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アプリから読み取れる利用者のデータ…ライドシェア、自動運転時代にどう活用する? App Annie代表インタビュー

  • 《撮影 平原克彦》
  • 《画像 App Annie》
  • 《撮影 平原克彦》
  • 《撮影 中野英幸》
  • 《撮影 平原克彦》

モバイルアプリ市場データと分析ツールを提供するApp Annie(アップアニー)日本法人の代表取締役を務める向井俊介氏は、「10年くらいしか歴史がないスマホは往々にして過小評価されがちだが、アプリから様々なデータが見えてくる。『クルマは所有から利用へ』と言われているが、本当にそうなのか。実際にデータを並べてみると、本当ではなかったりする」とした上で、「ファクトに基づいて経営の意思決定をしなければ見誤ってしまう」と警鐘を鳴らす。

◆ライドシェアの普及でクルマが売れないわけではない

向井代表はアップアニーについて「例えばグラブの配車アプリが、アジアの各国でどれくらいダウンロードされて、何人が何分半秒使って、月に何回立ち上げているか。さらにグラブを使っているユーザーは他にどのようなアプリを使っているのかということをデータで提供できる世界唯一の会社」と話す。

その仕組みは、生データを入手する2つのソースからなる。ひとつはアプリを提供している会社から毎日、生のデータを預かる仕組みを構築している。もうひとつのソースがスマホを使っている生活者からのデータだ。アップアニーの子会社が提供しているツール系の便利アプリをインストールしている端末の挙動や通信データをもとにしている。生活者と企業それぞれから実際の挙動やダウンロード数、アクティブユーザー数などのデータを集計し、それをもとにした推計値を社内で毎日生成している。

そこから見えてくるものとは。自動車メーカーにとっての危機感は、クルマが売れなくなることだ。所有から利用へとあらゆる価値観が変化していく中で、自動車業界にとってホットなキーワードが「ライドシェア」だろう。ライドシェアにクルマの所有はとって替わられるのか。向井代表は「ライドシェアが普及するとクルマが売れなくなる、クルマが売れている国はライドシェアがそれほど普及していないと思いがち。だが、そこには何の根拠もない」と言い切る。

「アメリカでは確かにクルマが売れなくなってきているが、ライドシェアに大きくシフトしているわけではない。またクルマの販売も、ライドシェアもともに伸びている国もある。それはデータを見れば明らかだ。そうした国にはコンシューマーにダイレクトに売るチャネルと、ライドシェアプレーヤーに対してバルクで車両を提供してリースで貸し出すビジネスモデルを交渉しに行くという両軸が可能になる」

◆自動運転中には「スマホを触る」ことになる

さらに今後、「自動運転」が普及することによって人の行動が変化することを指摘。向井代表は、「ライドシェアであろうと、自分でクルマを持っていようと、自動運転が入ってくると移動中の時間の過ごし方が変わっていくはず。スマホが今のままである以上は、クルマに乗って目的地を設定して動き始めれば、乗員はスマホを触るだろう。その時にどういう空間デザインをするか、サービス設計をするべきかが重要になってくる」と話す。

アップアニーのデータからは、カーナビアプリを立ち上げている時は運転または乗車している時、と仮定することで「例えばヤフーカーナビを使っている人はどんなゲームアプリを使っているのか、どんな音楽アプリで音楽を聴いているのか、どんなエンタテイメントアプリで動画を視聴しているのかがわかる」という。

その上で向井代表は「移動中の過ごし方が透けて見えるのであれば、そのサービサーとコンテンツを提供してもらうようにパートナーシップを結んだり、車載デバイスに直接コンテンツを提供してもらえるようパートナーシップを結んで、お客様が例えばホンダだったらホンダから離れないようにするために、ハードではなくソフトの面で満足させなければならないのではないかという議論がある。移動中の時間の過ごし方、空間デザイン、サービス設計は、自動車メーカー各社で興味のある内容になっている」と明かす。

◆「それって大丈夫なの」を解消するデータ

一方で、「クルマはセンサーの塊だと捉えると、さらにモバイルのテクノロジーを取り入れることができる」とも話す。例としてあげたのが、インドのスタートアップのフィンテック会社だ。非可聴域の音でモバイル端末をペアリングする技術を使って決済する仕組みを開発した。これに目をつけたのがグーグルで、買収したのちに、グーグルペイとして決済アプリを展開。これがクレジットカードの普及率が5%未満のインドで爆発的に普及しているという。

「なぜインド国内で開発されて広がっているかというと、端末のスペックが低いから。BluetoothやWi-Fiのパフォーマンスが悪かったり、搭載していなかったりするが、マイクとスピーカーなら電話であれば必ず装備されている。だからマイクとスピーカーを使って非可聴域でのペアリングすることでお金のデータが通るようにした」

「この技術がインドの生活者に広がっているというデータを自動車メーカーの新規事業の人たちにみせると、クルマに載せられるという反応が返ってきた。例えばドライブスルーでスマホをかざさなくてもクルマが決済デバイスになり、ヒトの移動と購買がシームレスになる可能性がでてくるということで盛り上がった」と向井代表は振り返る。

しかし、そこから実装、採用となるには日本企業ならではの足踏みがあるという。新技術の情報のアップデートや、議論は繰り返しおこなわれているが、最も大きい壁が「それって大丈夫なの」という問いだ。

「クルマの場合、動く、曲がる、止まるに影響のある部分でものすごく慎重になるのはわかるが、コンピュータの決済システムであれば止まったからといて死にはしない。採用を後押しするには、インドで何億人が使っているという実績が安心材料になる。そうしたファクトは僕らのデータでわかるので、それを見て、『これほど毎日使われて広がっているサービスであればテクノロジーとしても安心だし、グーグルが買収したというのならなおさら』ということで、『考えても良いのではないか』と初めて俎上に乗る」

向井代表は、改めてデータの重要性について語る。「どれだけ生活者に使われているかというデータを得るということは、日本の企業に向けた大事なメッセージ、ポイントだと思っている。そういう意味では、安心できる材料を提供するということはデータの役割だと思っているし、それが僕らの存在意義でもある」。