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【スズキ ジムニーノマド 発表】シエラとはこんなにも違う!「ファミリー最上級モデルならではのデザイン」とは

  • 《写真撮影 内田俊一》
  • 《写真撮影 内田俊一》
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  • 《写真提供 スズキ》
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  • 《写真撮影 内田俊一》
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スズキは『ジムニー』シリーズ初の5ドア仕様、『ジムニーノマド』(以下ノマド)を1月30日に発表した。かねてより日本への導入が期待されていたモデルで、ファン待望の発売となる。発売日は4月3日で、265万1000円からという価格にも注目が集まっている。

ノマドは、軽自動車のジムニーではなくワイド版の普通車『ジムニーシエラ』をベースに、全長とホイールベースを延長し、5ドア仕様としたモデル。ただ車体を長くしただけではなく、後席の乗降性と十分な荷室の確保、そしてジムニーの生命線とも言える悪路走破性を両立するため、開発にはさまざまなこだわりとアイデアが盛り込まれた。

デザイン上は一見すると「ただの長いジムニーシエラ」に見えるが、そこにもデザイナーならではのこだわりが詰め込まれているという。

◆ジムニーファミリーの最上級モデルである、ということ
エクステリアデザインを担当したスズキ商品企画本部 四輪デザイン部 デザイン企画課主幹の松島久記さんは、ノマドのデザインを担当することが決まった時は「大喜びでした」と振り返る。「何といってもスズキを代表するクルマですし、フルモデルチェンジは20年に一度くらいですから、ジムニーに関わるチャンスはなかなかありません。しかもこの5ドアの企画は、これまでも起こっては消え起こっては消え、実現まで至らなかったのです。ですので今度こそ私が実現させてやるという思いで、とても嬉しく意気込んで担当になりました」と楽しそうに話す。

松島さんは、「明快にキャラクターとして区別できるようなものにしたかった」という。「軽のジムニーと普通車であるシエラ、それに対してノマドはどう違うかが明確になるようなデザインにしたい」と考えた。

そこで見出したのがノマドのポジションだ。それは「全てのジムニーシリーズの中で最上級モデルに位置する」ということ。上級機種としての上質感や品質感をデザインで表現できるように考えたという。

その一例がフロントグリルだ。5スロット部分にメッキを使い、かつ、艶消しのブラックからグロス塗装のガンメタリックに変わった。しかしこのメッキに関しては反対意見も多くあったそうだ。「もともとジムニーに5ドアが必要なのかというかなりの抵抗があり、そんな状態でジムニーにメッキのグリルを付けるという提案をした時には本当にデザインセンスを疑われるほどでした」と苦笑い。

しかし松島さんには勝算があった。「クロームも使い方次第で、上品なもの、品質感を上げて見せられると確信していました。ですからあえて良い素材使いにこだわったのです」。それはグリルの塗装も同様だった。松島さんは、「CMFデザイナーがこの意見に同意してくれて、非常にレベルの高いものになりました」とその仕上がりに満足している様子だった。

◆あえて「ただ伸ばしただけに見せたかった」
5ドア化にあたっての最大のポイントはホイールベースの延長だ。単にそれをデザインに落とし込むとダックスフントのように間延びして見えてしまう。それはデザイナーとしては避けたいところだ。しかし松島さんはあえて、「ただ伸ばしただけに見せたかったのです」と話す。

そうはいっても間延び感はなくしたい。松島さんは、「シエラのボディサイドの平面カーブは後ろに向かって狭まるようにセットされています。そのままバックドアを共用してホイールベースを伸ばしたノマドを作ると、どこかで一回外に膨らませないとバックドアが入らなくなります。そこで、出来るだけスムーズに平面カーブをつなげて成立させることが、最もモデラーが苦労したところです」と話す。

最初はフロントドアを共通にして変更を最小限にする方向性もあった。しかし、「どうやってもバックドアが入るようにするのは無理ということで、結局フロントドアの先端まで変更しました」と松島さん。

また、「ジムニーの一番の特徴は悪路走破性ですから、とにかく車両の延長量を最小にしたかったんです。全長を延長すればするほど重量が増えますから、そこはジムニーの機能に関わる部分です。デザイン部門も設計部門も力を合わせて細かいところまで検討して、とにかく最小の延長量でリアドアが成立するところを探っていく。これが一番大変な作業でした」と説明する。

その結果、ホイールベースの延長量を340mmとした。これは「乗降性確保のためにはミニマムであり、デザインを違和感なく成立させるためにはマキシマム」だった。

◆インテリアは延長ではなく「拡張」
インテリアは基本的にはシエラと共通だ。ただしそれはBピラーから前側だけと注釈をつけたい。今回のホイールベース延長は後席と荷室のためだからだ。この変更について商品企画本部 四輪デザイン部 インテリア課主任の遠藤拓磨さんは、「拡張と呼んでください」という。

シエラの後席はホイールハウスを回避することから左右方向が狭く、それを上手く利用して後席を倒すとホイールハウスの高さもありフラットにでき、荷物を乗せるスペースを作りだせる。一方、鉄板剥き出しのところも多かった。しかしノマドの目的は、「人を乗せるところにシフトしているので、しっかりとしたシートを搭載(ホイールベース延長によりタイヤハウスが後ろに行ったため)し、さらに乗降性をさらに向上させるためにリアドアのオープニング(ドア開口部)から考えていきました」という。

実際にモデルを作り様々な身長の人たちに乗降してもらったそうだ。中には180cm級の人もいた。初期段階では足先が入らない、降りるときに腰が引っかかるなど様々な不具合があった。そこで様々な工夫が凝らされた。

商品企画本部 四輪デザイン部 インテリア課 課長の林田崇さんによると、最もこだわったのはリア開口部の下端の寸法だった。後席の乗降性で足抜けも含めて最も重要なポイントなのだ。ノマドではリア開口部の下端を300mm確保することで、「余程大柄な大人の男性でなければ足を通せる寸法は確保できました」という。しかし、それだけでは足りないと、リアの室内側のホイールハウスのでっぱり部分も丸みを減らすことで、降りる際にお尻が引っかからないようにした。

またシートも角部分を削ることで足さばきを良くした。実は「シート設計からはファブリックが貼れなくなるという声も出たのですが、何とか対応してもらいました」と林田さん。

さらにリアドアパネルの室内側下端を大きく削ることで、ここも足抜けを良くした。リアドアパネルとBピラーの間の角面もネックになったが、これを丸くすることで乗降時に膝がぶつかったりするのを避けることができた。

◆実はドアハンドルの高さまでシエラとは違う
リアドア周りには「サイドガーニッシュの後端に足を掛けないで」という意味のピクトグラムが記されており、形状も足が滑り落ちる角度がつけられた。「もともとは子供の足であればしっかりと足が置ける形状でしたし、大人でも踵くらいなら十分で便利だと考えていました。しかし、設計面でここに荷重がかかるのは良くないと。ジムニーシリーズはいずれもボディとフレームは分かれており、それはノマドも一緒。ですからボディ側についているこのガーニッシュ部分の強度を出そうとすると、その裏から溶接などで改めてフレームを作らなければいけないんです。そこでこの形状になりました」と教えてくれた。

ドアハンドルの位置にもこだわりがあった。実はシエラよりも数ミリ高い位置になっているのだ。その理由はリアドアハンドルの凹み部分がリアフェンダーガーニッシュにかかってしまい、そこに切り欠きができてしまったから。「軽の場合、ドアハンドルはフラット(軽自動車の全幅は1.48m以下に収める必要がある)ですので、より手を潜り込ませる凹み部分を大きく深くしています。しかしノマドは軽ではないので、ドアハンドル自体を僅かに高い位置にして、かつ少し出すことでえぐる面を浅く小さくすることで回避したのです」と、細かいところまで気を配ってデザインされていることを明かす。

このように様々な手を加え、かつ、細かい工夫を盛り込んだノマドだが、ここまでやるのなら、いっそのこと全く違うクルマに見せたくなるのもデザイナーの性ではないだろうか。松島さんは、「実はスケッチ段階でピラーをブラックアウトしてキャビンを長く見せる案なども用意したんですが、ジムニーっぽくない、乗用車感が強く出しまっているという意見もあり、最終的にはシエラのデザインを踏襲する形でまとめました」とのことだった。

誰が見てもジムニーファミリーの1台だと感じさせるノマド。しかも5ドア化による間延びしたデザインに見えない工夫は高く評価できる。それは内外デザイナーだけでなくCMFやモデラー、さらには設計チームが「ジムニーらしさ」というぶれない共通の軸を持っていて、それに従って作り上げたからにほかならない。今後、ジムニーファミリーの大きな柱となる可能性をこのノマドは秘めているのかもしれない。