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ヒト・モノ・陸・空に関わる5社のトップが語り合う「未来の交通」…MaaS Meeting 2023
2月14日15日の2日間にわたり、東京都の渋谷ストリームホールとオンラインで開催された「MaaS Meeting」。初日の後半は、「未来の交通はどうなるのか?」というテーマで、パネルディスカッションが行われた。
ヒト/陸の分野からモービルアイジャパンCEOの川原昌太郎氏、ヒト/空の分野からSkyDrive(スカイドライブ)代表取締役CEOの福澤知浩氏、モノ/陸の分野からT2代表取締役CEOの下村正樹氏、モノ/空の分野からKDDIスマートドローン代表取締役社長の博野雅文氏が出席し、WILLER代表の村瀬茂高氏がファシリテーターを務めた。
◆テクノロジーを活用、各社の取り組み
モービルアイは前のパートで紹介されたこともあり、まず残りの3社がプレゼンテーションを行った。
SkyDriveは、100年に一度の移動革命を起こしたいということから2018年設立。空飛ぶクルマと呼ばれるエアモビリティのほか、物流ドローンも手がける。開発拠点は愛知県豊田市にあり、1万平方mの広大な試験施設を持つ。モーターは部品少なく、自動操縦なのでパイロットは不要。ゆえにタクシー並みのサービス提供価格が実現できるとしている。直径約50mあれば離着陸可能であるそうで、ショッピングモールや公園などで離着陸可能という。同社が開発しているのは小型のマルチコプター型で、2022年には商用モデル『SD-05』を発表した。2025年の日本での有人飛行案では、一定の輸送ニーズが得られる東京・大阪において、社会的に受け入れやすい海上エリアを想定しているという。
T2の事業ビジョンは、レベル4自動運転技術を活用して物流システムを支えていくというもので、2022年に三井物産と、ディープラーニングに強みを持つプリファードネットワークスの合弁で設立した。設立の背景としては、トラックドライバーの低賃金や長い労働時間、高齢化による人手不足に加え、この業界の就業規制厳格化により1日16時間以上の運転ができなくなる、いわゆる2024年問題がある。既存のトラックにセンサーを装備し、システム開発を行い、運用と監視を行うというのがサービス内容で、最初のターゲットとして市場の2割弱を占める東京~大阪の高速を想定。2025年度にサービスイン予定という。
KDDIスマートドローンは、2022年にKDDIからスピンオフしたベンチャーだ。スマートドローンとは、ドローンとモバイル通信を融合させたもので、飛行制御だけでなく、画像や映像の転送も可能。機体選定や飛行申請を含めた一元的な提供を行っている。日本では2022年の航空法改正でレベル4、つまり人がいる場所での目視外飛行が解禁された。これにより遠隔地への飛行が可能になった。具体的には山間部、離島、ビルの間、遠隔での点検監視などが可能になるとのことで、今年度は他社との協業を含めて20の実証実験を実施。千葉県勝浦市では地元商店街の商品をインターネット注文できるサービスを開始し、埼玉県秩父市では土砂崩落で道路が封鎖され孤立した集落に物資を届けたという実績を持つ。
◆新規ビジネスをスタートする難しさ
プレゼンテーションを受けて村瀬氏はまず、日本で新しいビジネスやサービスを始めるのは難しいという中で、どのように対処していったかを尋ねた。
福澤氏は、日本は航空技術者が少なく、騒音や振動への反応がシビアであるうえに、認証は欧米主導なので、多くの人から「やめておけ」と言われたことを告白。しかしながら技術要素はクルマやロボットと同じであり、大阪・関西万博を控えて国も前向きなので参入を決意したという。
下村氏は、自動運転は事故が心配と思う人がいると語り、社会に受け入れてもらうためには車体を黄色にするなど、色分けが必要かもしれないと語っていた。
新しいビジネスやサービスの導入には人と技術とタイミングが大事と話したのは博野氏。携帯電話市場の成長が鈍りはじめたのでドローンの検討を始めたところ、2018年にレベル3が解禁となるなど、運が良かった面もあったと話していた。
安全第一という日本ならではの思想についてはまず川原氏が、安全は会社の根幹であると回答。MTBF(平均故障間隔)で10のマイナス7乗(1000万分の1)時間、つまり人間の1000倍の性能を目指しており、自分の責任で事故は起こさないというロジックになっていると説明した。
福澤氏は、航空業界ではさらに高度な安全性を追求しているとしつつ、我が国での新型ヘリコプターという呼び名は安心感も抱かせるものであり、安心が担保しやすいという点で、大都市から導入していくのがいいのではと語っていた。
◆持続可能な事業とすることができるか?
続いて村野氏は、それぞれの事業が持続可能になれるかどうかを尋ねた。
博野氏はドローン単体では厳しいと感じており、陸路とのコンビで効率を高めていくことを心がけているそうで、災害時に活用できることも付け加えた。
川原氏は、MaaSは人々の生活を豊かにすると信じており、ベストな回答を導くべく取り組めているかが大事だと答えた。誰もがいつでも使えるものこそベストであり、そこへ向けて自分たちはどうアプローチするかをブレずに考えているとのことだった。
海外と日本の開発状況の違いについて聞かれた福澤氏は、技術的にはさほどの違いはないものの、人口が60倍以上となるうえに、日本は社会需要性やルールの関係でベンチャーが育ちにくいという現実を紹介した。
下村氏は、トラックは台数も走行距離も米中の2国が圧倒的であり、埋めがたい差があるものの、自動運転の導入には高精度地図を作る作業があるので、すぐに進出してくるわけではないという考えを述べた。
世界的に見て進んでいるところはトップダウンでものごとを決め、行けるところまで行くというスタイルなのに対し、日本はボトムアップであり、足場を固めて「ここまでいきましょう」というタイプと説明したのは、海外企業の日本法人代表である川原氏。日本は日本のやりかたでやっていくのがいいが、海外勢を入れることも競争力向上には役立つと指摘した。
一方で村瀬氏は、日本で事業を進めることの良さについても尋ねた。
これに対して博野氏は、我が国は歴史的に制度や規制とともに歩んでいく習慣があり、国と民間との間に親和性があると述べたうえで、ローカライズについては分があるので、地図の部分などで活かしていきたいと話していた。
下村氏は安全に対しての厳しいルール、トータルのソリューションとして考える思考、ユーザーに最高のサービスを提供する姿勢は優位点としつつ、失敗したらダメという風潮はマイナスであり、失敗を評価する風潮があると応援する人が増えるのではと期待を口にしていた。
◆今後に向けて…「集結しひとつの地域でやってみたい」
ディスカッションの締めとして、今後に向けてのひとことを村瀬氏から聞かれた博野氏は、新たなモビリティは距離の概念がなくなるのが特徴であり、都市部に住む必要が薄れ、自然豊かな地方で暮らす意義が注目されるのではと口にし、下村氏はメカトロニクス分野などの技術者が圧倒的に不足しているので、お声がけを続けていきたいと話した。
福澤氏は自身が世界トップ3の地位にあるという自負を持っており、大阪・関西万博に向けて開発を進めていくと宣言。川原氏は、空のモビリティが普及するまでは陸上交通を良くしていくことが重要と語り、佐渡市などでコラボしているWILLERに協力を仰いだ。
この5社が集結して、ひとつの地域でやってみたいという村瀬氏の言葉は筆者も納得できるところであり、そのためにも社会受容性がカギになりそうだと感じた。