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【ホンダ N-BOX 新型】どこ? 変えないところ、変わったところ…パッケージデザイナーにインタビュー
ホンダは日本で最も売れている軽スーパーハイトワゴン、『N-BOX』のフルモデルチェンジを発表。そのパッケージはユーザーの声を真摯に受け止めた内容だった。パッケージデザイナーに詳細について話を聞いた。
◆変えないことへの勇気
—:今回、飯泉さんがN-BOXの担当が決まった時にどう思いましたか。
本田技術研究所デザインセンターパッケージデザインPLの飯泉麻衣さん(以下敬称略):シンプルに、一番街中で見る機会が多い機種をやらせてもらえるというのが嬉しかったですね。自分がやったクルマをこれから街で見ることが増えるというのは、モチベーションにもつながりますし、結構プラスなイメージでした。もちろん重圧もありましたけど。
—:デザインなどはいろいろな工夫ができると思うのですが、パッケージング、特に軽のパッケージングはサイズやエンジンの搭載位置、タイヤの位置などが既に決まっています。そういった中で新型N-BOXはどのようにしていこうと考えたのでしょう。
飯泉:確かに先代で完成形に近づいてきていますので、パッケージは何するのかを考えるために、まずはお客様からの市場要望としてどんな意見が出てきているかを、考えるきっかけとしました。その内容として、広さに関しては満足されていることが分かりました。もちろん他社もフルモデルチェンジしていますが、それに対する競争力も十分であることが分かったことがスタートラインです。
そこで“変えない”ことを、勇気を持って肯定していくのが今回難しかったところです。社内で変えないことを肯定して進めていくのは難しかったですね。どこかを新しくしなくていいのかという意見もあり、そこを変えなくても大丈夫なんですと、コツコツ証明していきました。
—:これからも他社から新型車が投入されてきますから、それはとても勇気のある決断ですね。
飯泉:はい、実際に着座位置などは変える必要はないと最初から割り切っていました。もちろん使い勝手みたいなところは変えていかないとお客様も満足していただけないので、そこはインテリアデザインなどと一緒にアイディアを出してやっていきました。そのひとつがグローブボックスから出る充電等のケーブルを噛まないとか、ポケットが広いとか。このように自分の担当領域を超えてアイディアを出し合いました。
エクステリアでもヘッドライトの丸目の印象はどう思うというテーマで、消費者目線でフラットに話をしたり、インテリア、パッケージ、CMFそれぞれで、女子的にはこう思うとか、ママ的にはこうだとか意見を出し合いました。
このようなメンバーでしたのでとてもチームワークが良くやりやすかったですね。パッケージを変えないというのも、インテリアの皆と一緒に荷物を載せたりすることで、こんなに他社より広いんだということをしっかり把握できました。それをしっかり守っていこうと、自信を持ってやっていけたのが良かったと思っています。
◆運転のしやすさに直結する視界を改めて見直して
—:いまユーザーの声を聞いたと仰いましたが、そこからN-BOXの強みと弱みが出たと思います。強みは広さなどだと思いますが、弱みはいかがでしたか。
飯泉:視界が数件ですが出ていました。運転に不慣れな方が軽自動車を選びやすい傾向にありますし、ママさんが乗ことも多いです。もちろんダウンサイザーも視界をしっかり担保しないと不安に感じてしまうでしょう。
その点で、先代のアウトホイールメーター(ステアリングの上からメーターを見るスタイル)は、運転時の視界とメーターの距離が近いので、視線の移動幅は少なくすごく良いところがありました。しかし小柄者、身長が150cmかそれより低い方の意見で、必要以上にシートの高さを上まで上げてしまい、見下ろして運転することで不安になる。そうすると緊張してステアリングも自分に近づけて運転してしまうという意見が数件あったのです。
そこで、安心してしっかり運転してもらえるように、インテリアデザインと相談して、メーターをステアリングの中から見えるようにすることで、自然な姿勢で誰もが運転できるようにしています。
—:つまり、数件であっても重要な要件として改良を行ったということですね。
飯泉:はい。初代はママと子育てのために開発し、2代目では大柄な方でも適切なドライビングポジションを確保できるよう、他社よりもスライド量も後ろまで確保しました。そこから視線移動が少ないアウトホイールメーターという提案をやったのですが、小柄者の方に少し運転がしにくい要素もあったのかと気づきがありました。
そこで今回はメーターをステアリングの中に入れるとともに、大きいデジタルのメーターにして、パッと見ていま何km/h出ているかということがわかりやすくしています。ちょっと視線を落として速度を確認してすぐに戻れると思いますので、運転のしやすさと視認性が両立しています。
そのほかのネガティブな意見は、N-BOXだとか軽自動車に対しての意見というよりも、登録車、中でもよりサイズの大きいクルマにある装備、例えば電動パワーシートとかの要望だったのです。そこは軽自動車ですからどこまで採用するかは悩みどころでした。
—:そういった意見は、ダウンサイザーがこのクルマを購入している割合が大きいこともあって、出て来るのでしょうね。
飯泉:そうですね。前はもっと大きいミニバンやセダン、SUVに乗られていて、軽自動車に乗り換えた時に、こういう装備がないみたいなネガの意見がありました。つまり他社の軽同士で比べると、あまりネガというところは視界以外で大きくは出てこなかったかなと思ってます。
◆細かい工夫からより使い勝手も向上させて
—:今回、それでも室内を少し広くしましたよね。それはどういうこだわりだったのでしょうか。
飯泉:着座位置を大きく変えるとエクステリアとのバランスなどにすごく影響が大きくなってしまいますので、ここは変えないと決めていましたが、それ以外で広さを感じられるところは引き続きやっていくべきと取り組みました。一番大きく変わったところでは後席の肩周りの広さが広がっています。これはパッケージとして広げたかったというよりは、サイドのポケットを大きくしたかったという話からスタートしました。もともと後席はすごく広くて、結果的にゆったり過ごせるようになっていました。
ただ、使い勝手という面で見ると、お子様は後席に乗ることが多いのでフロントシートの後ろにポケットを用意していたのですが、そこに子供は手が届かないんですよね。そこからアイディア展開が始まったのです。
後席のサイドにはカップホルダーしかなかったところに、子供のお気に入りのおもちゃとか、よく使うティッシュとかをプラスでしまえるようになると、みんな嬉しいんじゃないか。そこで、ハーネスのレイアウトを見直してポケットを大きく作り、上からごそっと入れられるように掘り込めば、同時に肩周りも広がります。どんな使い方するのかというのを持ち前のチームワークの良さで、アイディアを出し合ってやった結果としてパッケージとしても広くなったことにつながっています。
—:今回、自転車をそのまま乗せられることも先代同様に重視されましたね。
飯泉:先代から引き続きやっているところなのですが、もともと子育て中の親御さんが中高生のお子さんを迎えに行く需要があって、大事にしてきたところなのです。今回もそこをより良くしていこうと、ボードの形状を先代よりもくぼみをフラットにして、前輪も転がしやすくしたり、スタンドも着地させたときの安定性も高めたりしています。
他社も自転車を載せられることを訴求し初めていますが、ハンドルの高さがある自転車を載せられるのはN-BOXだけの価値ですし、そこは守り続けています。
—:そのほかパッケージでこだわられたところがありましたら教えてください。
飯泉:ピタ駐ミラー(サイドビューサポートミラー)があります。もともとAダッシュピラーのところにミラーを2つ付けていました。これは運転席から見て助手席側の前輪と後輪を幅寄せするときにしっかり見られるように取り付けていました。片方が後輪を見るミラー、もう片方が前輪を見るミラーになっていたのですが、同じ位置に付いていたことで、パッと見たときに本能的に分かりにくかったのです。そこで、リアタイヤ付近を見るミラーをドアミラー下に取り付けました。そうすることで、後輪はドアミラー、前輪はAダッシュピーラーを見ると位置を変えてわかりやすくしていますので、自信を持って幅寄せができると思います。