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国内初、5Gで複数台の自動運転車を遠隔監視…遅延が減ってより速く 愛知県一宮市で実証実験
「前後ろよし、左右よし、歩行者なし、では出発しましょう」「対向車きました」「はいすれ違いました」……。ここは愛知県一宮市、4G・5Gといった波を送る巨大な電波塔がそびえるKDDI名古屋ネットワークセンターの一室だ。
モニターに映し出された映像は、ミニバン運転席からみえる前後左右の景色やスピードメーター。モニターとスタッフの間には、カーゲーム用に似たハンドルとアクセルペダル・ブレーキペダルがある。
◆モニター見ながら監視・制御する自動運転が、一歩前進
屋外では、そのモニターに映るミニバンが待機する。しかも2台。2台とも、運転席に人が乗ってない自動運転実験車。KDDI名古屋ネットワークセンターの一室(コントロールセンター)にいるスタッフが「行きましょう」と声をかけると、運転席に人がいない自動運転実験車が、するすると走り出す。助手席には、パソコン画面と前後左右をきょろきょろするスタッフ。
KDDI名古屋ネットワークセンターのコントロールセンターと、自動運転実験車の間は、次世代移動通信システム「5G」の電波で結ばれている。この5Gで自動運転車を遠隔監視・制御する実験が、実は日本初の試み。関係者は「さすが5Gは通信遅延を感じず、早く伝わるので、クイックに動いてくれる」と、とりあえずは満足げ。
◆複数台を監視・制御、さらに5Gで速く
この実験で注目されるのは、「実用化をみすえた複数台の遠隔型自動運転車両の同時使用」。将来的に、ひとりまたは2人といったコントロールセンターの監視・制御スタッフで、3台、4台、5台と、複数台の自動運転カーを監視・制御できるシーンを想定している。今回の実験では、2台をひとりの監視・制御スタッフがみつめ、緊急時対応のために、うしろに予備員が待機するという格好だった。
次に注目が集まるのは、4G LTE通信の次、5G でどれだけ遅延なくリアルタイムに通信・制御できるかという点。通信遅延が少なくなればなるほど、緊急時の制御などもクイックに行えることから、走行スピードもそのぶん速く設定でき、「普通のクルマと同等の走り」が実現する。
◆5Gでつないで動きはよりクルマらしく
KDDIのデータによると、5G の接続数は 4G の10倍の100万デバイス/km3、遅延度は 4G の1/10の1ms。これで、高精細映像による運転監視や、時速30km以上で走ることができるというから、大きな前進となる。
2月9日の同実験を視察した愛知県の大村秀章知事と一宮市の中野正康市長は、「30km/hっていうけど、意外と速いんだね。運転席に人がいないで、こんなに速く、しかも安全に走るのを目の当たりにすると、完全自動運転の将来もそう遠くないなと思った」と試乗したあとにコメント。
◆産官学、愛知・一宮で見えてきた完全自動運転
この国内初「5G等を活用した複数台の遠隔監視型自動運転の実証実験」は、愛知県の平成30年度(2018年度)自動運転実証推進事業のなかの試み。事業を統括するアイサンテクノロジーが高精度3Dマップ更新・作成、アプリケーション作成、自動運転の実証などをまとめる。
KDDIは、5G自動運転車の開発・提供、4G LTE通信ネットワークの提供、5Gエリアの構築・評価、車載通信機・遠隔管制卓とクラウドシステムをつなぐ通信システムの提供などを手がける。
◆大手企業から地方大学までが連携
またここに、KDDI総合研究所、損害保険ジャパン日本興亜、ティアフォー、岡谷鋼機、名古屋大学などがも参画。ティアフォーが出資する埼玉工業大学のベンチャー「フィールドオート」も同実験に参加し、日本初の5Gでつながる自動運転車の助手席に座るシステム監視要員には、埼玉工業大学の大学院生が抜擢された。
今回は 4Gでつながった自動運転実験車と5Gでつながった自動運転車の2台で実験。5Gでつながる自動運転車を体験した60歳代の市民は「もうそろそろ免許を返納する年になる。いままでは文字通り手動車だった。この5Gによる自動運転実験車に乗ってみて、まさに“自動車”であることを実感した」と笑った。
現場では、アイサンテクノロジーMMS事業本部の佐藤直人取締役本部長や、ティアフォーの加藤真平最高技術責任者・東大准教授、損害保険ジャパン日本興亜自動運転タスクフォースの新海正史課長、岡谷鋼機の佐藤宏昭取締役、埼玉工業大学情報システム学科の渡部大志教授、KDDI技術統括本部の赤木篤志執行役員らが、自動運転実験車をみつめる姿があった。
最後に、KDDIスタッフに聞いてみた。「きょうは右左折、ストップアンドゴーなど、コントロールセンターの監視・制御スタッフが手を出すケースはあったか?」と。その返事は、「コントロールセンター側が制御するケースはなかった。ほぼ自動運転」だった。