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【ダイハツ タント 改良新型】カスタムの復権…デザイナー[インタビュー]
ダイハツは軽スーパーハイトワゴンの『タント』を大幅改良。特に「タントカスタム」は大きく手が加えられた。そこで担当エクステリアデザイナーに、その思いやこだわりについて話を聞いた。
◆立派だがいかつくギラギラしない顔
—:浅海さんは、これまでどんなクルマを手掛けてこられましたか。
ダイハツデザイン本部第1デザインクリエイト室主任の浅海亮一さん(以下敬称略):入社して15年目で、これまではホイールやランプ類などの部品を製品化していくような仕事をたくさんやっていました。ここ3から4年はフロント周り全体を担当する機会が多くなりまして、代表的なのはダイハツ『ブーン』のマイナーチェンジ(2018年)の際に出た『ブーンスタイル』や『タフト』のフロント周りを担当しています。
—:そして今回のタントカスタムのフロント周りを担当されたのですね。今回の商品改良ではタントカスタムのフロント周りが最大のポイントといってもいいぐらいだと聞いています。その担当に決まった時、まずはどんなお気持ちでしたか。
浅海:ひとことでいいますと、“カスタムの復権”という言葉が頭に浮かびました。カスタムはタントが切り開いた市場です。標準にはない立派な顔という印象が大きくあると思うんです。
2年前の2019年にフルモデルチェンジしたタントカスタムは割とシルエットが標準と似ていたんですね。特に同じボンネットを使っていたこともあって、横から見たらノーズが下がったようなシルエットになっていたんです。その理由としてあまりギラつかない、オラつかない大人カスタムというのを謳っていたので、それはそれで正解だったと思っていますし、お客様もそこを評価してくださって、他のクルマよりもタントカスタムが良いといってくれたお客様が一定数いらっしゃいました。
一方で従来のカスタムらしさをタントに求めているお客様も必ずいらっしゃいます。その方々に応えたいという気持ちが今回は強かったですね。
—:マイナーチェンジ前のカスタムは、そういう“オラオラ系”を少し抑えたいという目的だったと認識しています。それが少し受け入れられない層がいる。そうすると今回のマイナーチェンジでは2019年モデルを少し否定しなければいけなくなってくる可能性があると思うのですが、いかがでしょう。
浅海:2019年のタントはいままでのカスタムのような立派な顔付きという点では、確かに及んでなかったかもしれませんが、一方で、メッキをガンガンに配したギラギラ感じゃない路線を選んだと思っています。それが大人カスタムとして推した結果、良かったということも認識はしています。ですのでそこはきちんと守りながら、迫力を出していこうということで、今回の顔を作りました。
つまり、立派な顔はしているんですが、あまりイカつくギラギラしたものにはなっていませんし、そこがポイントかなと思っています。マイナーチェンジ前の守るところと、今回攻めるところのバランスはそうやって取っていきました。
◆カスタムとは何だろう
—:ではタントカスタムのデザインコンセプトはどういうものですか。
浅海:大人カスタムの進化、カスタムイメージの強化です。新型の分厚い顔というのがまさにそうで、カスタムとは何ぞやというところからまず考えていきました。高級さや、立派さといったキーワードをいっぱい並べていった中で、このワードにたどり着きました。
メッキに関しても、むやみやたらに使うのではなく、効かせどころにだけ使うというのは、まさしくその通りに考えていった結果です。具体的には下回りのグリルの縁では太さを変えて低重心感を演出し、かつ、威圧感はあまり与えないようにしています。
◆デザインの思いを遂げるための工夫
—:今回のカスタムで1番特徴的なところ、こだわったところを教えてください。
浅海:まず、胸を張ったような顔付きを表現したくて、フードを変えてボンネットの高さ(エンブレムの上の部分)を上げました。さらに顔周りではアッパーと呼んでいるヘッドライトからエンブレム周辺部分を薄くしながら、その下の部分をバーンと大きく見せるように、台形の大型グリルや、薄型のヘッドランプなどのバランスを取っていくこと、そこが最初のデッサンで苦労したところですね。それが全ての始まりです。
そして、いまお話をした薄いアッパーを作りたいので、そうするためにはヘッドランプを薄くすれば出来ることはできるんです。ただそうなると、バンパーの上端部分とヘッドライトの下側の部分の位置がどんどん上に上がってしまうんです。その結果としてバンパーが大型化していく。ダイハツの工場は軽を中心に作っていますので、バンパーを作れる大きさに制限があるんです。今回の改良で、フードを上げてアッパーを薄くしていった時点で、もうバンパーが大きすぎて、この大きさ作れないといわれてしまいました。そこから工場や設計をはじめいろいろな方々とたくさん会議をして、なんとかかんとか勝ち取りました。
それからアッパー部分とロアー部分とで分けて見せられるように上手く演出している下向き面(ヘッドランプの下側の面)があるのですが、ここがVの字に少しえぐれるようになってるんです。今度はこのVの字に塗料が入っていかなくて、軽の限られたタクトの中では塗りきれないという話になってしまいました。そこで、ここ(ヘッドライトの下の部分)を別部品にしました。そこまでしてこの高さと薄いヘッドランプを作っていったんです。
◆線と面の構成
—:同時に両サイドのフォグランプ部分もかなり変更しています。その辺りもかなりのこだわりかなと思いますが。
浅海:そうですね。このクルマ自体が割と切れのある線使い、シャキシャキした線を使っているんですけれど、実はこのボディを他社のハイト系を含めて横並びで見ると1番柔らかい面を持っていて、特にドア断面などもそういう仕上がりになっています。ですからそことバランスをとってマッチする顔にしなければいけません。
ですので、割と線はシャキシャキしているんですけれど、グリルの先端の丸味(横から見た時のグリル形状)や、グリルからフォグランプに繋がるところなどを上から見てもらうと意外と丸いんです。そういうボディとマッチした丸い面にシャープな線をシャキッと入れています。しかもバンパーとフォグ周りの段差があまりないんですよ。これは最近の流行りですので、そういったところに新しさも入れながら、立体とグラフィックのバランスは苦労して作っていきました。
—:今回のカスタムで、ほかにフロント周りでこだわったところはありますか。
浅海:4つお話をしたいのですが、まずヘッドランプに関しては、ロービームとハイビームがあって、そのハイビームはアダプティングドライビングビーム(ADB)が入っています。元々のADBにはキラキラしたレフ面があったんです。上からLEDが照らして反射させて光を飛ばしていたんですね。それによってある程度ヘッドランプに厚みが必要だったんですが、今回は後ろから直接ビームを飛ばせるようにしました。その結果ヘッドライト周りの見え方が圧倒的に先進的になり、ランプの薄さも手に入れたのです。
もうひとつは、胸を張った印象を出すために、エンブレム部分は山なりに外に出して、その下は逆に内側に入れるという複雑な面構成にしているんです。これはあまりないやり方で、結構冒険なんです。そうすることでぐっと胸を張った印象にしています。あまりやらないやり方ですので、線を間違えるとすごく変なバランスになるんです。
3つ目はグリルのメッキの部分なんですけど、初めは普通に作ったんですが、そうするとグリルの黒が映ってしまって、どっから見ても真っ黒に沈んでしまい立体に見えなくなってしまいました。しかしなんとかここを光らせたいと、実は内側に凹面を入れることできちんと光を受けるようにしています。
最後はグリルのテクスチャーです。これは深すぎるとすごく目に入ってきてしまってうるさく感じてしまいます。ですからコンマ何ミリ、1/100単位で深さを浅くしていって、ふっと消えるようにしているんです。これは作っているサプライヤーにもすごく苦労していただいていますが、さりげない洗練にこだわった結果です。