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【トヨタ ランドクルーザー250】原点は40系、その精神を受け継ぐ…デザイナーにインタビュー
トヨタは『ランドクルーザー』のフルモデルチェンジを発表。そのデザインも大きく変わった。その意図するところは何か、なぜフロントデザインは2種類あるのかなどを担当デザイナーに話を聞いた。
◆原点回帰!?
—:渡邊さんこれまでもランドクルーザーには関わって来ていたのですか。
トヨタMid-size Vehicle Company MSデザイン部主査の渡邊義人さん(以下敬称略):いえ、ランドクルーザーはこれが初めてなんです。これの前は『ハリアー』、その前は『GRスープラ』と、趣味性の高いクルマで、しかもそれぞれ割と個性があるクルマを担当してきました。
—:では最初にこのクルマの担当が決まった時にどう思いましたか。
渡邊:嬉しかったですね。というのは、私が子供の頃、父が「60」に乗ってまして、いつかランドクルーザーに関わることができたらと何となく思っていたのです。ですから任されて本当に嬉しかったですね。
—:その時にどのようにデザインしていきたいと考えていましたか。
渡邊:その時は、いまの「ランドクルーザー300」や「プラド」などの延長線みたいなところを考えていました。というのはこれらのクルマはとても好評で、お客様やディーラーからあまり変えてくれるなという話があったんです。
しかし、当時の社長の豊田(現会長の豊田章男氏)から、高級SUVなどが世の中に増えてきており、そういった状況でランドクルーザーは何をすべきか、ランドクルーザーというものをもう少しよく考えようというヒントをもらったんです。その際に漠然と、原点回帰というテーマもいただいたので、そこでリセットしました。
もちろん最初は原点回帰といわれても正直、色々な答えがあるのでだいぶ悩みました。ただ、気持ちの中では何かのオマージュにはしたくないとは思っていました。ランドクルーザーには多くの資産があるんですよね。機能由来の様々な形があって、そういったところを学びながらも、何かの具体的なオマージュではなく、新しいものを目指しました。
ただ、精神的には「40」が原点だと考えています。それはこの形というよりも気持ち的にです。初期のランドクルーザーが警察予備隊に採用されたりするなかで、この40が初めて一般のお客様に広がったんです。特にアフリカとかそういった地域で普通のお客様にバーッと広がったんですね。では、世界中で圧倒的に売れてるのはどれかというと、このライトデューティのランドクルーザーなんです。いま300があって、ワークユースの「70」があり、その間に来るライトデューティの役割は、これからも世界中の広いお客様に一番受け入れてもらえるようにするということ。その考え方は40が一番近いと思うんです。ですから、この考え方をどう生かすかに注力しました。
—:つまりデザインでの原点回帰は、精神的なところをどう新しくいまの時代に生かそうかということですね。
渡邊:そうです。直接的に何々から形を取りましたとか、そういうことではないのです。過去のクルマを見渡すとこれだけすごいアイコンがあって、その何かの真似をしたら負けてしまうんですよ。なので、僕としても真似をするのではなくて、違う価値をこの歴史に1台残したいなという気持ちがありました。
◆命を預けて信頼できる1台
—:では40の精神をいまに生かしていこうとした時に、どのように解釈してこのデザインを生み出していったのでしょう。
渡邊:日本はちょっと特殊ですけれど、やはり未だにこのクルマがないと生活ができない、物資が運べない、医療が成り立たない地域があります。そういうところで何がこのクルマの価値かといったら、命を預けて信頼できる。そこだと思うんですね。いまの技術やいまの世の中を見ながら、何がその信頼に足るのかを解釈するのが原点回帰だと思ってやりました。
—:それを具体的に今回のデザインに生かしたところはどこですか。
渡邊:まず大きくは視界です。悪路に行って足元あたりの視界がよく見えるというのは非常に安心感が強いのです。ですから視界はものすごくこだわりました。ベルトラインを30mm下げたり、Aピラーをかなり室内側に引いて立て気味にするなどでフードの見え方の工夫もしています。
そういった視界の良さとともに、もうひとつは室内のインパネ周りのスイッチ類があります。今時はタッチパネルが多いんですが、あえて物理スイッチを採用し、ダイヤルやボタン式などいろいろな方式を混ぜて、触ったらわかるようにしています。センタースクリーンはタッチ式ですが、その下に段差を設けて手首を置いて操作できるように考えてもいますし、シフトレバーも上に手を置いて、センタークラスターのスイッチを上からピアノタッチも出来ます。こういったことは実際に悪路を何度も走って、またテストドライバーの話を聞きながら作り込んでいきました。
—:そういった考えは、スープラなどにも共通性がありますよね。
渡邊:同じです。そのときはドイツに3年住んで、ニュルブルクリンクなどでプロドライバーの横に乗って開発をしていました。スープラはどちらかというと、横G系でこちらは縦Gで少し違うのですが、ひとつ通じるところの例は、スープラ以降ニーパッドは必ずこだわって採用しています。スープラはもちろんハリアーにもつけています。いざというときに膝で踏ん張れることが大事だと思っているからです。
◆TOYOTAにするために直談判
—:今回顔周りが2種類あります。これはどういう意図なのでしょう。
渡邊:いま、お客様は多様化していますよね。ランドクルーザーは170の国や地域で販売しています。下手をしたら『カローラ』より多いかもしれせん。そこでフロントフェイスは1種類で良いのかなということがありました。いま販売している300は割とモダンですよね。そのもう一方に70がありまして、その間がポカーンと空いてたんです。そのど真ん中に打とうとしていますので、そのど真ん中からちょっと70寄りのものがあったり、もうちょっと300寄りがあってもいいかなということです。
我々は変えるチャレンジとして横長のヘッドライトの方でトライしたところ、社内で評判が良かったんです。そこで満足するのもちょっとつまらないので、変化球で丸目も出してみたところ、意外とこれも盛り上がったんですよね。ただ、あくまでも意識として、ちょっとレトロというか懐かしいデザインを最初に、という意識は全くありませんでした。あくまでもお客様の多様性を考えた結果です。
特に若い方は、懐かしいランドクルーザーをすごくいいといって買ってくださる方もいますので、そういう方には(丸目顔は)新鮮に見えるでしょう。同時に往年の方にも、丸目顔こそランドクルーザーといってもらえるような顔も揃えたかったのです。
あとは、若干僕の父親の60が頭に少しあったことも否めません。
また、いま時のクルマはランプが横にまで広がってつり目で割とワイドに見せていますが、どちらのクルマもなるべく機能をギュッと集約して重箱のお弁当みたいに、具をきっちりこのフロントの中に収めるデザインです。これは40や70も含めてみんなそういう考えを持っていて、それをこのクルマでも採用しているのです。エレメントを一個一個見ると全然違いますよね。でもなんとなく見たとき、ランドクルーザーに見えるというのはそういうバランスなんです。
もうひとつ、これは社内では上層部に直談判してグリル内にTOYOTAと入れましたし、ステアリングにも入れています。これを復活させたのは大きいです。実はそんなに簡単に使えるものではないんです。
—:本来であればTマークにしなければいけないんですよね。
渡邊:それを上層部に、プロフェッショナルなトヨタのクルマとしての信頼の証という意味で、これをどうしても復活させたいという強い思いがあって、使わせてほしいと直談判したんです。
◆地面に対して水平なのがランクル
—:今回のデザインのコンセプトは何ですか。
渡邊:まさに機能美です。ですから飾り立てたりとか、形のための形という意識はありません。
—:機能美といっても、色々な考え方がありますが、このクルマではどう解釈したのですか。
渡邊:そうですね。例えば今回シャシーを300に使っているGA-Fというとても良いプラットフォームを持ってきましたし、我々が黄金比と思っているホイールベース、2830mmにしていますが、やみくもにクルマを大きくしたいとは思っていません。車幅はむしろ抑えています。もちろんトレッドを広げてタイヤがだいぶ踏ん張っているところはありますが、ドアミラー幅は実は現行型と一緒ですので狭いところでの乗り降りもしやすくなっています。そういったところも含めてボディはぎゅっと凝縮させて、足回りだけがぐっと踏ん張って、走行性能は上がっていることを強調しながら、無駄に大きくしていないのです。
—:エクステリアでは、キャラクターを強調するラインがあったりしますが、そのあたりの意味を教えていただけますか。
渡邊:まずは水平、ド水平にしています。一般的にはウエッジとよく呼ばれたり、使いたくなりますが、ランクルの場合は前につんのめったクルマではなく、歴代共通ですが、地面に対して水平。そこで、窓を天地に広げたりしているのです。
それからフェンダーフレアが出ており、タイヤがしっかり踏ん張っているのは、40も「BJ」もだいぶ踏ん張っていますよね。この雰囲気を出したいという思いです。
あとは下回りや角を徹底的に面取りしています。要はこういうところ(ドアの下部やボディ四隅)をぶつけやすいんですね、林道とかで。実はこれは70から来ているんです。そして四隅の面取りは40からの由来です。
またランプはだいぶ寄り目にしています。これも40などみんなそうですけど、枝とかぶつけてもヘッドランプが割れないように寄せて、高くしています。こういったことは結構基本に忠実にやっています。
—:いまフェンダーのフレアの部分のお話が出ましたが、実用性ではぶつけやすくなるということはありませんか。
渡邊:確かに使いやすさを日本の道路事情で考えるとちょっと邪魔かもしれません。ですが、アフリカなどに行くと、ホイールが見えるということは非常に大事なんです。窓越しに身を乗り出して、いまタイヤがどういう状況にあってこの後どうステアリングを切ればいいかを判断するために、見えるというのはすごく大事なんです。
—:まずはクルマの挙動や姿勢をどう把握させるかなのですね。
渡邊:全てそれですね。ベルトラインが水平なのも、ウェッジしてるとちょっと分かりにくいですしね。インパネも直線基調でスカーンとやっているのも、クルマの挙動や姿勢が分かりやすいためです。全部そういったところからデザインしています。
—:その一方で現代風にも仕上げなければいけませんよね。
渡邊:それは面質、面のクオリティで表現しています。ぱっと見四角い箱でこれは70もそうですし、みんなそうなのですが、一番違うのは、70は折り目正しい箱で、新型はただの箱ではなくて、割とギュッと凝縮されていて、ホイールフレアあたりは結構曲面で構成しています。そういうところを織り交ぜながら高品質でちょっとモダンな箱にしているのです。
—:やはりモダンは必要ですか。
渡邊:昔のランクルたちにこだわり過ぎていたら、これでいいじゃないかという話になっちゃいますので(笑)。あとはいまの時代に堂々と乗っていただきたいという思いです。
◆人生の一部にランドクルーザーがある
—:ディテールなのですが、ルーフの切り替えは何かテーマはあるのでしょうか。
渡邊:あれは2つ理由があります。ひとつは昔のランドクルーザーはルーフ厚いんですがいまのクルマはちょっと薄いんです。そこでなるべくルーフが厚くて、ギュッと凝縮した感じに見せたいと錯視を利用しているのです。
もうひとつは2トーンカラーで塗り分けするクルマもあるので、その塗り分け性もあります。それからそこに部品を付けて、例えばシュノーケルとかをここに締め付けることも想定しています。
実は意図的にサードパーティーとかいろんな方に楽しんでいただきたいと思っています。ですからバンパーもあえて分割してバラバラに変えられるようにもしています。サードパーティーなど皆さんにどんどん変えて楽しんでくださいという思いです。もちろん修理性を良くするのが最も重要ですが。
—:最後に渡邊さんにとってランドクルーザーとは何ですか。
渡邊:僕自身もそうなんですが、人生の中でこのランドクルーザーがあったからこそ豊かになったとか、こういう思い出があったということが大きく関係しているクルマなんです。本当にいろんな国の方々と対話させていただくと、これがなければ生活は成り立たなかった、これがあったからこうだっていうエピソードがすごくたくさんあって、そういう人生の一部になれるクルマであり、そういうことに寄り添えるクルマこそがランドクルーザーだと思っています。