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【ダイハツ タント 新型】ダイハツのDNAを再考、“知ったか”をなくした…デザイナー[インタビュー]
日本カーオブザイヤー2019-2020の10ベストカーに選ばれたダイハツ『タント』。そのデザインは、ダイハツのDNAの追及から始まったという。
◆DNA第一弾はまずダイハツブランドから考えて
—-:新型タントはDNGA第一弾です。これまでとはプラットフォームから全てを一新するクルマですが、それをデザインするにあたり、どういうことを考えていったのでしょうか。
ダイハツデザイン部第一デザイン室主査の才脇卓也氏(以下敬称略):まずいきなりタントというクルマについて考えずに、ダイハツらしさとは何か、“Dブランド活動”を1年間かけて行いました。ちょうど設計もDNGAのシャシー周りやボディ設計など、全部品をゼロから見直し、軽からA/Bセグメントまで部品ごとのシナリオを作っていた時期でもありましたのでそれも踏まえていました。
この活動は、ちょうどトヨタ自動車の子会社になった頃で、社長から、今一度ダイハツとは何なのかというのを全社で考えよう、と。しかしこれは社長がいうものではなく、まず一人一人、それぞれの部署で考えようと、デザイン部でも行っていたものです。
我々の先輩たちが築いてきたダイハツらしさ、例えば“志”を“技”で表現するなどの言葉はありました。この良いところはきちんと継承しながらこれまで110年続けてきました。そして次のダイハツらしさをもう1度見つめ直そう。その時に表題として我々が出したのが“Always Beside You”、いつもダイハツはあなたのそばにいるという意味です。お客様に寄り添うということでは、ダイハツは等身大の相棒として、近すぎない、頑張りすぎない身の丈自然体であるべきだという考え方を示したものです。
◆“ダイハツらしさ、ならでは、遊び心”のDNA
よくDNAといいますが、ダイハツらしさのDは例えば良品廉価、親しみ、一目見てわかりやすいなど、これまで110年間大事にしてきたものをきちんと継承しようと考えました。
また、ダイハツならでは(DNAのN)として他社より優れているようなところ、機能美や高効率、他社のように顔を固定するのではなく、色々な顔をバラエティを持ってやっていきたいというものがあります。
ただし、この2つだけでは今までと変わりません。次の新たな100年を切り開くという意味で、楽しさ、遊び心(DNAのA)や、介護まで含めたホスピタリティといった要素も入れていこうと考え、社長や会長にもデザイン部が考えたダイハツらしさについてプレゼンテーションしました。その結果、Light You Upを一番上に置き、開発側の商品ブランドの考え方(Always Beside You)として、DNGAの土台作りを始める頃に入れていったのです。これは思想がないと良品廉価だけになってしまい、設計の人はややもすると安い、廉価だけになってしまいます。そこでこういう考え方を示した上で、進めていきました。
◆見て乗って触って、すっぴん美人
一方、クルマの基本は見て触って乗ってという三拍子が最も重要です。そこでデザイナーとクルマを感覚的に評価する実験部や性能開発部と複合チームを作り、“見て乗って触って活動、Dブランド性能活動”を行いました。
フィロソフィとして、言葉ではなく一目見て虜にするようなダイハツ車を目指したい。そこでエクステリアデザインの合言葉として、例えば“すっぴん美人”、素の魅力を掲げました。インテリアは高級車などでは服装もきちんとして乗らなければいけないとなりがちですが、ダイハツ車の場合は普段行き慣れている居酒屋などで感じるような、居心地が良い空間を目指そう。カラーも日常での色という狙いをきちんと立てました。触ってもしっくりくる、わかりやすい、こういうことを考え方として持った上で、その第一弾がタントだったのです。
通常の先行開発ですと、いきなりスタイリングから入ったりするものですが、こういう土台作りが実はタントの先行開発だったのです。
◆お客様視点で“知ったか”しない開発を
—-:先行開発というよりは、ダイハツというブランド自体を見直したイメージですね。では、そこから具体的にどのように落とし込んでいったのでしょう。
才脇:タントの場合、これまではスペースを主に追及していましたが、もっと色々な機能を持たせよう、もしくは視界を良くするにはどうしたらよいか。そういったことを先行開発で進めました。そこでタントのデザインコンセプトを“タントゼロ”としたのです。このゼロとは、3つあります。ひとつはDブランド性能活動で、商品視点として素の魅力、すっぴん美人、居心地の良い空間をこのクルマで実現させようというものです。
もうひとつはお客様視点としてゼロから考える。今までの当たり前を見直すために、“だろう”、“知ったか”から脱却を意味します。例えば色々なユーザー調査がありますが、商品企画に頼むと調査会社を通じて行われ、お客様も調査会社を通じると正直な回答ではない時もあり得ます。それは真の姿ではないですよね。そこで自分たちで突撃インタビューを行いました。
そこで気付かされた例として、先代ではセンタークラスターの下にトレーがあってそこにシガープラグがあるのですが、そこからスマホなどの電源を取ることを想定していました。そのトレーが隠れていてしかも小さい。我々はそこにスマホを置いたらいいのにと思っていたのですが、結局はシートの上に置いていたり……。そのほか、一番置きたいティッシュもはみ出ていたりなど、こういう生の姿を観察させてもらったり、あるいはディーラーでタントに乗っている人のクルマを生で見せてもらったりもしました。
そうすると先代で自分たちが小分けに乗せると考えていたものが、想定した使い方を全くしていなかった。そこでこういった生の姿をちゃんと見て、「知ったか」ではなく事実を見つめようとしました。
最後はLight You Upの考え方。それは真面目一辺倒のダイハツから、楽しさやユニークさ、刺激的なこともやっていこうという話もありましたので、その考え方をしっかり織り込むというカンパニー視点です。この3つの新型タントに折り込むということでした。
従来の“何々感”や、形容詞のような表現ではない。DNGA第一弾ですから、開発初期からこの話が盛り上がりました。先行開発でやってきたものもやりっぱなしではなく、織り込んでものにするのが大事、それこそDNGAなのです。
—-:では、それらを新型タントに反映したところを教えてください。
才脇:「当たり前を見直す」では、人の動きや動線を踏まえ、ワーキングママの収納の仕方を見ると、さっと使えてざっくり置けてスッキリ見せたいことがわかりました。例えば先ほどのトレーのところにはティッシュも十分置ける容量を持たせざっくりしたものを置ける領域とし、さっと置けるものは細かいスペース。また、運転席前には蓋つきのボックスがありますが、結構上の方にあるのでスッキリと見せています。そういった主婦が考えているようなところを収納の分野では盛り込みました。
◆ヘルメットからインスピレーションを得たCピラー周りは遊び心
—-:DNA の中ではA(遊び心、楽しさ)はどのように表現されていますか。
才脇:エクステリアのCピラー周りはヘルメットからインスピレーションを得ています。これはキャビンをクォーターピラーからシームレスな面で全体をぐるりと包んでいるような印象を与え、なるべく一枚の面でキャラクターラインに頼ることなく全体を覆うようにしています。
先代や先々代はプレスラインがボディをぐるりと囲んで、比率も頭でっかちの仮分数な表現でした。新型は1枚の面でつなぐことにより、全体で広さを見せています。実はアレンジはほとんど変わっていなのですが、2台並べたらこちらの方が大きく見えると思います。プレスラインも先代はどちらかというとネガ印象ですが、今回は全て凸の張り方向で表現してもいます。
フロントウィンドウは極力オーバルにラウンドさせて、視界の良さを確保。ぐるっとボディを包んでいるところが狙いです。そういったところから今までのタントの親しみやすさなどは持たせつつも、少し違う表現の仕方が出来ないかとデザインしていきました。
◆黄金比ではなく白銀比
—-:では今までのタントらしさはエクステリアのどこで表現されているのでしょう。
才脇:言葉でいうと親しみやすさ。新型では親しみに加えて楽しさ方向も取り入れています。
ウィンドウとボディの比率に「黄金比」があります。これは大きいクルマや美しいかっこいいクルマで感じられる比率なのですが、すっぴん美人などの言葉を表現するものに定量的に何かないかと考えました。実は『N-BOX』は黄金比なのですが、我々は「白銀比」を取り入れました。
これはアイドルの顔であるとか、キティちゃんの顔、子供の顔などで見られる比率で、これが親しみ表現になるのではないかと考えたのです。そこでベルトラインとウィンドウの比率も白銀比に収めています。そのようにして定量的な考えが入っていることを説得材料として提案していきました。
また、ランプ類は極力薄めにして、シンボリックにアイコニックになるようにデザインしています。ベルトラインはそう高くはないのですが、高く見えているのはランプの位置を薄く高くしているからです。またフロントもある程度厚みもあるので安心安全感が表現出来てもいます。
操作系もバーチカルレイアウトといっていますが、輸入車などでステアリングの右ボタンを押すと対角線側が光るなど操作がぐしゃぐしゃになっているものがあります。それを極力操作の延長線上、シフトレバーの上にシフトと表示があるとか、オートクルーズなどもステアリングの右側スイッチであればメーターの右側に表示されるなど、なるべく操作と視認性を平行にしています。これがストレスフリー、直感操作につながった居心地空間になっているのです。
◆ベイマックスのように優しく守ってくれる存在
—-:標準車もカスタムも、顔つきにいやらしさはなく新鮮な感じがしますね。
才脇:これまでは持っているものに価値観などを感じていましたが、だんだんとモノからコトへの消費に移行してきています。ヤングシニアユーザーはスーツでいうとスリムでさりげない装飾を好みます。そこで、先進洗練や要素が明快でシンプルであるとか、効かせどころに加飾を示すなど、さりげない光り物も機能にうまく引っ掛けたターンランプなどもカスタムでは採用しています。加飾ありきではなく機能ありきでそこに加飾を合わせようということです。
実は、現在のカスタムは、派生車ぐらいのイメージでした。ダイハツがカスタムという世界を切り開いたのですが、もうそろそろいいのかもしれない。本部長も「カスタムと呼ぶな」と最初はいっていました。しかし、いきなり変えることは出来ませんので、少し以前の様子を入れながら大人のカスタムを目指そうとしたのです。
—-:確かにそちらに向かっているのでしょう。今の軽ユーザーはそのクルマで自己表現するのではなく、そのクルマで何が出来るのかという方向になってきています。そういう意味ではこちらの方が合っているように思います。
才脇:洗練・上質方向で、標準は親しみやすく楽しさや頼もしさを表現しています。この頼もしさもガチガチではなくてちょっとゆるい頼もしさ。ディズニー映画のベイマックス、これが優しく守ってくれているようなイメージですね。N-BOXは質実剛健でがっちりとキャビンを守っているのに対し、ダイハツはそうではなくブランド表現やベイマックスのような親しみやすさも表現しています。そこが他社とは違うダイハツならではのところなのです。