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【スバル クロストレック 新型】楽しいクルマを作ろう…開発主査[インタビュー]

  • 《写真撮影 内田俊一》
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SUBARU(スバル)が2023年に発売予定の『クロストレック』。『XV』の後継と位置付けられるこのクルマの開発の狙いは何か。また名称をなぜ変更したのか。開発主査に話を聞いた。

◆Funなクルマを作ること
—:手塚さんはこれまでどんなクルマを担当されてきたのですか。

SUBARU商品企画本部プロジェクト・ゼネラル・マネージャーの毛塚紹一郎さん(以下敬称略):私は内装設計から始まって、15年ぐらい設計だったんです。エアコンとかラジエターとの設計をやった後に、商品企画に移りまして2代目の『フォレスタークロススポーツ』や、3代目『フォレスター』、先代『アウトバック』、『B4』といった車種をやってきました。

—:今回そういった経験を踏まえて、このクルマの担当が決まった時にどのように感じましたか。

毛塚:もう何年も前の話なんで……。やはり主力の車種ですから、バランスよくやらなくてはいけないというのはありました。このクルマはグローバルの車種で台数も多いので、クルマの性能だけではなく、それ以外の生産性などを含めた色々なことを考えながらやらなくてはいけない。ですから結構重積だなと思いました。

このクルマの開発が始まって少し経った頃にコロナ禍が始まりかけていて、会議を一緒にやるなとか、渡米できないとかあったんで、結構暗い感じの雰囲気でしたし、会社の中でも全体的に明るい話はなかった時でした。そこでこのクルマでお客様も、スバル全体も楽しくやりたい、楽しくしなくちゃいけないんだなと、それは思いました。商品性もそうですし、クルマの作り方を含めて開発コンセプトをFunとしましたが、これは実際にアメリカの販売会社の会長の方からもいわれたことですが、こういう気持ちを忘れずにやろうよということで、これは最初から思っていた言葉です。ですので、楽しいクルマを作ろうということは考えていましたね。それが1番かな。

—:ただその表現をストレートに表すとしても、いろいろな方法があったと思うんです。それをあえてFunというわかりやすい言葉で表したのはなぜですか。

毛塚:私自身、商品企画にいますので、お客様に伝えるのにわかりやすさは重要だと思っています。このクルマの性能で何をやりたかったのかというと、気持ちよく走りたい、ずっと乗っていたい。そして安全であれば、いざという時の安全は確かに重要ですが、それだけでなく普段使ってる時でも安全に感じた方がいいですよね。デザインも流麗さなどいろいろな表現があると思いますが、パッと見た瞬間に、あ、これはスバルらしいと思えること。そして旧型から楽しそうな特徴的なデザインを入れていますので、そういったところを見てどこかに行きたくなるとか、わくわくする。そんなことをやらなくてはいけない。それがポイントです。ですからFunとしたのは、素直にわかりやすく、私のやりたいことを伝えたかったのです。

◆強いところを伸ばそう
—:開発をスタートするにあたり、先代の振り返りもされたと思います。その結果はどういうものだったのでしょう。

毛塚:先代にあたるXVは、全体的に良く仕上がっているというか、十分商品力はあると感じました。実用性もあるし、安全装備などもそうですね。では、このままでいいのかと考えると、このカテゴリーに競合車が増えてきていますので、よりよく進化させる、このクルマを際立たせるようなことをやらなくてはいけない。そうすると、強いところを伸ばすことが良いと考えたのです。

一方、インフォテイメントのようなものは、時代の進化も激しいので、このままのシステムで戦えるかというと、ちょっと厳しいかなと思っていました。

—:いまおっしゃった強い部分というのはなんでしょう。

毛塚:乗り心地や、走りの部分。安全に関しても、他銘柄に対しては十分負けいてないと思っています。今回、SGP(スバルグローバルプラットフォーム)の補強はしましたが、基本的に踏襲したのは十分まだこのプラットフォームで世界の安全基準に対して対応できたからです。そういったところは本当にこのクルマの強さかなと思います。

ただし、乗ったときに少しガタピシしたところや、ステアリングももう少しスムーズになるとずっといいだろうというようなところは、密かに感じていました。これは社内で議論にもなるのですが、一般のお客様がどこまで求めてるかということを、常に考えなくてはいけないということです。そこで、スピードを上げて限界で走ったときに良いだけではなくて、乗った瞬間から、そして普段乗っている中で、先代とは違うよね、というところにお金を使いました。例えばシートなど、どんな人でもすぐわかるようなところは、気を付けてわかりやすくやるようにしました。

◆自分の必要なもの、そうでないものを見極めて
—:一方で先代からの乗り換えのお客様も多いと思います。先代の欠点、ここはなんとかしたいなど、先代のお客様からの要望等はありませんでしたか。

毛塚:先代をご購入いただいてるお客様には満足していただいているのですが、1つ例として挙げると、今回、FFのモデルを追加しました。XVはエントリー、お客様が最初にスバルのクルマとしてご購入いただくケースが多いんです。そういった方々が、特徴的な色であるとか、アイサイトなどが気になってお店に来てもらった時に、AWDしかないのか、という声もあるんですね。我々としてはそれを売りにして、道路環境や安全性を重視しているのですが、お客様の1つの価値観として、金額が高いからではなく、自分に必要じゃないものはいらない、そこにお金をかけないという考えを持ったお客様もいらっしゃるのですね。そういったお客様に向けて、FFを追加してラインナップを広げました。また、インフォテイメント系は、時代とともにどんどん進化していきますので、最初は良いのですが、だんだんネガになっていく傾向にはあります。

—:XVのユーザーは幅広い層が多いようですが、その一方で、新型クロストレックのターゲットは若い人に特にフィーチャーしたいということでした。なぜ若いユーザーにシフトをしたのでしょうか。

毛塚:アメリカは比較的若いお客さんが多いと思うんですが、国内の場合ですと、子育てされるお客様にはちょっと小さいのでフォレスターなどが選ばれています。ですので年齢を見ると50代、60代がピークです。しかし、我々としてはスバルの良さを若い人にも感じていただきたいので、ここは補完したいというのが正直な感想です。

ダウンサイジングされて、ちょうど子育てが終わって、旦那さんと奥様と2人でどこかに出かけるような時には、ちょうどいいサイズだと思いますので、そういった方にご支持されているのは事実です。しかし、その一方で若いお客様にも訴求しないと、いずれ絶滅していく可能性もあるわけです。そこで我々としてはシフトしておかないと。ただ若いお客様を取るために、色々なことを行いますが、結局、それは全てのお客様に通じることだと思っていますので、まずは若い方々をターゲットにといっているのです。

—:そこで1番注力したことはなんですか。

毛塚:そこがまた悩ましいところでして(笑)。若い人は難しくて、例えば先進装備をつけたら振り向いてくれるかということでもなく、結局、自分らしさとか、個性とか、新しい価値みたいなところが重要なんですね。結局、主役は自分なので、自分が欲しいものが求められているわけです。そうすると、何がということではなく、先程のFFのような話もありますが、必要なものかそうでないか。そういったところを万編なく詰めてくような感じです。ただ、デザインとかインフォテイメントみたいなところは力を入れました。ワイヤレスカープレイなどはもうマスト要件ですので、そういったところは力を入れています。

◆思いが詰まった名前だから
—:日本市場においてはXVからクロストレックに名称が変わりましたがこの理由は何でしょう。

毛塚:クロストレックというのはクロスオーバーとトレッキングを合わせた造語です。アウトドアをキーワードに、トレッキングという言葉も入っていますので商品名として我々のやりたいことを象徴していて分かりやすいと考えました。この名前をグローバルで統一した方が、作る我々としてもイメージを強調できますし、お客様にも我々のメッセージが伝えわりやすいということで決めました。

—:XVという名前が浸透してきつつあるようにも思うのですが、そのあたりはいかがですか。

毛塚:(浸透に関しては)実際はそうでもなくて、なかなかアルファベット2文字だと意味がわからないし、浸透は厳しいようです。営業もいっていましたけど、やはりここで名前を変えることで大きくイメージを変えて販売していきたいと思っています。

◆同じ要素があるから似ているのかも
—:デザイン的にはXVを踏襲したように見えますね。

毛塚:黒のクラッティングや、面構え、リアはスポーティに見せるなど、クロストレックとしてやりたいこと、キーワードがいくつかあり、それは先代から踏襲しています。ただそういった中でも、グリルの造形を変えたり、リアフェンダーもクロストレックという商品をより際立たせるような方向でデザインをしています。その結果として、同じような要素が入り込んでるのだと思います。

—:いまお話に出たやりたいこととはどういったことですか。

毛塚:クラッディングとか、Cピラーのところを少し張るようにしてどっしり感を出したいとか、あと、軽快感。そしてSUVらしいたくましさも出したい。一方、それだけだとクロストレックにはならないので、軽快感では、リアフェンダーの周りを少しきゅっと絞ったりしています。そこはデザイナーがうまく表現してくれました。

—:では最後に語っておきたいことがあれば教えてください。

毛塚:楽しさみたいなところをキーワードに開発メンバーは非常に頑張ってくれました。社内ではとにかく若いエンジニアが参加してくれて、初めてフルモデルチェンジを担当したという人が多かったのですが、そういう人たちの力を合わせた自信作になってます。