデザイントップに就任したばかりのアルフォンソ・アルペイザや、元トップの中村史郎さんも居合わせた。
みんなと握手をしたのち、どうして日産とイタルデザインなの?と、誰とはなしに聞いてみれば、アルフォンソが「その昔、コンパクトカーの提案などで付き合いはあったんだよ」という。イタルデザイン側も、「昔のアーカイブには日産に向けた企画がけっこうあった」と話を合わせる。まぁ、それぐらいのことはどこのメーカーともあっただろうなぁ、と思いつつ、いちおう無関係ではないと分かったところで、GT-R50について雑談を続けた。
関係者の発言から分かったことは、すでに引き合いもけっこうあって日本からのオーダーも入ったことや、年末には生産が始まること、来年の今ごろには最初のオーナーへデリバリーできるだろうこと、プロトタイプのコンフィギュレーションにこだわることなくフルカスタマイズが可能なこと、その場合、イタルデザインに来てデザイナーと相談しながら仕様決めすること、などだ。
なかでも、フィリッポやイタルデザインのスタッフが、「たった5か月で、ここまで完全に走るショーカーを造ることは、なかなかチャレンジングなプロジェクトだったよ。完成した暁にはポテンシャルカスタマーや君たちジャーナリストにも乗ってもらいたかったからね」というので、すぐさまリアクトしてみる。
“ボクも乗りたい!”
1億円のGT-Rに試乗
さらにまた、その翌日。ボクは朝から珍しく、昨日と同じラグナセカにいた。例年ならば、ペブルビーチゴルフコースで開催される“コンクール・デレガンス”で名車たちを舐め回している時間帯に、だ。
ちょっとした奇跡が起きた。ボクも乗ってみたい。そうダメもとでフィリッポに言ってみれば、日曜の朝にチャンスがあるかもしれない、という。急ぎイタルデザインの広報担当が現地の日産スタッフと調整してくれた結果、“まんまと”空きスロットを確保してもらえたのだ。それが日曜朝、観衆の前でデモランするという、願ってもないチャンスだった。
イタルデザイン広報担当の駆るGT-Rニスモについて走る、という。壊しちゃいけないからゆっくり行くぞ、と言われて、ラグナセカで乗れただけ感謝しなきゃな、と、慎重にコースインしてみれば……。
すると、どうだ。ニスモは全開で走っていくじゃないか。話が違うよ~、と叫びつつ、必死でくらいつく。ニスモのリアウィングにカメラが付いていたから、離れてしまっちゃ、意味がない。
おかげで1億円のGT-Rに乗っている、という気負いもなくなり、なんだかフツウにGT-Rでサーキットを攻めている気分に。そう、ちゃんとGT-Rとして走るように造られている。フィリッポの言ったことはウソじゃなかった。
あっという間の2周でわかったこと
加速やハンドリングの質もサウンドも、ノーマルとはまるで違う!と言いたいところだけれども、久々のラグナセカ、恥ずかしくないように走ろうという気持ちでいっぱいだった。サーキットではその場で比較しないと、なかなか違いを知るのは難しい。
名物コークスクリュー後に必ず前を行くニスモに離されてしまう。直角に何も見えないコースを曲がったあと、すぐにアクセルペダルを踏めないのだ、怖くて。相変わらず下手クソ(以前もそうだった)だよなぁ、もっとグランツーリズモで修行しなきゃ、と歯ぎしりしているうちに、2周などあっという間だった。
分かったことといえば、やっぱりGT-Rは速いということと、サーキットをそれなりの速度で安心して飛ばせるということ。720馬力を実感するまでには至らなかったけれども、GT-R50がマトモに走ってくれること。高速コーナリングの姿勢が気持ちよかったこと。そして、何より、コーナーを駆けぬけるGT-R50の姿を想像しながら走ることが何より気持ちよかったこと、だった。
このド派手なGT-R50の完成度はとても高く、大いに期待できるであろうことを、実際にサーキットで乗って確かめられただけでも収穫というものだ。
ちまたのスーパーカーオーナーだって、700、800馬力をすぐに試して速いと言ってるわけじゃ、ないのだから。
西川淳|自動車ライター/編集者
産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰して自動車を眺めることを理想とする。高額車、スポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域が得意。中古車事情にも通じる。永遠のスーパーカー少年。自動車における趣味と実用の建設的な分離と両立が最近のテーマ。精密機械工学部出身。