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自動運転の事故時、証言はどうする? 真実を記録する「EDR」【岩貞るみこの人道車医】
【事故の真実を記録するEDR】2019年11月、警察庁が後援する自動車安全運転シンポジウムが開催された。テーマは「自動運転社会の展望~レベル3時代の到来と運転者の役割」である。
レベル3。これまでは、ジュネーブ条約のくくりがあって全世界的に販売できなかった。しかし、各国があの手この手で条約を「解釈」してレベル3の実現にこぎつけようとしている。レベル3時代はすぐそこなのだ。
自動運転技術のレベル分け。技術開発向けの分類なのでわかりにくいが、改めて説明すると、レベル2までは、被害軽減ブレーキや車線逸脱防止装置などのいわゆる運転支援技術が搭載されたクルマ。周囲の監視義務やいざというときの事故の責任はドライバーにあり、現在も販売されている。
しかしレベル3になるとシステムが運転する、つまり自動運転。その監視義務と事故責任がシステムに移る。でも、レベル3はまだシステムが完璧じゃないから「霧がでちゃってもう無理~」とギブするとドライバーに「代わって」と交代を要請してくる。
ゆえに私は勝手にレベル3を「交代型自動運転」と呼んでいる。
◆自動運転の事故時、証言はどうするのか?
となるとシステムが「代わって」とどう伝えるかだ。「そんな伝え方じゃわからないよ!」と、私のようなワガママな女が暴れかねないため、一部の開発者のなかには「レベル3の実現は不可能」という人もいる。ただ、レベル3の道交法を整えた警察庁の改正道路交通法(2020年春あたりに施行)のなかにはしっかりと「システムが交代を要求したら、引き継げる状態であること」と明記してある。「そんな伝え方じゃ……」と、ドライバーは暴れることなく引き継ぐことが義務付けられているのだ。
さて、引継ぎ問題をどうするか、引き継がなかったらどうなるかなど現段階ではあれこれ言われているけれど、レベル3で私が一番気になるのは、
『事故時の証言はどうするのか?』
ということである。
これまで事故を起こしたときは、事故の当事者=ドライバーが(意識のある場合)証言していた。一時停止はちゃんとしたとか、横から急に自転車が出てきたとか、となりのクルマが急に車線変更をしてきたとか。
しかし、レベル3で走行中、ドライバーは周囲を見ていない。事故の瞬間、どんな状況でなにが起こったか証言できないのである。
そこで強く訴えたいのは、EDR(Event Data Recorder)の標準装備化である。衝撃の前後の車両状態を保存するこのシステムは、アクセル開度やブレーキの状態、時速や、どちらの方向からどのくらいの強さでぶつかったかまで記録しようと思えば記録できる。アクセルとブレーキの踏み間違えはもちろん、多重事故のときも、どのクルマがどうぶつかったかがすべてわかるのだ。
◆EDRの標準化へ
もともと、エアバッグが正しく展開したかどうかを記録するものだったけれど、メーカーによっては記録する項目を増やしている。北米や中国ではついに搭載が義務化され、欧州でもその動きが強い。でも、なぜか日本は遅れ気味なのだ。古いシステムを使っている車両は、EDRに記録を集約できないものがある、というのが理由のひとつらしい。
うーん、もうそんなこと言っている場合じゃないでしょうと思うのだけど。
ドラレコがあればいいという声もあるけれど、アクセルとブレーキを踏み間違えたかどうかは、ドラレコではわからない。
そんななか、国交省から情報があった。国際基準策定スケジュールでは、2020年11月までに、EDRの基準(なにを記録させるのか)を策定するとのことである。基準が決まれば標準化へ一気に進む……と期待したい。
EDRデータを解析できる人の養成、EDRの信用性など確かに課題もあるけれど、レベル3に限らず、事故のときの正確な事故状況を把握することは大事なこと。EDRが装備されたら、警察庁の事故調査のやり方も劇的に変わる。止まった止まらないという当事者同士の不毛な時間もなくなる。早期導入、期待しています。
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。