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「ディスプレイはひとつだけ」ボルボ『EX30』のインテリア、注目は「センター集中化」と「サステイナビリティ」
ボルボは新型のコンパクト電動SUV『EX30』を投入する。年内に日本への導入も明らかになっているEX30のインテリアに関する情報が、6月7日の正式発表に先駆けて一部公開された。
同時にインテリアデザインとUX=ユーザーエクスペリエンスの責任者に話を聞くことができたので、彼らの言葉も交えて概要をお伝えしよう。
◆ディスプレイはセンターにひとつだけ
ダッシュボードの中央にそびえる12.3インチの縦長ディスプレイ。これはフラッグシップの『EX90』と同じだが、EX30ではドライバーに必要なすべての情報をすべてそこに表示する。言い換えれば、テスラの『モデル3』や『モデルY』と同様に、ドライバーの目の前にはメーターもディスプレイもない。EX90にはあるヘッドアップディスプレイのオプションも、EX30にはない。
運転中にディスプレイを見るには視線移動が必要そうだが、「iPadのスクリーンとは違って縦に長いし、それを高めの位置に置いている」と語るのは、UX責任者のトーマス・ストビチェク。
ちなみに運転中に見たい速度やバッテリー残量はディスプレイの最上段に表示される。「それが周辺視野に入るから、運転中でも非常にクイックかつイージーに一瞥できる。見やすさは従来のメーターと何ら遜色ない」とストビチェクは強調する。
ダッシュボードの上には、幅一杯に広がるスピーカー。ドライバーの前にメーターがないからこそ生まれたデザインであり、EX30のインテリアを特徴づける大きな要素だろう。ボルボはこれを『サウンドバー』と呼ぶ。
スピーカーをサウンドバーに集約した結果、ドアにスピーカーが不要になって収納スペースを最大化すると共に、配線を含めて部品点数の削減と軽量化を実現したという。『XC40』ではウーファーをダッシュボードに内蔵してドアポケットを拡大したが、その考え方をさらに推し進めたわけだ。
◆センター集中化という原則
普通なら助手席側にあるグローブボックスは、縦長センターディスプレイの下に配置。運転席と助手席の双方から手が届きやすくするためだ。パワーウインドウのスイッチも、ドアからセンターコンソールに移した。トーマス・ストビチェクはそこにあるコンセプトを「センター集中化」と表現する。
センター配置のウインドウ・スイッチは、かつては欧州車でよく見かけたが、今や希な存在だ。自分より外側にあるウインドウを上下させるために、それとは逆方向のスイッチに意識を向けるのはあまり自然な行為とは思えない。だから淘汰されてきたと考えられるのだが…。ストビチェクがこう答える。
「電動プラットフォームのおかげで従来はセンタートンネルだったスペースが空いたので、そこに多くのものを集めようというのがセンター集中化の考え方だ。それに伴って慣れ親しんできた使い勝手が変わる部分もあるけれど、ドアの収納を広げ、ボトルも入れられるようにするなど、新しいチャンスをもたらしている」
ボルボが公開したスケッチから判断すると、スイッチがないぶんドアのアームレストを短くでき、だから収納スペースに縦長のものも入レラレルということのようだ。
「もちろん多くのテストを行った。使い勝手や人間工学のエキスパートが評価した結果、このウインドウ・スイッチがチャレンジだという根拠は一切なかった。物理的なスイッチだから、どう動かせばよいかはすぐにわかる。ウインドウに意識を向けたまま操作できるよ」とストビチェク。インテリアデザイン責任者のリサ・リーブスも次のように指摘する。
「スイッチの形状は、操作性をロジカルに考えた。実際のところ、使うときにそれを見る必要はない。感覚で位置がわかり、使うことができる」
「感覚で位置がわかる」は大事な言葉だ。例えばBMWの初代~2代目ミニのウインドウスイッチは、ダッシュボード下のコンソールにあり、意識も視線もそこに向けないと使えなかった。しかしEX30では、スケッチを見る限り、センターアームレストの前端にスイッチを組み込んでいるらしい。これなら、おのずと指先がスイッチに行きそうだ。
センターコンソールも左右乗員の共用部位。大容量のトレイとアームレストから成り、アームレストからスライド式のカップホルダーを引き出すことができる。カップホルダーを使わないときはトレイにバッグなども置けるし、トレイの下には小物を隠しておけるスペースもある。
◆サステイナブルなシート表皮
EX30はボルボ史上で最もカーボン・フットプリント(ライフサイクルを通じたCO2排出量)が小さいクルマだという。それを実現するための方策のひとつが、デニムや亜麻、羊毛といった自然由来の素材をシート表皮に使うことだ。
デニムはもちろんジーンズの素材。基本的には木綿の糸を綾織りしたものである。リサ・リーブスによれば「工場で廃棄されたデニムを繊維に戻し、それを撚り合わせた糸でまたデニムを織るというのはすでに行われている」とのこと。「しかし非常に短い繊維は捨てるしかなかった。それを活用し、合成繊維と混紡することでクルマに使える素材にした」
木綿や羊毛はシート表皮に必要な耐久性がない。一方、現在のクルマのシート表皮には、難燃性や耐久性の観点からポリエステルが使われている。回収したPETボトルからリサイクルできるのもポリエステルの利点だ。
EX30では、デニム由来のシート表皮はデニム繊維とポリエステル繊維を50%ずつで混紡。羊毛の場合は、羊毛が30%、リサイクルされたポリエステル繊維が70%という比率だという。
もうひとつの亜麻は、アマ科の1年生植物。少ない水や肥料で栽培できるので、その茎の繊維を使って生地にしたリネンもサステイナブルなシート素材として注目されている。
しかしEX30が使うのはそれではない。亜麻の種子からリサイクル可能なシート表皮を開発した。亜麻の種子を絞って得られるのが、健康食品として知られる亜麻仁油。これを原料に、合成繊維に代わる新たな自然由来の繊維を生み出したということのようだ。
BEVだからサステイナブルという単純な話ではない。リサ・リーブスはカーボン・フットプリントを減らすために、最も効いたのは空気抵抗の低減であり、その次は軽量化だったと告げる。そこに少し上乗せするのがサステイナブルなシート表皮だが、ここでもサプライヤーを巻き込んだ開発競争が激しくなってきている。EX30がその最前線に躍り出ることは、間違いないだろう。