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こだわりづくしのロードスター30周年記念モデル、「乗って楽しくなければ撤退する」…開発者の思いを聞いた
日本時間の8日未明、シカゴモーターショー2019でお披露目となったマツダ『ロードスター』の30周年記念モデル。この発表に先立ち、国内メディア向けの取材が可能とのとで、開発主査・チーフデザイナーの中山雅氏にインタビューを行った。
30周年記念車の仕様、こだわりのポイント、デザインへの思い入れ、開発者側のメッセージについて詳しく聞くことができた。海外モーターショーでワールドプレミアとなる車両について、国内で事前のインタビューが設定されることはあまりない。マツダが今回事前取材を設定したのは、30周年記念車は、「ショーのプレゼンでは説明しきれないことがありすぎる(中山氏)」ためだ。
◆カラーコーディネートされたブレーキキャリパーとドアトリム
異例の形のインタビューとなったわけだが、その思い入れについて語っていただく前に、30周年記念車のスペックや特徴を軽く整理したい。
ロードスターNDをベースとした30周年記念車。ボディデザインの大きな変更はないが、外観の特徴でまず目を惹くのは、鮮やかなソリッドカラーのオレンジだ。いまや大衆車でもメタリックやパール塗装が設定される時代に、明度・彩度ともに強烈なソリッドオレンジ(レーシングオレンジ)はインパクトがある。
3層塗装のオレンジボディが、周囲の証明や明るさに影響されない存在感を醸し出す。ボディカラーにまつわる話は、インタビューで中山氏にじっくり語ってもらうが、ガンメタホイールの間から覗く、ボディカラーに合わせる形のオレンジキャリパー(F:ブレンボ製、R:NISSIN製)が、スニーカーのワンポイントのようにデザイン効果とプレミア感を高めている。
◆専用レイズ製ホイールやシリアルナンバー入りオーナメントのプレミア感
足回りは、ビルシュタインのダンパー(MT車)と、この限定モデル専用の鍛造アルミホイールが装着される。アルミホイールはレイズ製で、ブレンボのキャリパーを日本モデルの16インチに合わせるため、新規に開発されている。
30周年記念ロードスターは、グローバルで3000台が限定販売されるという。その証として、「30th Anniversary」オーナメントにはシリアルナンバーが入る。
コンセプトカラーのオレンジは、ドアトリムやシートのステッチなど内装にも施される。シートはレカロの特注品だ。他にも9スピーカーのBoseサウンドシステム(AUDIOPILOT2)、Apple CarPlay、Google Android Auto(北米・欧州・豪州仕様のみ)に対応したコネクテッド機能を搭載。スピーカーはヘッドレストにも内蔵される。
エンジンはSKYACTIV-G 1.5とSKYACTIV-G 2.0のモデルが設定される(日本ではソフトトップに1.5リットル、RFに2.0リットル)。トランスミッションは6速のMTとATとなる。ロードスターの以前の記念モデルや限定車は、エンジンパーツをバランスとりした選別品で組んでいたこともあったが、SKYACTIVエンジンは、パーツのバランスとりがラインの中に組み込まれている。
◆30周年記念車に込めた思い
30周年記念モデルの特徴と主な諸元は以上だ。続いて、今回のロードスターの仕掛け人、中山氏に話を聞こう。
—-:まず、ロードスター30周年記念車の企画についてねらいとコンセプトについてお話いただけますか。
中山氏(以下敬称略):ロードスターは10周年、20周年、25周年と周年記念モデルをなんどか出しています。これらのモデルは、周年の節目ごとに新しいクルマの提案がコンセプトでした。しかし、25周年のあと、ロードスターの累計生産台数が100万台を超えました。30周年記念車は、これまでロードスターを愛してくれた人への感謝を込めた企画として考えました。
とはいえ過去を振り返るだけではありません。次の30年も見据えた決意もあります。
—-:ロードスターはこれからも続くということですね。
中山:はい。そのひとつがボディカラーです。レーシングオレンジと名付けた色は、朝日の色をイメージしています。100万台達成というひとつのマイルストーンであると同時に、次の時代の夜明けに向かうという決意の色ですね。ソリッドカラーにこだわったのは、反射や光の効果ではなく、ボディそのものの色としてオレンジを出したかったからです。薄暗いところでも、黒やグレーに沈むことなく発色してくれます。
塗装は、オレンジの2度塗りと最後のクリア塗装の3層塗装を施しています。ソリッドのオレンジ系はきれいに発色させるのは難しいのですが、マツダの技術で実現した色です。
◆787Bの血を受け継ぐ特注16インチホイール
—-:コンセプトカラーはブレーキキャリパーにも使われています。フロントはブレンボ製とのことですが、これも特注ですよね。
中山:フロント、リアともにオレンジの塗装をしてもらいました。ブレンボのキャリパーは、17インチホイールならば普通に入るのですが、16インチとなると使えるホイールがありませんでした。そのため、『787B』のホイールでもお世話になっているレイズさんにお願いして、16インチでブレンボのキャリパーが入るホイールを作ってもらいました。
サイズ合わせだけなら単にスポークを削ればいいのですが、それでは十分な強度が確保できません。ホイールの剛性も変わってきます。レイズさんのレース用ホイールの技術で、ブレンボが入るのに、強度・剛性では妥協しない16インチ鍛造ホイールを用意しました。ホイールにも30周年の刻印が入ります。リム幅は6.5Jから7Jになりましたが、タイヤの見た目もかっこよくなったと思います。
—-:スペシャルカラーとコーディネートされたキャリパー。それに合うレイズの特注ホイール。これだけでも限定車を買うべきですね(笑)。
◆コトづくりにつながるモノづくり
—-:ところで、30年前、ロードスターが初めて発売されたときイエローのショーモデルがあったと思います。スポーツカーにも使われるソリッドカラーという点ではイエローという選択肢はなかったのですか。
中山:1989年のシカゴ自動車ショーでロードスターのワールドプレミアをしたときの「クラブレーサー」ですね。もちろん、イエローという意見もありました。しかし、30周年はみなさんへの感謝という意味があります。限定車ですがなるべく多くの人に買ってほしいので3000台という生産台数にしました。グローバルでこの数を考えた場合、マーケティング的にもオレンジが支持されました。
クラブレーサーですが、MOMO ベローチェレーシング(ステアリング)の他、大型スポイラー、樹脂製ヘッドライトカバーなど、未来感をイメージしていました。その意味では、当時としての「夢」を実現するという「コトづくり」の提案だったと思います。
30周年では、これまでのロードスターに投入された技術や情熱、ユーザーへの感謝を込めていますので、むしろ積み重ねられた技術や製品という「モノづくり」を体現していると言えます。
—-:なにかと「モノからコトへ」と叫ばれがちな現在において、過去のコンセプトカーがすでにコトづくりを実践していて、最新の記念モデルでモノづくりへのこだわりを見せるところはマツダらしいですね。
30年前のユーノス(北米名:ミアータ)を出した時のキャッチコピーが「だれもがしあわせになる」でした。そういった提案と、実際の技術による実装は、マツダにとって今も昔もありません。
—-:最後に、次の30年、ロードスターはどう進化していくのでしょうか。
中山:具体的にどうなるかはわかりません。しかし、ライトウェイトスポーツとしてのコンセプトは変わりません。大排気量化や大型化がスポーツカーのすべてとは思いません。クルマごとに適切な大きさや重さ(軽さ)というものがあると思います。乗って楽しいクルマであることがロードスターの価値です。マツダのブランドアイコンにもなっていますし、楽しさはマツダの魂といってもいいでしょう。
ロードスターは絶対にやめません。仮にパワートレインが電動化されたとしても、乗って楽しくなければロードスターではありません。それができないときは作らないでしょう。