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マツダ、デザインタッチ2019に出展…出来なかった“あの”発表会のリベンジ[インタビュー]
マツダは東京ミッドタウン(東京都港区)で開催されているデザインタッチに『CX-30』を出展。ボディに映り込む光により、そのボディの美しさと躍動感を表現している。そこでこの仕掛人の二人に話を聞いた。
◆絶対に出展しなければいけない場所
—-:東京ミッドタウンで開催されるデザインタッチにマツダは8回目の出展となりましたが、ここに出展する意味はどういうものでしょう。
マツダ常務執行役員の前田育男氏(以下敬称略):このデザインタッチはミッドタウン全体でデザインのイベントを開催するものです。このようなデザインをもとにしたアーティスティックなイベントはそれほど多くはありません。デザインをブランドの柱としている我々として、ここは絶対に出展しないといけない場所だとずっと思っていましたし、しかもとても良い場所をいただけていますので、やめるわけにもいきません。
—-:過去、例えばクレイモデラーが来て実演をしたりしたこともありました。それに対し、今回は、ボディに光を当てるなどかなりアーティスティックな展示で、これまでとはかなり違った方向になっている印象です。その理由はどういうものでしょうか。
前田:実は前回からこういった試みを始めており、去年はVOGUE JAPANとコラボをしました。これはVOGUEのフォトグラファーが撮影したアートとクルマの親和性を伝えるということが目的でした。従って今回はアーティスティックに振った第2回目となり、より真髄に近づいているイメージです。我々は光のアートを追求していますので、同じように光でアートを表現しているWOWと協業出来たのは非常に嬉しかったし、良い機会だと思っています。
◆リベンジ第一弾!?
—-:クルマを絡めての光の企画は少ないと思います。於保さんとしてはこの企画をどう捉えていますか。
ビジュアルデザインスタジオWOWチーフクリエイティブディレクターの於保浩介氏(以下敬称略):僕らとしてはもちろんウェルカムなお話です。実は、いままでマツダとやろうとして出来なかったことがありましたので、リベンジしたかったのです。その時の規模ほどではないのですが、やろうとしていたことのひとつがここで出来たかなと思っています。お互いに変な妥協点なく、納得のいく形で作り上げられたのですごく嬉しいですね。
—-:そのやろうと思って出来なかったこととは何でしょう。
於保:2年前に『VISIONクーペ』が東京モーターショー2017で発表されましたが、実はこのモデル用の発表の舞台が整えられていたのです。すごく研ぎ澄ました、まさに僕らとマツダが考えていることを具現化した空間と演出を用意していました。しかし本当に残念なことに悪天候によって出来なくなってしまって……。それをどこかでやりたいと我々もマツダの方々も思っていましたので、少し小さいですがその片鱗を今回は見せられたかなと思っています。
前田:本当にそのイベントはやりたかったですね。すごい企画をして、準備をして。おそらく開催出来ていたら素晴らしいものになっていたでしょう。従って今回のものはリベンジ第一弾で、これでは終わらないですよ。
於保:VISIONクーペのデザインは研ぎ澄ました美しいものでしたので、すごいなと思いました。このクルマのためには生半可な演出、上辺だけのにぎやかな演出はありえない。僕らは映像を作る会社ですが、この時はほぼ映像は作らずに、光だけで演出しようとしていました。そのくらい削ぎ落として集約した演出にしようとしていたのです。シミュレーションはもちろん色々やってはいましたが、あの音と光と両方入ったものを見せたかったですし、僕自身も実際に見たかったですね。
◆引き算の美学
—-:いま、光で表現したという話をされましたが、マツダデザインの引き算の美学と同じような考えに受け取れるのですがいかがですか。
於保:まさにその通りです。必要であれば映像装置なりを使い、映像的な演出も良いのですが、主役の存在感がありすぎる場合には、それをいかに引き立てその舞台を高みにまで引き上げられるかが僕らの役割です。それに必要な演出となると研ぎ澄ませざるを得ない。余計なものはいらない、余計な情報は全部ノイズになってしまいます。全く映像がゼロかというとそんなこともないのですが、光の演出を引き立てるひとつの要素でしかありません。
◆コントラストをつける塗料に過ぎない
—-:出展されているCX-30は新色のソウルレッドクリスタルが用いられています。この赤に光を当てると、クルマの赤が勝ってしまうと想像していました。しかし実際に見ると綺麗に陰影が出ていたのですが、このあたりはどういう計算をしているのですか。
於保:コンピューター上の3Dシミュレーションでははっきりわかりません。そこでお借りしたVISIONクーペのミニチュアがとても役に立ちました。このミニカーは本物の塗装が施されていましたので、その映り込みを見てこれだったら多分いけるだろうと判断したのです。これがなかったら実際に現場で試さないとわからなかったでしょうね。実際に展示場所にクルマを置いて映像を出していくことになったと思います。その時には多分映像の色味とかも変えていったかもしれません。
前田:もうひとつトリックがあるとすると、この赤はただの赤ではないということです。おそらく普通の一般的な赤だと、赤が勝つケースがありえます。しかしこのスペシャルな色は単純にいうと、シルバーと黒の上に赤の顔料が乗っているのです。従って、上手く光を当てれば赤よりも反射のコントラストの方が強くなり、光るところは真っ白に光るし、光らないところは真っ黒になります。それだけメリハリのついた色なので、赤を当てればそのメリハリだけが浮き出してくるのです。
私はこの赤は単純な赤だとは思っていません。フォルムにコントラストをつけるための塗料というもので、それがたまたま赤い色をしているだけのものなのです。
◆いまのデザインだからこそ出来る光の動き
—-:最近マツダは面をどう見せるかという意識が強く出ていますので、今回の展覧会での見え方はその点がすごく伝わってきますね。
於保:予想以上に良かったと思います。ミニチュアでのシミュレーションしか出来ておらず、ただ、前田さんは雰囲気が良ければOKといってくれてはいました。とはいえ、現場に置いたら絶対にみんなこだわるだろうと思っていたら、案の定そうでした(笑)。それでも思った以上に映り込みがきちんと出ていました。
前田:一世代前のデザインであれば今回のようなコラボはやっていないでしょう。そのぐらい立体が全く違っているのです。光に対しての反応は圧倒的にいまの世代は高くなっており、前のデザインだと多分光が動かず、一定のものがばっと映るだけだったと思います。
これは、フォルムの張りに変化をさせていなかったからで、ネガ面を封印して作ったのがひとつ前の世代。これはあえて封印していて、次のジェネレーションのものとして取って置いたのです。そこで、今回から立体の変化を激しくしていますので、光を当てても変化が激しく見えるということなのです。
—-:今回の出展は『マツダ3』ではなくCX-30にしたのはなぜでしょう。
前田:本当は2台並べたかった、最初はそうしたいなと思っていたのですが、CX-30は最も新しいクルマでもあります。一方、マツダ3ファストバックはどういうクルマかという認知は広まっています。一方CX-30はまだそこまで認知が広がっていなくて、マツダ3などと同じようなデザイン手法を取り入れているということも多分伝わっていません。従って今回はあえてそういったことを伝えたいということでCX-30を展示しました。
—-:多くの人がこのデザインタッチに来場すると思いますが、マツダブースをどのように見てほしいですか。
於保:あまりポジションを決めずに歩き回ってほしいですね。映像も動いていますし、映り込みも見る位置が変わると変わっていきますので、ぐるっと一周しながらベストポジションを皆で探してもらいたいと思います。
前田:於保さんがいったように、結構“映える”シーンが多いと思いますので、そこを探してもらうことがひとつ。もうひとつは、このデザインタッチで様々な展示が行われています。それらも見ていただいた後で、マツダがなぜこういうアーティスティックなインスタレーションをやっているかというブランドの意図や、マツダの存在感を感じてもらえればと思っています。