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【プリウス デザイン解剖】「ワンフォルムしかない」3代目に立ち返って極めたシルエット
新型『プリウス』のシルエットはワンフォルム。ノーズから強く傾斜したウインドシールドを経てルーフエンドまで、滑らかなラインがひとつの勢いで延びている。ここがエクステリアの最大の見所であり、多くの人が「WOW!」と感じたところでもあるだろう。
プリウスのワンフォルムは2代目で始まった。「2代目や3代目で培ったワンフォルムは、プリウスらしさのアイコン。ワンフォルムを極めることが新型の個性になると考えた」と、プロジェクトチーフデザイナーを務めた藤原祐司氏は語る。その言葉の意味を探るため、ここでは2代目以降のシルエットを振り返ってみたい。
◆2代目は「トライアングル・モノフォルム」
3BOXセダンだった初代から一転、2代目はワンフォルム(もしくはモノフォルム)の5ドア。このクラスのハッチバックは日本では売れないというのが定説になりつつあった時代に、それは大胆すぎるほどの変身だった。
実は2代目は「セダンの進化」を考えてハッチバックを選んだ。進化のポイントは空力とユーティリティ。空気抵抗を減らすにはルーフをなだらかに下降させたい。そうすれば後席から荷室にかけての容積が増え、使い勝手が上がる。それを活かすためにハッチバックは必然だ。ルーフエンドが高くなることがもたらす後方視界の問題は、エクストラウインドウで解決した。
ワンフォルムにした狙いも「セダンの進化」だ。セダンの究極の姿は、キャビンに4つのタイヤが付いただけでよいはずと発想。キャビンと前後のタイヤを結ぶ三角形をイメージして、「トライアングル・モノフォルム」というスタイルテーマを定めた。
ルーフラインをただ滑らかなアーチ状にするのではなく、Bピラーあたりに明確な頂点を設けたことがこの「トライアングル・モノフォルム」の特徴だ。頂点から後ろのルーフラインは、空力エンジニアが当初から要求していた通りの17度の傾斜で下降。Cd=空気抵抗係数は当時としては驚異的な0.26を誇った。
◆3代目は「パーフェクトインバランス」で進化
2代目の成功によって「ハイブリッド=プリウス」の意識が市場に広まるなか、3代目のデザインは「エコアイコン」をテーマに開発された。2代目の「トライアングル・モノフォルム」を継承しながらも、たんなる正常進化を超えてアイコニックなデザインを目指したのだ。
当時のトヨタデザインは「バイブラント・クラリティ=活き活きとした明快さ」というフィロソフィを掲げ、それを実現するための3つの指針を定めていた。そのうちプロポーションに関わるのが「パーフェクト・インバランス」だ。日本の建築には、あえて左右対称の安定感を崩しながらもバランスを保つ伝統がある。そこに着目したのが「パーフェクト・インバランス」だった。
これが3代目の「トライアングル・モノフォルム」をアイコニックなものにする鍵になる。特徴はルーフの頂点をBピラーより後ろに引いたことだ。2代目は前後対称の安定したトライアングルだったが、それを非対称にすることで動きを表現。ノーズからルーフ頂点までの距離を延ばしながら、そこに一気呵成の勢いを強調したのだ。頂点を後ろに引くことで、2代目の課題だった後席ヘッドルームを増やすこともできた。Cdは0.25。2代目から0.1ポイントの進化を遂げた。
◆4代目は空力重視でワンフォルムではなくなった
3代目も市場で大成功したが、その間にトヨタはハイブリッド車の弟分になる『アクア』を発売し、欧州向け『オーリス』(事実上『カローラ』のハッチバック/ワゴン)にはハイブリッドが設定。もはや「ハイブリッド=プリウス」ではない状況を、トヨタ自身が作り出していた。
そんななかでプリウスの存在意義を、デザインでどう表現するか? 先代=4代目は燃費追求のために空気抵抗をさらに低減すると共に、ハイブリッド専用車らしい個性の表現に挑んだ。環境意識の高い人々に「このクルマで自分の個性を発揮できる」と思ってもらえるデザインを目指したのだ。
3代目はルーフの頂点を後ろに引いたが、空気抵抗を考えると、ルーフ頂点からルーフエンドまでの距離を延ばし、より緩やかに下降させるほうが有利になる。そこでルーフ頂点をBピラーの前に移した。こうするとルーフ頂点とノーズをひとつの勢いで結ぶワンフォルムが難しくなる。その途中にあるカウルが高くなりすぎるからだ。
しかも4代目は新世代TNGAプラットフォームの第一弾でもあった。低重心化を進めるTNGAの方針に基づき、3代目に対してヒップポイント地上高を前席で59mm、後席で26mm下げた。これに伴ってカウルも61mm低くなっている。その結果、シルエットはモノフォルム(=ワンフォルム)ではなくなり、Aピラーの根元をフロントフェンダーに突き刺すようなデザインになった。Cdは0.24と、再び0.1ポイント改善している。
◆新型は低全高ワンフォルムという新境地へ
先代=4代目の個性的なデザインは多くの議論を巻き起こした。発売3年後のマイナーチェンジでフロントとリヤのデザインを一新したのは、ネガティブな声が多かったことを示唆する。
「個性は必要だが、局部的な表情に個性を持たせようとすると好き嫌いが出てしまう」と、新型のデザイン開発を率いた藤原チーフは先代の反省点を挙げる。「では、どこでプリウスの個性を表現するか? ワンフォルムしかない。3代目に立ち返ってワンフォルムを極めることがシルエットの個性になる。それを最初に決めました」
ワンフォルムを極めるために、ルーフの頂点はBピラーより後ろに戻した。それが空力ベストでないことは、もちろん承知の上だ。「燃費ナンバーワンを目指すのはやめた」と藤原チーフ。「アクアやヴィッツのほうが燃費がよい。プリウスではナンバーワンは取れませんから」
Cd=空気抵抗係数は未公表だが、「先代より大きくなった」とのこと。しかし全高を先代より40mm下げて前面投影面積(A)を小さくしたので、実際の空気抵抗を示すCd×Aの増大は最小限にとどまったようだ。1.8リットル仕様でモード燃費を新旧比較すると新型のほうが優れているが、藤原チーフは「それはユニットが進化したおかげ。空気抵抗が減ったからではない」と説明する。
全高を下げられたのは、プラットフォームの低重心化をさらに推進した成果だ。前席ヒップポイントは先代より30mm低くした。後席のヒップポイント地上高について公式なデータはないが、藤原チーフによれば「35~36mm下がっているはず」という。
先代は後席の下に燃料タンクと駆動用バッテリーを上下に重ねていたが、新型はそれを前後に振り分け、バッテリーの後ろに燃料タンクを置くように改めた。このレイアウト変更によって後席のヒップポイントを下げることが可能になったのだ。これと後ろに寄せたルーフ頂点の合わせ技で、後席ヘッドルームを確保しながら全高の40mm低減が実現した。
背の低いシルエットが、プリウスのワンフォルムに新境地を拓いた。ノーズからルーフ頂点への一気呵成の勢いは3代目と同様だが、そのダイナミックさを低全高が強調する。なにしろ3代目より60mmも低い。もはや「エコアイコン」のプリウスではない。2代目で目指した「セダンの進化」は、ついにスポーセダンの領域に到達したと言ってもよさそうだ。