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【三菱 デリカミニ】なぜデリカ?『eKクロス スペース』では伝わらなかった“三菱らしさ”とは…開発者インタビュー
三菱自動車は東京オートサロン2023で、5月に発売が予定されている軽スーパーハイトワゴンの『デリカミニ』を公開した。なぜこのクルマを投入するのか、そのポイントは何か。開発責任者に話を聞いた。
◆『eKクロス スペース』ではメッセージが伝わらなかった
—-:そもそもデリカミニを投入するきっかけ、要因はどういうことなのでしょう。
三菱商品戦略本部チーフ・プロダクト・スペシャリストの藤井康輔さん(以下敬称略):現在販売している『eKクロス スペース』というクルマがあるのですが、このクルマ自体のコンセプトは、SUVテイストを強めてアウトドアのイメージを高く表現しようというものでした。しかし、お客様はそうではなく単にカスタム系のクルマとして感じており、我々の思ったところがうまく伝わっていなかったのですね。
同時に、いまキャンプブームであったり、アウトドアをする方が増えていたりと、そういうシーンで使えるクルマをきちんと作ろうということで始めたのがそもそものきっかけです。
—-:その場合、2つの考え方があると思うのですが、まずひとつは、eKクロス スペースにSUVテイストをさらに盛り込む方法と、新たな車種を投入する方法です。今回は後者を選んだわけですがそれはなぜでしょう。
藤井:もっとSUVらしくとか、もっとアウトドアで使えるようなクルマとして色々なエッセンスを考えると、これは『デリカ』で長年培ってきた、大切な仲間や家族と過ごす大切な時間や、楽しい時間の提供というものが詰め込まれたクルマになるとわかったのです。それであればeKシリーズの1つではなく、デリカシリーズの1つとして位置付けた方が、お客様に説明がしやすいですし、デリカの名を冠するにふさわしいクルマになると考えたことから、デリカという名前に決めました。
—-:デリカは「D:5」と呼んでいますが、このクルマはデリカミニですね。
藤井:デリカには「D:2」もあります。確かに「D:1」という案もあって、デリカミニとどちらにするか検討したのですが、軽スーパーハイトワゴンの1番のお客様であるヤングファミリーの、特に女性の方にとってデリカは、すごく遠い存在みたいなのです。「デリカは知っているけど、ちょっとごつい男の人が乗るクルマというイメージ」で、自分とは関係ないクルマだと思われていました。そこで、「デリカミニ」という名前の響きはどうですかと聞くと、それであればすごく親近感が湧くということが分かりました。そこでデリカD:1ではなくデリカミニという名前に決めたのです。
—-:デリカミニの開発がスタートして最も重要だったことはどういったことだったのでしょう。
藤井:もともとeKクロス スペースの時から、軽スーパーハイトワゴンとしての使い勝手や、取り回しの良さ、安全装備はすでに充実していましたので、まずは、軽自動車という限られた枠の中に、いかにデリカのエッセンスをデザインに取り入れていくかが1つ。それからデリカという名前をつけるということは、悪路走破性をどこまで向上させるかです。デリカは本格4WDを採用していますので、オフロードでもガンガン走ることができますが、デリカミニは軽自動車。どこまでそういった性能を取り込むか、この2つが注意したポイントです。
◆これからアウトドアを楽しみたい人たちにも
—-:デリカミニのターゲットユーザーはどういった人たちですか。
藤井:例えば、クルマを使ってキャンプに行ったり、スキーに行ったり、アウトドアに使われる方はもちろんだと思っていますし、そういったことをやってみたいけれど、まだ踏み出せていない方のきっかけになればという思いもあります。
それからデリカミニのデザインは、街中でもすごく映えると思っています。最近、アウトドアのジャケットなども、別にアウトドアをしなくても普通に街中で着て、ファッションの1つとして定着していますよね。このクルマも同じように「街中を走っていても、ちょっとお洒落」というイメージを持ってもらえると思いますので、いまアウトドアを楽しんでおられる方、そして、これから楽しみたいなというような方に、ぜひ乗っていただけると嬉しいですね。
—-: eKクロス スペースはそこを狙っていたように思いますが、いまひとつ足りなかったわけですね。
藤井:そうですね。まず、デザインが少し大人っぽいというところがあったのかなというところと、悪路走破性の部分で訴求できるものもなかったと感じています。
—-:今回は4WDで大径タイヤを装着しますので、かなりアピールしていますね。
藤井:SUVほど本格的な4WDの機能は持っていないにしても、このクルマを使ってキャンプ行った際に、ちょっとした悪路を走ったりする時もあるでしょう。そういったところでも、家族が安心して運転できるクルマにしましたので、我々としてはそこもPRしていきたいポイントです。
—-:三菱としては四駆の技術はたくさんあるでしょうから、よりSUVチックに仕上げることも可能だったと思います。しかし、印象としては少し抑え目に感じます。この匙加減はどのように考えたのですか。
藤井:そこは非常に難しいところでした。当然、やることはできるのですが、その分お金もかかってしまいます。そういったバランスを考えた時に、軽スーパーハイトワゴンのユーザーが求めるレベルは、それほど本格的なものは必要ないのだけれど、ちょっとした安心感や、ほかとはちょっと違うという満足感は欲しいわけです。そういったところを見て、今回はサスペンションのチューニングに留めています。具体的には、構造自体に変更はありません。
しかし、ショックアブソーバーの減衰力を岡崎(岡崎製作所。三菱自動車の開発拠点)の試験路にクルマを持ち込んで何度も走らせてチューニングしました。同時に大径タイヤも履いていますので、その分車高も違いますし、乗り心地も変わってきますので、そのあたりも考えてセッティングしました。軽スーパーハイトワゴンでタイヤサイズを変えて、サスペンションも変えて…というクルマはない思います。特に悪路走破性等も考えてチューニングしているところは三菱ならではで、ちょっとしたこだわりですね。
eKクロス スペースにもヒルディセントコントロールを採用していましたし、当然デリカミニも装備しています。実は軽スーパーハイトワゴンでは三菱だけなのです。そういった装備と組み合わせて三菱らしい商品として仕上げました。軽自動車の限られたサイズの中で、デリカのモチーフを入れて、しかも愛着のある味を出してほしいと商品企画側からデザインチームへ要望を出したのですが、とてもデザインが頑張ってくれたなと思っています。