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BEV時代のホンダ、アドバンテージはどこに? BEVビジネスユニットオフィサー 假屋氏に聞いた…「ホンダ0シリーズ」発表
ホンダは1月10日、米国・ラスベガスで開催されたCES 2024に出展し、同社の新たな電気自動車(BEV)の象徴ともなる「ホンダ0(ゼロ)シリーズ」を発表。ホンダはどのようなBEVを目指し、どんな思いを抱いているのか。本田技研工業 電動事業開発本部 四輪事業戦略統括部 BEVビジネスユニットオフィサーの假屋 満氏に話を聞いた。
◆「Thin」「Light」「Wise」の根底にあるM・M思想
—:ホンダ0シリーズには、「Thin(薄い)」「Light(軽い)」「Wise(賢い)」の3つのキーワードがありましたが、そのクルマのディメンションだったり、ボディを実現するための技術というのは、どのようなところにあるのでしょうか。
假屋 満氏(以下敬称略):もともとホンダはクルマの開発において、ぶれない哲学として“M・M思想(Man-Maximum、Mecha-Minimum)” という考え方を昔から持っていて、それを改めて「Thin(薄い)」「Light(軽い)」「Wise(賢い)」に置き換えたということなんです。これまでも部品は「小さく軽く作りたい」と考えていて、それによってできたスペースを人のために使おうと考えてきました。80年代90年代はフードの低いクルマなどを作ってきましたが、そういったノウハウが元々あるので、BEVでもホンダらしさを発揮したいということです。
BEVではバッテリーの造りやその周りの部品によって大きさや形状が決まってきます。それだけに、BEVでは単なるM・M思想だけで戦えませんから、そこに「賢さ」を引き出して0シリーズとしての開発思想としました。「賢さ」の面では、コアICUや制御、アプリやソフトウェアが進化していきながら、お客様に「ホンダのクルマって賢いよね」と思われるクルマ作りをしていきたいと思っています。
—:これまでを振り返るとICEではホンダのアドバンテージを感じることができましたが、BEV時代のホンダのアドバンテージはどんなところで発揮できると思いますか?
假屋:確かにICE時代のホンダ車ってとても楽しい。エンジンが気持ちよく回って、なおかつ燃費も良くて…と思われてきました。しかし、実はエンジンだけが楽しかったというわけではないのです。クルマとしてトータルでの造り込みがあったからこそ、ホンダらしい楽しさを感じてもらえたんです。そういう観点で捉えると、(パワーユニットが)エンジンからモーターに変わっていく一方で、完成車として足回りや内装は今まで通りしっかりやっていきます。
よくモーターになるとクルマが楽しくなくなってしまうのかも? と考える方もいらっしゃいますが、実はそうではないと思っています。モーターにおいても高効率を求めながらeアクスルを作っていくので、走りだけでなく電費性能の良いクルマを作ることができます。ホンダにはそこにライバルよりもアドバンテージがあると思っています。
◆パワーユニットは効率の良さで世界トップレベルにある
—:では電費性能は、他社に負けない開発をやっていく自信があるということなのでしょうか?
假屋:そうですね。我々のパワーユニットは効率の良さで世界トップレベルにあると思っています。効率の良さを訴えてもなかなかそのメリットが伝わりにくいと思いますが、これは電費性能でもメリットが発揮できるということなんです。
BEVでは(中国をはじめとして効率の良さを訴えるOEMはたくさんありますが)バッテリーの熱マネージメント(熱マネ)が難しいのは確かです。しかし、ホンダもこの熱マネがどうやって使えばいいのか、相当苦労した上でデータや試乗結果を反映しながら効率の良さで実績を積み上げてきました。その意味ではBEV時代でも他社に対してアドバンテージは十分発揮できると思っています。
—:LGとの協業によりバッテリーを北米で現地生産する計画も進んでいますね。他社製の電池を買ってきている他の自動車メーカーとイコールコンディションでBEVを作ることにおいてどんなアドバンテージがあるのでしょうか。
假屋:基本はLG製をライセンス生産することにはなりますが、工場にはホンダも出資しながら協業する中で行うので、そのロイヤリティは我々にも入ってきます。そういうコストが事業性にも関わってくるので、一般的な購入を行うよりも少しアドバンテージあるのかなと思っています。
ただ、BYDのような垂直統合ですべてやっているところと比較すると、さすがにコスト競争力はないという認識なので、将来的に我々も色々なバッテリーの展開を考えているところです。まずは、この0シリーズを育てる中でバッテリーをできるだけ自前化しながら、コスト競争力をつけていきたいと考えています。
—:バッテリーの生産も自前でやるとなれば、最終的に垂直統合での生産を目指しているのしょうか?
假屋:そうなっていくと思います。今や業界の流れが垂直統合の方向なので、どこかのタイミングでそれをやっていかないとやはり厳しいとの認識を持っています。
—:とはいえ、実際に移行するのにはかなり時間がかかるのではないかと思いますが。
假屋:時間軸で正確には答えることはできませんが、我々はハイブリッドの時代からバッテリーの開発をずっとやってきました。その生産を今までは外でやっていただいていたということなんです。言い換えれば、バッテリー開発に対する技術はかなり持っています。そんな中で、色々な協業なども考えながらどういうバッテリーを自分たちでやっていくべきなのかを、まさに今検討しているところです。
—:バッテリーには三元系やリン酸鉄系など色々種類がありますが、そういったものは分け隔てなくということでしょうか?
假屋:仰るとおりです。グローバルで様々なものがあるので、幅広いレンジを持ってバッテリーを安いものから高性能なものまで色々な取り組みを行っていくつもりでいます。
—:0シリーズの発表の中でCVCCエンジンの歴史のスライドが入っていましたが、その時の排ガス規制から50年ほどが経ち、今新たにZEV規制が入ろうとしています。そうした中でホンダは2026年に35%達成を掲げました。これは普通に考えては無理なのではないでしょうか?
假屋:ZEV規制に対しては、何年に何台対応しなくてはいけないとホンダとして計画しているので、ICEとBEVのバランスを見ながら対応していきます。我々はハイブリッドもBEVも持っているので、ICEだけで戦っているメーカーとは違います。もともとICE系でも効率の良いクルマを売ってきているので、今の総量を落とさずにICEとBEVのバランスをとっていけると考えています。もちろん、楽ではないことですが、確実に実行できると思っています。
—:ということは、台数をある程度販売しやすいコンパクトカーでも増やしていかないとZEV規制達成は難しいのではないでしょうか?
假屋:確かにテスラは2万5000ドルというBEVを販売しているし、そういう規模感は早期に実現しないといけないと思ってはいます。0シリーズのSALOONはフラッグシップとして登場し、それとは別に24年には『プロローグ』が計画通り登場し、さらにアキュラからは『ZDX』が登場する予定です。ホンダとしてもBEV全体で0シリーズを支えるべくラインナップは揃えていきます。
※編集部注:本田技術研究所 常務取締役 デザインセンター担当の南山俊叙氏へのインタビューで、CES 2024で発表された2台の他に、その中間として「SUVの車形を持つ0シリーズがある」とのコメントを得ている。
◆SALOONはほぼ発表したスタイルで登場、SPACE-HUBは?
—:SALOONの未来感のあるデザインを見て、これがほぼこのスタイルで登場すると伺い驚きました。まさに新しいホンダのM・M思想そのものである、その価値を見てほしいということでしょうか。
假屋:SALOONの外観はほぼこのままで行くつもりですが、インテリアはほぼコンセプトです。とはいえ、全高は低いけれどもBピラーをしっかりと立てて、今まででは考えられない、こんなものが成立するのか? と思わせる新しい広さ感を生み出しています。座ってみればわかりますが、車内に大きな開放感を備える広さを持ちながら、前方方向も広々とした視界を確保しています。それが新たな0シリーズの価値なんです。
これは機能美の追求から生まれたものであって、イタリアンスーパーカーとはまったく関係がありません。パッケージを追求するとデザインはあまり良くならないと言われてきましたが、我々はこの0シリーズでパッケージ機能を最大限活かしながら、目標を果たしていきたいと思っています。
—:ところで、0シリーズの発表の中で、SALOONの方はこの形で2026年に登場するとの話がありました。一方でSPACE-HUBは具体化していないのでしょうか?
假屋:どちらも、現時点ではまだコンセプトです。(SPACE-HUBも)今回発表してみると思った以上に反響がありました。正直、発表前は北米だとミニバンというと限定的になってしまうので、どうなのかとの思いはありました。しかし、皆さんから良いコメントをたくさんいただいており、考え直さなくてはいけないのかなとも思っているところです。
—:日本の自動車メーカーはミニバンは得意分野であり、(SPACE-HUBは)M・M思想を最大限に活かせる車種ではないかと思います。たとえば庭に駐車している時でも価値を持つクルマというところに大きなチャンスが生まれるのではないかと考えましたが。
假屋:日本では0シリーズとは別に軽EVでの展開を考えつつ、色々やっていく計画ですが、その他はグローバルカーでありながら日本でも戦えるクルマを準備していきます。そうしないと日本だけの台数ではさすがに厳しいんです。あれだけ軽市場が大きいと…。なので、軽は軽としてしっかりやっていきつつ、その他のカテゴリーはグローバルカーとして日本でも提供できるようにしていきたい。新しい価値を持つ面白い商品の展開を色々と検討していけばいいのかなと思っています。
假屋 満氏は車種設計出身で56歳。1986年にホンダ技術研究所に入社し、かつて一世を風靡した“07シビック・タイプR”のLPL(Large Project Leader)を務めたこともある筋金入りのエンジニア。2023年4月に電動事業開発本部四輪事業戦略統括部BEVビジネスユニットオフィサーに就任した。