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三河湾の離島を走った自動運転バス…「2021年度に実用化」「2日半かかる経路マッピングを1時間で」
名古屋から名鉄特急と名鉄海上観光船で1時間半。知多半島と渥美半島の間、三河湾に浮かぶ小さな島、愛知県日間賀島(ひまかじま)。新鮮なタコやフグ、海苔と、穏やかな時間を求めてやってくる観光客でにぎわうこの日間賀島の外周を、自動運転バスが走った。
全国に先駆けて2016年度から自動運転の実証実験を重ねてきた愛知県は、2019年2月に一宮市の一般公道で5Gを活用した遠隔型自動運転を、2019年3月には中部国際空港で複数台の遠隔型自動運転を実証実験。2020年最初の実験は、この日間賀島で「離島における観光型MaaSによる移動」をテーマに、自動運転バスを中心に、顔認証乗降・遠隔監視・V2N・シェアサイクルなどを組み合わせた実証実験を1月25~27日に行った。
事業主体は、NTTドコモ、アイサンテクノロジー、名古屋鉄道、日本信号、名古屋大学、ティアフォー、岡谷鋼機、損害保険ジャパン日本興亜。協力は、南知多町、日間賀島漁業協同組合、日間賀島地区区長会、日間賀島観光協会、名鉄バス、名鉄海上観光船、メイテツコム、名鉄EIエンジニア、埼玉工業大学。
今回の「離島における観光型MaaSによる移動」実験は、鉄道の切符に付属するQRコードを介し、名古屋から日間賀島までの鉄道と船舶の乗り継ぎ情報、島内の自動運転バスの運行時間、シェアサイクル、観光情報といった観光客にとって必要な情報をスマートフォンなどに一元的に提供。MaaS による移動サービスを一般観光客たちに体感させるというプログラム。
◆国内初、車内転倒防止支援技術システムを実装
自動運転バスは、埼玉工業大学の自動運転バスを活用。日野自動車のマイクロバス『リエッセII』をベースに、自動運転AIを実装。オープンソースで普及が進む自動運転 Autoware を採用し、AIで障害物を検知(識別・分類)する機能を常に更新。LiDARやカメラの画像情報をディープラーニング(深層学習)とあわせ、周囲環境をAIで認識して障害物を回避して走ることもできる。
埼玉工業大学 自動運転バスは、専用レーンでだけでなく一般公道を自動運転(レベル3)で走れることから、既存車両を活かした経済性の高い車両として、路線バス事業者や自治体などがこのバスの進化に注目している。
この埼工大自動運転バスに今回、国内初のシステムが搭載された。アイシン精機・名鉄バス・愛知県立大学の3者が共同で開発する車内転倒防止支援技術だ。左サイドの乗降ステップの向かい側にカメラを設置し、バスに乗り込むときの動作特徴から、動的バランス能力を推定。その大きさから転倒しそうな人を事前に把握し、その情報をリアルタイムに乗務員や遠隔監視者に伝え、よりなめらかにゆっくり発車するなどの対策を打つという仕組みだ。
「車内転倒防止支援技術システムを、自動運転車両に実装するのは国内初。実は、路線バスの転倒事故の4割は発車時に起きる。こうした事故で行政罰を受けると、新規路線が引けないという事態につながる。そこでこうした車内転倒防止支援技術システムで、事前に転倒しそうな客をチェックし、乗務員にアラートを送り、ゆっくり発進する、または着席するまで発進しないという対策がとれる」(名鉄バス)
◆愛知県知事も試乗「2021年度にでも実用化できるんじゃないか」
また、NECのクラウドシステムによる顔認証システムも搭載。今回は乗降口にタブレットを置き、事前に登録したユーザの顔情報を認識し、交通系ICカードなどをかざすこともなく、顔パスで路線バスに乗るという近未来の路線バス乗車シーンも体験できた。この顔認証のアプリケーションを開発したメイテツコムは、「乗車の流れを止めないように、すばやく顔認証できるようにチューニングした。複数の顔をタブレットがスキャンした場合は、一番大きい顔を認識する」と話していた。
初日の1月25日には、事業主体・協力の各企業・団体の幹部陣をはじめ、愛知県 大村秀章 県知事らが試乗。「自動運転車両もだいぶ進化して、ほんとうになめらかに走ってくれていると実感した。安全性などを担保できるようになれば、もう2021年度にでも実用化できるんじゃないか」と大村知事はコメントした。
実際に乗ってみると、2019年8月に登場したばかりの埼工大 自動運転バスの進化が乗り心地でわかる。路面の段差などを経路スキャン時にメモリさせ、小さなピッチングも感じさせないように段差部分はゆっくり走る。また、センサ類が常に更新されていることで、S字カーブや下り坂も、想像以上に加速し勢いよく通過していく。
◆埼玉工業大学 渡部大志教授「2.5日かかる経路マッピングを1時間で」
また、観光客が多い道では、運転手がすぐブレーキに足を置き、マニュアル運転に戻す。それでもすぐに自動運転に復帰し、すばやい加速で再び駆け出す。これも、最適な本番運行をめざして事前に経路マッピング(スキャン)を何度も重ねてきたことで実現する。
「この経路マッピングに、今回の日間賀島自動走行では2日半かかった。これを近いうちに、1時間でクリアできるように。そして目標は、事前の経路マッピングなしで、ぶっつけ本番で自動で走れるようにしたい」。そう語るのは、この自動運転バスを開発する埼玉工業大学工学部情報システム学科の渡部大志教授(埼玉工業大学自動運転技術開発センター長)。
「画像認識・センサー類のアルゴリズムを常に更新することで、挙動もよりなめらかに、経路をしっかりトレースして走るようになった。たとえば、排水を考慮して路面が傾いている区間などで、その傾きで車体が経路からずれていくのを自動で小刻みに修正しながら経路をトレースするという動きがあった。今回は、そうした修正も感じず、どんな路面にも経路通りにしっかり走ることを実感した」
「今後は、路線バス事業者の乗務員の感性にあわせた自動運転バスをめざしたい。運転士は、その土地の道路環境や交通文化を把握している。見通しの悪い区間、人やクルマが飛び出してくるポイントなどは、乗務員が身体で覚えているもの。そこに自動運転AIが寄り添いながら最適な自動運転が実現する。そこが大事だと思っている。人間を切り離してすべてを自動化させるという考え方ではない」
おだやかな日間賀島に埼玉工業大学の自動運転バスが走る3日間。期間中は、関東の大手路線バス事業者をはじめ、名古屋・大阪・博多エリアの路線バス事業者の幹部陣が日間賀島に訪れ、この自動運転バスを体感したという。