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「オート化をチャンスに」神姫バスが自動運転バスを公道で実証運行、各種スマートシティ体験 12月9日まで実施中
山陽新幹線相生駅から北へクルマで30分。標高300mを超える山間にある大型放射光施設 SPring-8(兵庫県佐用町)のまわりを、オレンジ色の日野『リエッセII』ベース自動運転バスが行く。これ、12月5~9日に実施する自動運転公道実証運行の初日の光景。
プロジェクト名は、自動運転公道実証運行「スマートシティ・ラボ@播磨科学公園都市」。この日野『リエッセII』ベースの自動運転バス、どこかで見た記憶がある。埼玉工業大学が開発する自動運転AIバスにそっくり。
それもそのはず。これ、埼玉工業大学の自動運転AIバスに神姫バスの路線バスデザインをラッピングしたモデルで、「埼玉・深谷の大学構内からここ佐用町まで自走で回送し、神姫バスで半日かけてラッピングした」。そう話すのは、埼玉工業大学工学部情報システム学科の渡部大志教授(埼玉工業大学自動運転技術開発センター長)だ。
「神姫バスから依頼を受け、埼玉工業大学側からドライバー1名、学生5名、合計7人で5日間の実証実験に参加する。前日まで3Dマッピング作業を続け、ルートを読み込ませた。各地で公道実験を重ねてきて、ルート読み込みが速くなってきて、直線路はほぼ1回で確実に読み込むようになった」(埼工大渡部教授)
◆自動運転レベル3、最高速度50km/h
ルートは、大型放射光施設 SPring-8の南にある芝生広場から出発し、約3km離れた理化学研究所を折り返して戻ってくる所要時間20分の道のり。途中には信号のない交差点や、ゆるやかな坂道もある。坂道にさしかかるとアクセル量が自動でじわっと増え、事前にインプットさせたスピードを守って走る。最高速度は50km/hに設定した。
また、なるべくリアルな運行に近づけるべく、理化学研究所に設置されたバス停に定時に到着し、指定時刻に出発するというデモも行う。出発地点の芝生広場に併設されているまた施設 光都プラザには監視ルームを設置し、自動運転AIバスを遠隔で監視する。
この自動運転公道実証運行「スマートシティ・ラボ@播磨科学公園都市」は、神姫バス、ウエスト神姫、アイサンテクノロジー、ティアフォー、ダイナミックマップ基盤、損害保険ジャパン日本興亜、KDDI、兵庫県 企業庁・西播磨県民局、たつの市、上郡町、佐用町が主催。この埼玉工業大学 自動運転AIバスのほかに、ヤマハ発動機の市販電動ゴルフカートにティアフォーの自動運転システムを搭載した『Milee』(マイリー)や、電動キックボード、超小型EVが限定区域内で走る。
◆神姫バスが描く次世代モビリティの実現にむけて
「2018年5月には、今回の実証実験エリアから200メートル先にある大型放射光施設 SPring-8 で、SBドライブの自動運転バス『NAVYA ARMA』を使って実証実験を行った。NAVYA ARMA はナンバーがないため SPring-8 敷地内での実験で、神姫バス社員が遠隔操作などを経験。これを機にことし6月から神姫バス内に次世代モビリティ推進室を設置し、バス事業者が地域に貢献できる次の手を考え始めた」と話すのは、神姫バス 次世代モビリティ推進室 須和憲和 部長。
「今回は、ナンバーがつく埼玉工業大学 自動運転バスで、公道を走らせての実証実験にステップアップ。民間バス事業者が埼玉工業大学の自動運転バスを走らせて実証実験するのは国内で初めて。神姫バスの一般路線でハンドルを握るドライバー2名が担当する」
「今回の自動運転実証実験を足がかりに、埼玉工業大学の自動運転バスに装備されている自動運転ソフトウェア Autoware や、LiDAR などのセンサー類、埼玉工業大学の画像解析技術などを共有し、神姫バスが描く次世代モビリティの具現化に役立てたい」(神姫バス 須和部長)
◆これまでと違った職種でバス会社の人材が活かされる
全国各地、どの路線バス事業社もドライバー不足や人材確保に悩んでいるなか、神姫バスは「自動化はひとつのチャンス」ととらえ、バスにとらわれない幅広い次世代モビリティ構想を描き、具現化へむけて走り出した。
「われわれが考える次世代モビリティは、『バス会社だからこそ、走らせるのはバスだけじゃない』という発想。これまでにない次世代モビリティを、柔軟に走らせることで地域の移動を支えていける、地域を活性化させられると思っている」
「車両がどこまで自動化されても、人がそこに関わることは変わりない。むしろ自動運転バスが普及すれば、たとえば遠隔操作やオペレーション、保安要員など、これまでと違った職種でバス会社の人材が活かされるはず」(神姫バス須和部長)
標高300mを超える山間を走り出した、国内初の「神姫バス×埼玉工業大学」自動運転AIバス。今回の公道実証実験で得たノウハウをもとに、山陽新幹線 相生駅とこの先進研究施設エリアを結ぶ既存路線バスと接続する「エリア内循環型 次世代モビリティ」の実現にむけた取り組みを前進させる。