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いま日本の自動運転は? ODD設計に安全の担保、責任の所在…SIPシンポジウム
少子高齢化、地方の過疎化、格差の拡大……。そんな課題がいまも解決の糸口ないままでいるニッポン。そこに「自動運転はこうした課題の克服に役立つ」と明言し、持続可能な社会での自動運転の役割について話し合うシンポジウムが、東京モーターショー開催にあわせて行われた。
SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)自動運転シンポジウム「持続可能な社会における自動運転の役割~安全・安心な未来に向けて~」(11月2日、東京ビッグサイト)に登壇したのは、SIP自動運転の葛巻清吾プログラムディレクター、神奈川県庁の山口健太郎SDGs担当、長野県伊那市役所の飯島智企画部長、SIP自動運転有本建男サブ・プログラムディレクター、国土交通省自動運転戦略室の平澤崇裕室長、警察庁の堀内尚長官官房参事官、日本自動車工業会自動運転検討会の横山利夫主査、国際自動車ジャーナリストの清水和夫(ファシリテーター)の8名。
今回のシンポジウムで何度も出てきたキーワードが、ODD(Operational Design Domain)。自動運転システムが正常に作動する前提となる設計上の走行環境に関係する特有の条件で、「運行設計領域」のことだ。
清水ファシリテーターは冒頭、自動運転の「人より安全であることの証明」として、安全確保にむけた具体策に「実際の交通ユースケースをデータ収集」「走行条件や速度・場所などを含めたODDの設計」をあげ、日本のSIP-adusやドイツのPegasusのようなシミュレーション評価を重ねることが必要と伝えた。
ここでいうSIP-adusは、内閣府を中心とし、関係府省・機関が連携して推進する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)自動走行システム/大規模実証実験の略称。国内はこの SIP-adus のもとで完全自動運転にむけた実証実験が国内各地で行われている。
自工会の横山主査は、「中間山地などの限定コースで低速で走るといったMaaS領域や、市街地限定エリア、高速道隊列走行など、限られたODDでの自動運転は実現へむけて加速している。いっぽうで、幅広いODDをもつモビリティは、レベル5 完全自動運転にむけ、時間をかけて検証を繰り返し可能エリアとレベルを上げていくことになる」と伝えた。
国内ではこれまで、自動運転実現にむけたワーキンググループを複数回重ね、2020年東京オリンピック・パラリンピックまで1年を切ったいま、高精度地図・インフラなどの環境整備の拡充にむけた実証実験が始まろうとしている。これまで段階的に、次のようなワーキンググループ(WG)を経て現在に至っている。
ユースケースWG:2015年~ 網羅的にUCの体系化(自専道 一般道)、交通流実勢調査、システム開発貢献
Human Factor WG:2017年~ システム状態表示、運転交代要求、Dr.状態検知、外向きHMI
AD安全性評価WG:2018年~ シナリオベース安全性評価、実環境観測DB、安全性論証基準、安全論証シナリオ体系
DSSAD対応WG:2018年~ 自動運転に関する作動状況記録保持、使用目的、運用手法、関連部会との連携
道交法対応WG:2018年12月~ 日本国の交通ルール(まずは運転操作関連)に関する条文解釈、具体的な事例確認
AD法規対応WG:2019年~ WP29国際基準調和対応(GRVA、IWG等)、日本国の安全ガイドライン、保安基準対応
そして今年、高精度3次元地図情報に加え、道路交通インフラから提供される本線合流支援情報や渋滞情報、信号情報などの動的情報や、ITS無線通信による信号情報の有効性を確認する実証実験が、都内湾岸エリアの一般道・高速道路でスタート。この実証実験には、フォルクスワーゲン『アルテオン』、BMW『7シリーズ』、レクサス『LX』『RX』をベースとした自動運転実験車両をはじめ、日野『リエッセII』ベースの埼玉工業大学 自動運転バスなども参加する。
このシンポジウムの翌日、11月3日には埼玉工業大学の自動運転バスが加須市内の公道で体験試乗を兼ねて走行。指揮をとる同大 渡部大志 教授は「SIPの実証実験に参画して得たノウハウを、路線バスや過疎地のコミュニティバスの自動運転化につなげたい。そしてAI人材育成の教材としても進化させたい」と話していた。
そこでいま問われているのが、自動運転に求められる安全だ。2021年ごろから高速道路上でレベル3の自動運転が始まるといわれるなか、安全はどう担保されるか。国交省 平澤崇裕 自動運転戦略室長はこう話す。
「ドライバーによるマニュアル運転に戻す基準についてもいろいろ検討しているところ。レベル3ではODDの枠を出るときにドライバーに伝えることになるけど、事前にどのタイミングで、どの距離で伝えるのが適切かなどを検討中。またいっぽうで難しいのは、大雨や豪雨などの急激な天候変化で、ドライバーにどう警報し手動運転に戻すかといった点」
また、ミニマルリスクマヌーバー(MRM、セーフティーネット)について平澤 室長は「ドライバーに警報しても運転を引き継いでくれない場合は、MRMで安全に停止させる。高速道路ならば安全に路肩に止めることをガイドラインに盛り込んでいる」と。横山 主査は、「こうした自動・手動の切り替えには、ドライバーモニタリングが要る。ドライバーに運転を委ねたいときに、ドライバーモニタリングで運転手を常に監視しながら実行するなども検討されている」と話す。
さらに警察庁 堀内尚 長官官房参事官は、「渋滞で前走車が一時停車しているときと、違法駐車や故障で走行車線にクルマが止まってるときを自動運転はどう区別するか。法律上は実際に黄色い線を越えて追い越すのは構わないとしているから、テクノロジーでその区別を確認しながら停止する・迂回して回避するという選択は技術的にできるだろう」と話していた。
同シンポジウムでは、こうした自動運転における安全にむけた取り組みのほか、自動車保険・損害保険などの責任課題、自動運転で広がるサービスなどについて話がすすんだ。
伊那市 飯島智 伊企画部長は、「市内でMaaSを検討するなかで一番の課題は、マネタイズ。自治体の立場からみると、ランニングコストが課題。実証実験の8割が国からの交付金でまかなっていることからも、人口が少ない街でのMaaS導入はどうビジネスモデルを構築するかが課題」とも話していた。