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【マツダ3 新型】表情変わるデザインで「長く乗っても新鮮な気持ちになれる」…開発者インタビュー 前編
『アクセラ』の後継モデルとして5月24日に国内発表された『マツダ3』。車体構造をはじめクルマ作りを刷新した同車は、マツダの新世代を切り開くモデルでもある。そんなマツダ3の開発責任者を務める別府耕太氏とチーフデザイナーの土田康剛氏に話を聞いた。
◆専用色ポリメタルグレーは、ボディ造形を引き立てる色
—-:ハッチバックの大胆なデザインに驚きましたが。内側に反ったドアパネルも斬新ですね。
土田康剛氏(以下敬称略):「リフレクション」と呼んでいますが、このクルマはリフレクションによってまわりの風景が車体側面に映り込みます。だから、場所、季節、時間によって刻々と変わる表情を見せてくれる。表情が変化するから、長く乗り続けても、触れるたびに新鮮な気持ちになれると思いますよ。そういう魅力を込めました。
別府耕太氏(以下敬称略):クルマは「愛車」と呼びますが、愛と付くプロダクトはほかにはあまりありません。たとえば革製品だと使えば使うほど味がでます。しかしクルマは、愛がつくのに、使えば使うほど古くなってしまう。それがすごく残念だと感じていたのです。しかし、リフレクションがあるからマツダ3はずっと新鮮な気持ちでいられる。お客さんが乗って日々使うことで、風景がデザインを完成させるクルマなのです。ユーザーに心から愛してもらえるプロダクトになればいいなと思っています。
土田:魂動デザインはそこを目指しています。感情で人とクルマを結びつけることができれば、狙い通りですね。
—-:ところで、ポリメタルグレーという新しいボディカラーもトピックですよね。これまえ何度か実車を見ましたが屋内に置かれた状態で、今回はじめて太陽光の下で見ました。太陽光の下で見ると、室内とは印象がかなり違いますね。
別府: そうなんですよ。あの色は屋内照明と太陽の下では表情が全く違う。
土田:ボディ造形を引き立てる色なのです。見る人を飽きさせません。
別府:ハッチバックのために作った色。写真だけにはわかりにくいので、ぜひ太陽光の下で実写を見てもらいたいですね。
—-:仕向け地によって外観の違いはありますか?
別府:法規対応のためにライト内のリフレクターが違うといった程度ですね。あと、北米仕様だけはシャークフィンアンテナがついています。
—-:それはなぜ?
別府:マツダ3からはプリントアンテナを採用し、基本的にシャークフィンアンテナをやめたんですよ。デザインは「引き算の美学」で、シャークフィンアンテナながないことでスッキリしますから。ただ、北米はサテライトラジオ(衛星ラジオ)のアンテナが必要なので備わっています。
◆細かい話の前に「クルマとしての価値」をしっかり伝える
—-:マツダ3で気になったのは、セダンとハッチバックでの作りわけが大きいこと。デザインが大きく異なり、フロントフェンダーまで別設計になっているのだから驚きです。これは強調すべき部分だと思うのですが、メディア向けの説明を聞いていると積極的にはアピールしないのですね。理由があるのですか?
土田:そう感じましたか(笑)。実は、国内発表に際してお客様に対する価値の部分だけを伝えていこうと意識しています。私たち開発側に反省があって、それは海外での公開時などに「あれをやりました」とか「これをやりました」とか細かい主張を言いすぎちゃたなと。細かい話の前に「クルマとしての価値」をしっかり伝えることが大切だと、切り替えたのです。もちろん興味を持っていただければしっかりお話ししますが、概要説明ではあまりにも細かい部分を押し売りしないように気を付けています(笑)。
—-:ワールドプレミアの際に、セダンとハッチバックの違いを聞いてびっくりしたんですよ。あまりにも広範囲なので。特に外観は別のクルマと言っていいくらい違う。
別府:開発が始まろうというときに土田とふたりで、セダンとハッチバックで何を目指そうか考えたんです。2人で全世界を回り、いろんなお客さんと話したり、その使われている環境を見たりしながら。やっぱり世の中には大きく二つのタイプがあるなと。ハッチバックとセダンでは客層もクルマに求めるものも違う。具体的に言うとハッチバックは若々しくアクティブで、セダンはコンサバティブだし実用性への要求も高い。そこでハッチバックとセダンでは方向が異なる、ふたつのクルマを作ることで、2人の意見が合いました。
逆に言うと、デザインを共通させる必要はなかったんですね。いままでは効率の都合もあってセダンとハッチバックで共用部分が多く、フロントからBピラーのまでは共通の設計とするのが常識だったけど、会社の都合はお客様にとっては関係ないこと。本当はセダンとハッチバックでそれぞれの理想を目指すのが筋なんじゃないかなと。そこに立ち返ったんです。
土田:2015年の夏にドイツに一緒に出張に行ったときに、ふたりでそれを決めていました。でも(作り分けが増えると)投資にお金がかかるから、会社は許してくれないかもしれない。そこをなんとか社内で調整して、なんとか実現できるように頑張りました。
別府:ここへきて、マツダは社内の空気が大きく変わりました。よりよいクルマを作れば、しっかりとお客様に理解して頂け、満足してもらえる。そのためには作る側の都合ではなくお客様の立場に立ってほしいと思える商品作りをしていかなければマツダはダメになる。そんな意見が通りやすくなりました。常識的に考えれば、セダンとハッチバックでここまで作りを分けるなんて相当無茶していると思いますよ。
◆セグメントのこだわりは捨てて、”ベストな”セダンを
—-:ところで、配られた資料を見ると、セダンとハッチバックの数値を新旧比較した数値があります。見ると、リヤのヘッドルームの数値がセダンとハッチバックで同じなんですよね。ということは、後席の天井の高さはセダンとハッチバックで同じなのですか? そうは見えないのですが。
土田:基本的には、ショルダーから下の部分は同じ。ただ、ルーフラインに関してはハッチのほうが低いんです。とはいえ、現行車と比べるとほぼ同じ。MAZDA3では、空間をトレードオフしてデザインをよくするのはやらないと決めて、パッケージングを仕上げました。
—-:セダンとハッチバックでは天井がもっとも高い部分の位置が違うんですか?
土田:セダンは後席を大切にする意味から、リヤシートの上にピークがあります。いっぽうハッチバックは前席重視なのでフロントシートの上にピークがあります。
—-:見た目、とか思い込みかもしれませんが、一般的にはハッチバックよりもセダンのほうが後席の開口部の頭上付近が狭いことが多い気がします。ところが、マツダ3に触れてみるとそうではなくて、セダンのほうが後席開口部の頭上が広いので驚いたんですよね。
別府:今回セダンに関しては、全長という制約をかなり少なくしました(先代に比べて80mm長い)。その結果として伸びやかなスタイリングが実現できました。同時に、後席の広さも両立できているのです。
—-:セダンはトランクも広いですよね。
別府:そこはちょっと商売っ気がありまして(笑)。マツダではひとつ上のセダンが『アテンザ』ですが、日常のことを考えるとアテンザでは大きすぎるという声が多く聞こえてきます。それから各社さんともCセグメントのセダンから撤退したりして、セダンユーザーが行き場を失っているという現状認識があります。そんな人たちに選んでいただきたいなと。
—-:なるほど。
別府:Cセグメントというこだわりは捨てて、大きなくくりでセダンとして見た時にベストなサイズ、ベストなプロポーション、ベストなデザインを作ろうというのがマツダ3セダンの発想です。
—-:車体は初代アテンザと同じくらいのサイズですよね。
別府:実はそうなんです。当時はあれを「CDカー」と呼んでいました。日本だけではなくグローバルで考えても、セダンの適正サイズはこのくらいだと思っています。