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ティアフォー、ソニー・ホンダモビリティの代表がこれからのモビリティを展望…SIP自動運転シンポジウム
2018年から政府が推進してきた戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」がこの3月で終了。その「成果展示会&自動運転シンポジウム」が秋葉原UDX(東京都千代田区)とオンラインで3月7・8日に開催された。
SIPの第2期では、自動運転の社会実装に向けた技術開発や実証実験等を進めてきたところで、その5年間では信号情報、合流支援情報、車線別渋滞末尾情報等の交通環境情報の構築と配信に係る検証を行ってきた。今回のイベントではその成果を一般に広く告知することを目的に、成果展示会と、自動運転の未来をテーマにしたシンポジウムを併せて開催したものだ。
ここでは第3部のティアフォーCTOの加藤真平氏とソニー・ホンダモビリティCOOの川西泉氏が語った、今後の自動運転の姿やモビリティ社会の展望をレポートする。
◆「Microautonomiy~集合的にスケーラブルな自動運転システムの創出」
最初に登壇したのはティアフォーの加藤真平CTOで、「Microautonomiy~集合的にスケーラブルな自動運転システムの創出」と題した講演を行った。
ティアフォーは2015年12月に名古屋大学発のベンチャー企業として、名古屋大学で准教授を務めていた加藤真平氏が中心となって設立。同社は設立当初より自動運転のソフトウェアをオープンソースとして公開しており、今回の講演もその主力製品「Autoware」を軸とした内容となった。SIPにも初期より参画してきた実績を持つ。
まず加藤氏はSIPに参画してきたことで、「今、自動運転は運転席に人を乗せない状態で走れるようになってきた。それはこれまでSIPがレギュレーションや技術だったり、様々な側面で取り組み続けてきた成果と言っていい」とその実績を評価した。そしてその成果はすでに海外へも発信しており、同社が開発したソフトウェア「Autoware」の採用実績は実験用も含めるとグローバルで30社以上になり、それは先進主要国の大半に広がっているという。
◆自動運転の普及に必要なのが「プラットフォームの共通化」
そうした中で自動運転を普及させるために重要なのは「プラットフォームの共通化」にあると加藤氏は強調する。それはソフトウェアだけでなく、ハードウェアまでも対象にすることが重要だとし、その具体例として加藤氏は登山に例えて紹介した。
まず5合目ぐらいまでは、あくまで行くための手段であって、それは歩いて行ってもクルマで行ってもいい。ティアフォーが関わるのは5合目から9合目で必要となるリファレンスデザインになり、ここで参照されるモデルを定義づけする。そして、9合目からは要件定義をして、そこから具体的に顧客・パートナーで共同開発していくというものだ。
ここでポイントとなるのが「9合目まではあるものを使った方が、より早く安く自動運転システムを開発運用できる」 ということだ。「利用者から見れば結果がすべてであり、出来上がったものがオープンソースを使ったものなのかはわからない。(目標へ向かって)早く完成した方がいいのではないか。これこそがオープンソースのメリット」と、加藤氏は強調する。
◆ティアフォーが目指すのは「自動運転の民主化」
そして、ティアフォーがその先に目指すビジョンとしているのが「自動運転の民主化」である。つまり、「自動運転に資するあらゆるテクノロジーを開放し、様々な組織、個人がその発展に貢献できる持続的なエコシステムを構築する」のが目的で、「いかに多くの人が関われるかがキーポイントになる」と加藤氏は語る。「そのためにいろいろなハードやソフトウェアを作ったりするのがティアフォーだ」とした。
最後に加藤氏は自動運転を見通した今後の展望について解説した。それによると「自動運転の社会実装は今後確実に進んでいき、30年には普及していると予想している。ただ、そこには今までの自動化、電動化にグリーン化が加わった。これが今後10年を考えた時に大きな課題になっていくのではないか」という。
そして、最も重要なのは「自動運転に対応する半導体の開発」だと加藤氏は話す。「今はソフトウェアで自動運転を作っているが、それは5年経ったらワンチップ化したい。この半導体が作れるかどうかがこの国の成長戦略にとって重要となる。さらにEVの量産化も積極的に進める必要があり、これらの成否こそが日本の産業を強くする要となる」とした。
◆「モビリティにおける新たな価値基準」
続いて登壇したのが「モビリティにおける新たな価値基準」と題して登壇したソニー・ホンダモビリティの川西泉COO 。昨年3月にソニーとホンダがモビリティ事業に対する戦略的な提携をすることを発表し、9月に同社を設立している。
川西氏はまず、この会社設立の経緯について説明をした。それによると「ソニーは電機メーカー、ホンダは自動車メーカー 生い立ちが違うものの、戦後の経済発展の中での生い立ちは似たような歴史をたどってきたように思う」とこれまでの両社の立ち位置を説明。その上で、「モビリティやEVをソニーとしてやってみたらどうかとの話がソニーの社内から出てきて、2018年から開発を進めることをスタートさせた」ことが、新ブランド「AFEELA(アフィーラ)」であり、その第一号プロトタイプの誕生につながったという。
◆異なるカルチャーをまとめるのに実施した「目的の定義付け」
開発過程の中で、「ソニーはモビリティとしての空間をもっと楽しくできないかということを基点に考え方を進めてきた。一方のホンダはレース経験も踏まえ、いろいろな自動車に対する知見を豊富に持つ。最近はハードとソフトの融合を訴えるようになり、その意味で生い立ちこそ違うものの、両者の考え方は近いものがあると思っている」と川西氏は説明する。
とはいえ、ソニー側としては従来とは違った次元のモビリティの開発を狙っているようだ。川西氏は「ソニー側からすると、普通に車を作ったのではしょうがない。ホンダがやってきたことを踏襲するのでは(提携した)意味がない」というわけだ。そこで「開発スタイルをITの見地で作っていったらどうなのか、アプローチを変えることをかなり意識して話を進めている」と話す。
生い立ちが違う両社だけに、カルチャーも異なるのは当然だが、「クルマは安心安全が最も大事であり、その上に体験価値というのが生まれてくる」(川西氏)との共通概念は通じる。この二つを共通のコンセンサスとして開発を進めることで新たなモビリティが創出できるというわけだ。
ただ、開発過程では両社の考え方の違いからブレが発生することもある。ソニー側はITを基本とした考え方があるし、ホンダ側にしてみれば自分たちの役割は自動車を作ることと思いがち。両社が向かい合えば、このしみこんだ考え方から互いに綱引きが始まることも想定され、そこでブレが発生することは容易に想像できる。
そこでソニー・ホンダモビリティが行ったのが会社として目的の定義付けだ。それが「多様な知で確信を追求し、人を動かす」ことにつながり、会社としての存在意義を高める。ここには「技術を持っている方、サービスをしている方、いろいろな方と連携することで技術的な革新をもたらし、それが人に感動を与え、楽しく快適な世界が生まれることにつなげたい」との願いが込められているという。
◆これからのモビリティは「車両購入してからが顧客体験のスタート」
ではソニー・ホンダモビリティとしてもの作りにはどう取り組んでいくのか。それは「移動というものは体験であり、自動車はモノであると同時にコトである。最終的にはサービスそのものが付加価値になる」ということの徹底だ。それはつまり、自動車を売って終わりではなく、車両購入してからが顧客体験のスタートであるということ。これはまさに“ソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV)”そのものを指しており、「ソフトウェアによってモビリティを作っていく最大の価値になると思う」と川西氏は述べた。
ただ、それを受け入れるハード側の能力も重要となる。そこで搭載した車内外に搭載した45個にも及ぶセンサーの処理を一手に引き受け、今後のアップデートにも十分対応できる800TOPSの実力を持つSoCを搭載することになった。
また川西氏は自動運転に対する見解として「人々に自動運転は信頼されていないのが現状」と話す。そこでアフィーラのプロトタイプには、車両の状態を外から把握できるコミュニケーションツールとして「メディアバー」を搭載した。川西氏は「ロボティクスは人に寄り添うモノでなければいけない」と話し、このAFEELAはその考え方を元に移動する愉しさが体感できるクルマにしていきたいとした。