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2019年の“イワサダ賞”を勝手に表彰!クルマ・人・技術・制度【岩貞るみこの人道車医】
【2019年の車・人・技術・制度】2019年も終わろうとしている。ついこの間、書初めをして一年の目標を立てたばかりだというのに(今年の四字熟語は「万里一空」。世界はどこまでいっても空は一つ。一つの目標に向かって精進するという意味で選びました)、その目標の達成もしたかどうか怪しいというのに、もう次の四字熟語の検討に入るという有様である。歳はとりたくない……。
飛ぶように流れる年月のなか、2019年の“イワサダ賞”を選んでみた。
【クルマ】
2019年に試乗して一番面白かったのは、シトロエン『C3エアクロス』である。開発技術が上がり、どのクルマも電子制御だボディ剛性の向上だと、いい子街道をまっしぐらに突っ走るなか、人間臭くて、今のモノサシで測るとあふれ出るダメっぷり。我が道を行くこのマイペースぶりに、周囲の目にびくつく自分を恥じて羨ましさすら感じる。
自分の信じる道というか、自分がいいと思ったらそれでいいじゃん好きなクルマに乗ろうよ的なメッセージもたまらなく温かく心に沁みる。次はこれだなと思いつつも、現在所有しているクルマとはあと7年付き合うつもりなので、7年後もこのクルマが、このマイペースでいてくれることを切に願っている(たぶん無理?)。
【人】
今年お会いした人のマン・オブ・ザ・イヤーは、長野県伊那市の白鳥孝市長である。実際、私がお目にかかったのは、ほんの十数分なのだけれど、伊那市役所の方々の意識の高さを見ていると白鳥市長のリーダーシップのすばらしさがよくわかる。
「他の市町村がやっていて大丈夫そうだからうちもやろう、という考えを捨てろ。どこよりも最初に取り組め。」
「失敗はしていい。そこから学べ。」
もともと伊那市には、新しくICTに取り組む土壌があったけれど、白鳥市長が就任してからそれが加速したと思う。自動運転の実証実験でも、自動運転の車両を走らせることが目的ではなく、これを使っていかに市民の幸福度を上げられるかを常に考えている。
市民の幸福度。なんて素敵なフレーズ。
自動運転が走ることで、外出の機会を増やす>健康を保ちやすくなる>健康保険料の支出を抑える、と、シナジー効果を考えて実現していく様は、まさに自動運転が起こす生活のイノベーション。こうした動きは、ぜひ、ほかの市町村にも波及していくといいのにと思う。
【技術】
日産のプロパイロット2.0。正直なところ、日産の誤解させちゃう広告の打ち方に文句はあるし、誤使用させない努力をもっとしようよと思う。けれど、『スカイライン』に搭載されたプロパイロット2.0は、衝撃的だった。手放し運転したときの視界の広がりは初めて味わう解放感。これ、正しく利用したら運転がもっと楽しくなると確信した次第。
そう、あくまでも正しく利用したらという条件つき。絶対、過信しないように。誤使用しないように! ちゃんと使いましょう! と、改めて強く訴えておく。
【制度】
国交省が、2021年11月から新型車への被害軽減ブレーキの義務化を決めたことも捨てがたいけれど、今年の一番は、警察庁がレベル3の道交法を整備したことである。
レベル3は、ドライバーに課せられている周囲の監視義務を、一時的であれシステムが担う。もちろんシステムは不完全なので、道路環境や天候などの条件が悪くなれば「もう無理です、運転代わって!」とSOSを出してくる。つまり、システムとドライバーが交代しながら運転をすることになる(私は勝手に「交代型自動運転」と呼んでいる)。
ゆえに、「システムが運転交代を要請してきたとき、人間はちゃんと受け取れるのか。」「どんな音やサインで伝えるのか。」「受け取れなかったら事故が増えるのではないか。」と、さまざまな不安と反対意見が飛び交っていた。
でも、警察庁が示した道交法案は、「システムが運転交代を要請してきたら、ドライバーはすみやかに代わること(岩貞訳)」というもの。交代し損ねて事故を起こしたら、ドライバーの過失と見なされる。つまり、いつ「代わって」と言われてもいい状態で運転席にいることが道交法で義務付けられたわけだ。
ユーザーは、なんだ、面倒くさいと感じるかもしれないけれど、でもこう決めたことで、自動車メーカーの開発はぐーっとしやすくなった。実際、ホンダは2020年にレベル3(最初は高速道路渋滞時のみ)を出すという話も出ているし。
さて、2020年は、東京オリパライヤー。この記念すべき年に、どんなクルマが現れて、どんな技術が出てくるのか。そして、未来を変えるために動く志ある人たちがどんな動きをするのか、本当に楽しみである。
みなさん、よいお年をお迎えください。
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。