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【スズキ スイフト 新型】デザイナーが語る、「出来上がったデザインを一度“仕切り直した”」その理由
スズキは『スイフト』をフルモデルチェンジした。そのデザインはスイフトらしさを踏襲しながら、新たにZ世代ユーザーを獲得すべく軽やかさを両立させていったという。
新型スイフトは“はっとするデザイン”を目指して開発されたが、基本的なディメンジョンだけでなくタイヤや乗員の位置、ウインドウ周りの位置関係は先代をほぼ踏襲したため、開発段階では先代に似たデザインになりがちだった。「そこからいかに変えていくかが課題でした」と話すのはスズキ商品企画本部四輪デザイン部エクステリアグループ係長の高橋秀典さんだ。また、スイフトは初代からスポーティというイメージが浸透しており「変えることが難しい一方、そのままでいいのかという議論もあった」という。
さらにユーザー層をZ世代にまで広げたいという意向もあり、その世代も含めて、「(スイフトは)スポーティすぎて『私のクルマではない』と思う方もいました。そういう方にも買ってもらえる、『私のクルマ』だと思ってもらうためには、スポーティ路線から何かを変えていく必要があると考えていったのです」とその経緯を語る。
◆スポーティでエネルギッシュ、そして軽やかさ
では何を変えるのか。「スポーティでエネルギッシュな部分は残しつつ、軽やかさをそこに加えていくこと。それが今回のテーマです」と高橋さん。
例えば、先代はフロントヘッドライトあたりからリアコンビに向けて大きな面の抑揚を持たせながら突き抜けるようなイメージだった。そこから、「上下をキャラクターラインで一周させることで分けるようにしました。そうして(上側は)フローティングルーフという表現も入れて、ここが軽やかさにつながっています。一方、(下側は)四隅にタイヤをガッと出して踏ん張り感、塊感を出し、そこは先代を踏襲した印象です」とし、スポーティさと軽やかさを両立させたことを明かす。また上下に分けるキャラクターラインは新しさにもつながっている。
さて、スポーティさでは、ヘッドライトも新たなデザインが用いられた。通常はランプの発光部を強調するのだが、「新型はそこをあえて隠す方向で、シグネチャーを目立たせようとしています。そうすることで、低くワイドに構えた印象になりますので、いままでのスポーティさをさらに昇華させているのです」と述べた。
フローティングルーフは、先代から大きく印象を変えてきたところでもある。先代はCピラー部分で斜め上方に立ち上がりをつけることで、リアフェンダーの筋肉質な造形を強調していた。その結果として、獲物を狙う猫科の動物の躍動感を表現。しかし今回は後端までベルトラインを通すことでより居住性が良く感じられるようにし、「実際に後席に座ると先代と寸法的には変わらないものの、ルーミーな印象を受けるでしょう。そういった居心地の良さやを想定して流しています」とのこと。結果として左斜め後方の視界が良くなるとともに、軽やかさにもつながっているのだ。
ここでひとつ気になったのはリアドアのドアノブの位置だ。先代はCピラーに隠されるように配され、それも特徴のひとつとなっていた。高橋さんによると、「キャラクターラインやベルトラインを真っ直ぐ通したことで、リアドアにハンドルを自然に設ける方がデザイン的にもまとまりがあるからです」と説明。また、インテリアデザインを担当したスズキ商品企画本部四輪デザイン部インテリアグループの江口裕司さんは、「今回Cピラーは艶ありの黒ですので、艶消しのドアノブを持ってくるとそこだけ浮いてしまうのです」と説明してくれた。
◆Z世代に向けてのデザイントレンドを取り家れて
冒頭にZ世代をターゲットにと記したが、そこに向けてのデザインのアプローチはどうしたのか。「最近のクルマ以外のデザイントレンドは、デジタル系のデザインが増えています。そういったスマートな面構成などの印象のほかに、多角形的な印象を用いることで、デジタルネイティブの世代にも響くのかなと、そういった要素はいくつか散りばめています」と話す。例えば、「フロントエンドの多角形的な表現や、一周回しているキャラクターラインも若干ボンネットの隅にエッジ感を出して、八角形になっています。単純なラウンドではなくピークを設けることで強弱をつけて多角的な印象を強調しています」と語る。
またピアノブラックのフロントグリルは、バイオ系のポリカーボネートで材料着色のため、あとから塗装はしていない。「打ちっぱなしなので、リサイクル性が良いモノマテリアルです。また塗装だとどうしても柚子肌のように少しざらついた印象になりがちです。しかし材着ですのでそこが全くなくて本当に非常にスムーズな面になりました」とねらいを語る。さらに、「塗装ではあまり奥行きがあると塗料が入らないという制限が出てきます。このグリルは結構深いのですが、打ちっぱなしですからしっかりとピアノブラックが奥まで表現され、質感も高くできました」とのこと。
そのグリルにはシルバーの加飾も入れられた。これは営業サイドからの要望だったそうだ。「最初のキースケッチにはなかったんですが、グレード感を出したいということで付けました。だから廉価グレードには付いていないんです」。
◆メモリアルカラーとZ世代に向けたカラー
ボディーカラーは新色が2つデビューした。ひとつは「フロンティアブルーパールメタリック」だ。スイフトは初代からブルーとレッドにはかなりこだわりがあり、都度更新されてきた。先代には「バーニングレッド」という3コートカラーがあり、「非常に透明感があって深みと鮮やかさがありました」。そこで新色のブルーでもこの印象を用いたいと3コートで作られたのだ。「これは2020年にスズキの100周年を迎え、そこに合わせて何か記念となるメモリアルなカラーを作ろうとスタートしました。コーポレートカラーである赤とブルーで対をなすように、次世代のスズキを象徴するようなブルーを作りたかったのです」と高橋さん。
「色を出す部分が2層になっていて、最後にクリアで仕上げています。下のカラーベースは、ちょっと赤味のブルーを出して、2層目でそれを透かせながらグリーン味のブルーを入れています。そうすることで、影で若干紫みたいなブルーと、光が当たったところはグリーン味が出て非常に表情豊かに仕上がっています。走り去るところを見ると、非常にドラマティックな色になりました」とその完成度の高さを強調。
もう1色は「クールイエローメタリック」だ。この狙いは、「これまでのスポーティなスイフトが大好きなお客様ではなく、新しいお客様を取りたいとZ世代のお客様に向けた色です」という。そこで、「最近の先進素材を使ったスポーツウェアなどのスムーズな質感とハイテクなイメージを表現したのと、シリコン系のハイテクスニーカーの一皮被ったような乳白感であるとか、デジタル世界の仮想空間にあるようなちょっと発光するような印象、蛍光色のような印象も一部取り入れられないかなと思い作りました」と高橋さん。黄色は、「カジュアルでポップ、あるいはスポーティな印象になりがちですが、そことは一線画す新しいミステリアスなイエローで新しい世代の方に支持いただけるようにチャレンジした色です」とそのこだわりを語る。
また今回それぞれに2トーンが用意された。赤と青はこれまで通りのスポーティなイメージを作りたいことから黒でルーフを締めた。一方クールイエローとホワイトは、ガンメタのルーフを合わせ、コントラストを弱めている。「微妙な色なので、黒を入れるとコントラストが強すぎてボディーカラーが飛んでしまうのです。それを緩和させるためにとガンメタにすることで、非常にファッショナブルな印象にもなりました。ファッションにうるさいZ世代のお客様にも評価してもらえるのでは」とコメントした。
◆ハッとさせるデザインなのか?
新型スイフトのデザインだが、実は一度「仕切り直し」をしたそうだ。「一度決まったスケッチがあったのですが、先代とレイアウトが一緒ということや、スイフトイコールスポーツというイメージをそのまま表現した案で、それがちょっと保守的すぎるという意見が上層部にありました。これはハッとするのか?という投げかけがありまして、1回仕切り直しをしたのです。いままでのスイフトを踏襲する部分はあるんですが、もっと変えていこう、しかもハッとするデザインをということで最終的に残ったのがキースケッチをはじめとした4案です」。その中には、いわゆる古典的なスポーツに振った案や、先進性を最大限出してきた表現もあったそうだ。
その中でキースケッチとなる案が選ばれたのは、クルマをぐるっと一周するキャラクターラインだったようだ。「このテーマがいままでと一番違うというところですし、上層部の考えも“変えたい”ということがありましたから」と語った。
新型スイフトをパッと見ると、スイフトと分からせながらも新型と感じさせるデザインを纏っていることが分かる。これまで同様スタンスの良さを感じさせつつ、クルマを1周するキャラクターラインが新しさを主張する。それほど大きな変化はないと感じられるかもしれないが、キャラクターラインを1周させるということはその精度が求められる。なぜなら僅かでもずれたら“一巻の終わり”だからだ。そのあたりの品質管理も見事といえる。