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【Honda 0 シリーズ】そのデザインは「アート」? デザイナーが語るホンダデザインの本質とは
ホンダは2026年より北米を皮切りに新たなEV、『Honda 0シリーズ』(ホンダ・ゼロシリーズ)を世界展開する。そのフラッグシップとなるコンセプトカー『サルーン』と『スペースハブ』が1月に米国ラスベガスで開催された「CES」で初公開となったが、ついにその2台が日本に上陸した。ホンダのウエルカムプラザ青山で一般公開されたタイミングで、デザイン責任者へのインタビューが実現。そのデザインのこだわりや見所を聞いた。
◆低く薄く、でも室内は広く
デザインについて、「サルーンとスペースハブの両方にいえることですが」と前置きして話し始めるのは、本田技術研究所デザインセンター e-モビリティデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ チーフエンジニアデザイナーの清水陽祐さんだ。「ホンダのデザインの本質はシンプルだと思っています。そのシンプルをいかに独創的かつ、クルマとしてのダイナミズムや躍動感を付与していくかがポイントでした」という。
また、開発アプローチである「“Thin, Light, and, Wise”に照らし合わせてなるべくクルマ自体は空力も含めて薄くしていきながらも、空間の広さは全くスポイルせずに作っていく。これがデザインの大きな考え方でありアプローチでした」と話す。
その大きな特徴はサイドウインドウにあるという。「通常のセオリーでは、安定感や空力を考えて正面から見るとなるべく台形になるように、ガラスを寝かせて(室内側に倒して)いくのですが、それをあえてガラスを極端に立たせました。そうすることで全高はすごく低いのですが、横方向への空間の広がりがかなり感じられるのです」。一方ガラスを単純に立ててしまうと、「ミニバンのようなボックス感を与えてしまいますが、ボディ下側をサイドシルに向かって絞り込んでいくことで、タイヤ周りのフェンダーをかなり出っ張らせて強調して見せることができます。そうすることですごくシンプルなフォルムとともに、クルマの躍動感、ダイナミズムみたいなところを独創的に構成していきました」と述べ、そこが一番大きなポイントだったともいう。
◆アートでコアなファンをまずは作りたい
ホンダ0のデザインコンセプトは、“The Art of Resonance”である。清水さんは、「まずアートをどう解釈したのかというと、ひとつは本田宗一郎がもともと話していた言葉で、機能的な要素だけを突き詰めていっても製品にしかならない。そこに美術的な美しさみたいなものを付与していかないとお客様に手に取ってもらえる商品にならないというものがあります。そこからアートという言葉が生まれました。それともうひとつ、アートはお客様の心や気持ちを動かすようなものだと思うので、そういったプロダクトに我々もなっていきたいという思いも込めました」と述べる。
さらに清水さんは、「デザインというと広義には非常にたくさんの人に向けて、使い勝手がよく問題を解決してくれるようなプローチがあります。0も当然、たくさんのお客さんに共感してもらいたいのですが、やはり“だからホンダを買ったんだよね”というコアなファンをまずは作っていきたいのです。そういう意味でアートの領域まで高められたデザイン、もしかしたら好き嫌いが出てしまうところもあると思いますが、でもしっかりと他のものとは違うという独創的なスタンスを取っていきたいのです」と語る。それによって、「ファンを獲得して、そのファンの皆さんに共感していただけるようなアートのようなデザインになっていきたい。そういう意味合いがあります」と話す。
そしてレゾナンスは、「共感とか共振という意味合いで使っているのですが、それはMM思想にも代表されるような、二律相反する事象の両立、2つを良い感じに丸め込むのではなく、お互いきちんと立てた上で、それをひとつのプロダクトとして実現させるという意味合いでもレゾナンスという言葉を使っています」と説明。
その思いをサルーンではどう表現したのだろう。「非常にモノリスックなフォルムで、簡単にいうと、サイドビューはとてもシンプルなんですよ。ただリアビュー、フロントビューの輪切りといわれているセクション(正面からクルマを見て平行に切り取った断面)を工夫することで、スリーディメンションで見るとすごくスポーティなフォルムが他と違う印象で出来上がりました」と清水さん。
そして室内は、「想像できないくらいかなり広いでしょう。そういった驚きをいかにシンプルかつ独創的にまとめていくかです。ですから余計な線とかはなるべく廃した上で、機能的な部品は集約してデザインしました」。つまりエクステリアは面で勝負しているのだ。
この考えはスペースハブも同様だ。「こちらは若干空間のスペース寄りに振ってはいるもの、やはりクルマとしてのスタンスやダイナミズムみたいなところは同じで、輪切りの考え方を使いながら、共通のデザイン言語でデザインしています」と述べた。
◆ガルウィングドアはどうなるの?
今回のコンセプトモデルはいわばセダンとミニバンという世界感を表現したものだ。これは、「セダンとミニバンを新しく次のBEVの時代に向けてアップデートしたい、新しいBEV時代のミニバンとセダンの原型を作ったみたいと捉えたもの。つまり次世代型セダンと次世代型ミニバンです」と清水さんはコメントする。
そのサルーンにはガルウィングドアが採用された。ほぼこのシルエットで発売されるとCESで三部社長はコメントしていたが、果たしてこのドア形状も可能なのだろうか。清水さんは、「量産に向けて検討中です」とし、「ガルウィングを採用しているのは、車高が低いものの乗降性が良いから。ただし、乗降性をスポイルしないソリューションをガルウィング以外でも考えていくかもしれない」と明言は避けた。
どちらのモデルもコンセプトカー然としているので、これが街を走るシーンを想像しにくいのは事実だ。しかし、ボディの面構成などは綺麗に整っており、特にサルーンはそれが際立っている。フロントやリアではまだまだ煮詰めたり、法規要件をクリアしていかなければいけない箇所が多々あるとのことだが、それも含めてどう実車として表現されるのか。既に最終デザインは完成している時期とみられるので、2026年の登場が楽しみだ。