注目の自動車ニュース

マツダ CX-30 で市場に対し違ったアプローチを[開発主査インタビュー]

『CX-3』の次期型ではなく、新たに追加される車種として3月のジュネーブモーターショーでワールドプレミアされたマツダ『CX-30』。その開発主査を務めた佐賀尚人氏に話を伺った。まず気になるのは、マツダの中でどんなポジションを担うクルマなのかということ。そして、同じ“コンパクトクロスオーバーSUV”であるCX-3との違いだ。

◆コンパクトクロスオーバーとしての鍵は?

—-:CX-30はどんな人がターゲットなのでしょうか?

佐賀尚人氏(以下敬称略):特に若い人ですね。これから結婚されるとか、お子様が生まれたりとか。若い方は人生の変化がとても大きい。そういう人たちの暮らしにフィットするように作ろうと考えました。

—-:CX-3や『CX-5』との違いはどうでしょう? CX-30の狙いはそれらの中間ですか?

佐賀:車体の寸法は、結果的に両者の中間なのですが。こだわったのはそこではありません。コンパクトクロスオーバーが世界的に増えています。需要が増しています。そんななかで、我々のCX-3でもCX-5でも受け皿とならなかったお客様がいらっしゃる。そこを狙いました。こだわったのは、コンパクトクロスオーバーだということです。

—-:具体的には、どこに着目したのですか?

佐賀:その方々がコンパクトクロスオーバーを選ぶときにどこがキーになるのか? そこを見た時に、まず機動性が大切だと考えました。機動性というのは、乗り降りがしやすかったり荷物をスッと積んで移動できたりですね。

そして移動しやすいように、外観の寸法にこだわりました。たとえば全長。CX-30はCセグメントの5ドアハッチバックやセダンよりも短いことにこだわりました。それが4400mmの意味です。

狭い場所でも走れるように全幅は1800mm以下。あと国内でいえば高さですね。1550mm以下。自宅ではいいかもしれませんが、困るのは出先ですよね。都市部に住む人が、外出した先で駐車場を探すのに困らなくても済むように、ミニバン対応ではない機械式立体駐車場に収まる背の高さにしました。それらが機動性へのこだわりです。

—-:たしかにサイズは重要なポイントですね。

佐賀:はい。しかし、そうはいってもヤングファミリーも室内の広さは大事。もうひとつのキーバリューは、大人4人がしっかり座れる室内を確保したことです。後席でいうと、身長183cmくらいの人までしっかりヘッドクリアランスをとって座れます。もうひとつ大切なのが、運転席の人と助手席の人の間隔。ここが広くて、CX-5と同じだけ確保しているのでゆったり座れます。

—-:なるほど。

佐賀:3つめは、我々の“鼓動”デザインですね。ニーズでクルマを選ぶ人たちにも、「このクルマが欲しいな」と思っていただけるデザインとしました。

◆短い全長ながら、荷室はベビーカー積載まで考えた

—-:CX-3はプロポーションの美しいクルマでした。でも後席や荷室が狭いという面がありました。それと変化をつけているのですか?

佐賀: CX-3デビュー時はこの市場(コンパクトクロスオーバーSUVセグメント)が定まっておらず、小さいクルマも多かったのです。そのなかでCX-3はデザインの美しさや機動性があり、ポジションを築けたと思います。それはそれで価値です。

でも、最近のこのセグメントの車両の使われ方を見た時にもう少し違うアプローチもあるのではと感じました。より多くのお客様に選んでいただけるクルマになるには、実用性を高めたCX-30のような提案もあるのでは、という考えです。

—-:ズバリ言うとCX-3と違うポイントは。

佐賀:室内空間と荷室ですね。そこが一番大きいです。ただし、車体はCX-30のほうが少し大きいので、よりコンパクトな車体がいいのであればCX-3です。

—-:ファミリー層に向けて特にアピールできる部分は?

佐賀:ベビーカーまで考えた積載性ですね。最近のベビーカーは以前よりタイヤが大きくなっていて畳んでもかさばることが多い。またチャイルドシートを荷室に積むこともある。
たとえば買い物に行った帰りには、ベビーカーと荷物が積める広さの荷室にしました。

—-:ポジショニングがいいですよね?

佐賀:先ほど並べた3つのポイントをすべて両立して実現するのは難しいんですよ。相反する条件があるから。だって、全長を短くしたら、室内スペースは限られますよね。そのうえデザインも……、といったら本当に大変でした。どこを重視する? どこで帳尻合わせる? という世界です。初期のパッケージングを決めるのは本当に苦労しました。

◆マツダ3をベースに絶妙な変更

—-:『マツダ3』とのパッケージングの違いは?

佐賀:前席のヒップポイントは35mm高くなっています。床に対してです。ホイールベースはマツダ3よりも短くしています。だから前後席の距離は若干狭いのは事実です。そのぶん床面を下げたりとか、トルソー角を調整してアップライト気味に座らせることでフォロー。乗るスペースを確保しています。

—-:日本市場においては、機械式立体駐車場に収まる全高もポイントですね。

佐賀:そこはこだわりました。たとえばアンテナをルーフではなくリヤウインドウに内蔵するなど、(駐車場のために)限られた全高ながら、後席頭上のクリアランスをしっかり確保する工夫をしています。スタイリングも、居住性を犠牲にしないようルーフの後方をあまり下げないようにしています。

—-:マツダ3をベースとしつつ、ホイールベースを短くしたのはどうしてですか?

佐賀: マツダ3に対して70mmくらい短くしています。目的は全長を短くするためです。ホイールベースをそのままでオーバーハングだけ短くすると、ホイールハウスの影響で荷室が狭くなってしまう。逆にホイールベースはそのままで荷室を広げようとオーバーハングを伸ばしたら、今度は全長が伸びてコンパクトなSUVではなくなってしまう(笑)。その絶妙なバランスが、とても難しかったんですよ。そこがいちばんのポイントですね。

—-:グローバルで販売しますか? 日本導入は?

佐賀:欧州では主力ジャンルだし、北米でも比率は少ないですがコンパクトクロスオーバーSUVは増えています。北米は、母体が多いので比率が少ないとはいえ無視できる市場ではないですね。もちろん日本にも導入します。そのほかの地域も含め、グローバルで通用する基幹モデルに育てていこうと思います。

—-:車名は不思議ですよね。突然2桁になってしまった。たしかに「CX-3以上、CX-5未満」とはいえ「CX-4」は使えませんが……。

佐賀:そうでしょう、驚いたことと思います。社内でもいろんな議論がありました。「3でも5でもないものってなんだろう?」そう考えた時にどちらでもない名前を考えました。それが2桁だったということです。『CX-4』は中国専用車としてすでに存在しますから。これから私がしなければならないのは、「シーエックサーティ」という響きがみなさんに違和感のない響きにすることでしょうね。