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【三菱 アウトランダーPHEV 新型】全てにおいて「威風堂々」を表現…開発責任者[インタビュー]
三菱『アウトランダーPHEV』が売れている。2021年度販売台数が6267台と、プラグインハイブリッドの銘柄別国内販売において第1位を獲得した。そこで開発責任者に今回の開発にあたり重視したポイントなどについて話を聞いた。
◆みんなでワイワイ楽しく、ドライバーは自信をもって
—-:上原さんはこれまで『アウトランダー(初代)』、『デリカD:5(5代目)』、『エクスパンダー(初代)』、『エクリプスクロス(初代)』などを担当されていますので、SUV系が多かったようですね。そして今回、アウトランダーの責任者になったわけですが、そう決まった時にどのように思われましたか。
三菱商品戦略本部チーフ・プロダクト・スペシャリスト(CPS)の上原実さん(以下敬称略):アウトランダーは初代のコンセプト作りを行いましたので、最初のとっかかりはやっています。その後も国内外向けのアウトランダーは関係する機会もありました。そして今回新型の責任者ということで光栄に思っています。
先代のアウトランダーはPHVを追加するなどで、技術的には当社のフラッグシップ的な意味づけがありましたし、グローバルでもかなり成功した車種でもありましたので、その後継車を失敗なく作れということで、正直プレッシャーも感じました。もちろんアウトランダーは色々やってきていますし、いろいろ知ってもいますので楽しんでやれましたが、かなりプレッシャーも感じましたね。
—-:初代アウトランダーの初期のコンセプトづくりをやられたということですが、その時の内容と、新型アウトランダーのコンセプトに繋がりはあるのでしょうか。それともだいぶ変わってきているんでしょうか。
上原:あると思っています。20年以上前のお話ですが、結果的にお客様に提供する価値として担保出来ていることは普遍的だと思っています。当社の得意としている4WDの制御技術や、他社より悪路走破性能が考慮されていること。そして『ランサーエボリューション』でやって来たオンロードでも気持ち良く走れることなど、クルマの基本的な部分が他社よりも勝っていることが挙げられます。
また、歴代のアウトランダーを見てみると、室内をかなり広く取っており、それは今回も特徴的で、例えば室内が広いので3rdシートを装備していることが挙げられます。初代に3rdシートはありませんでしたが、あの時も室内の広さにはかなりこだわっていて、家族や友人をゆったりと乗せて、自信を持って色々なところに出かけてもらいたいと考えていました。そういったことが基本的なアウトランダーの提供価値だと思っています。もちろんハードウェアは時代とともに変わっていくのですが、みんなでワイワイ楽しく、運転する人は気持ちよく自信をもって色々なところに行けるという価値は不変だと思っています。
◆頼もしさや力強さ、そして上質感を強化して
—-:新型アウトランダーを企画するにあたって、先代の振り返りをしていると思います。その結果はどういうものだったんでしょう。
上原:アウトランダーPHEVという目線では、先代は当社の先進技術やプラグインハイブリッドを初めて搭載したということで、技術的にはとても素晴らしいと評価をしてもらえました。性能面ではモーター走行ならではの力強い加速や、スムーズさといった部分があります。S-AWCの走りの良さなども凄く評価してもらい、結果としてPHEVとしては世界で一番売れているクルマとなりました。
その一方で、いま思うと物足りないところがちょこちょこありました。そのひとつがスタイリングで、クリーンでシンプルな感じ。これはこれで味がありコンセプトでもあったのですが、そういう外観だということもあり、お客様の受け止め方としては、電動車の楽しさはありつつも、どちらかというと、経済性とか実用性のところの評価に繋がっていたのです。もちろんそれはそれで嬉しいことなのですが、そちらがかなり“立って”いて、電動車両としての付加価値のところ、走りが楽しいとか、三菱自動車ならではの頼もしさというところを、もう少し何とかしたいと考えていました。
先代アウトランダーでは、マイナーチェンジでそのあたりの改良はしています。最終的にはPHEVも2.4リッターになって、環境性能を維持しながらも、走りはさらに磨きをかけたことや、外観も少しずつ三菱らしい頼もしさ、力強さを持たせて進化させていきました。そして今回に至っているのです。つまり当たり前なのですが、良いと思ったところはさらに良くしつつ、自分たちでも足りないと思ったことを強化していく。そこが頼もしさや力強さだと思っています。
もうひとつ、決定的に意識したのが上質感、特に室内の高級感です。先代の場合は比較的廉価な250万ぐらいのSUVをPHEVにしたので、そこから100万円くらい高くなりました。そうすると我々の理屈としては、元のクルマは250万円なのでというレベルの考えだったのですが、実は350万円くらいになるとお客様の要求レベルはかなり高くなるわけです。そのあたりでもう少し、特にインテリアでの高級感は欲しいという声はかなりもらいました。ですので今回はここにも相当力を入れて良くしていった部分です。因みアメリカでは、10ベストインテリア賞を三菱自動車としては初めて受賞しました。そのくらいインテリアにはかなりこだわっています。
—-:先代のマイナーチェンジの時に、その辺はかなりこだわりガソリンモデルと大きく変えようとしていたかと思うのですが、それでもやはりちょっと物足りないということだったのですね。
上原:徐々に良くはなってはいたのです。しかし、例えばセンターコンソールの高さですが、先代モデルはシートよりも低い位置にセンターコンソールがありました。実はセンターコンソールの高さが高いほど高級感がある捉えられているのです。そういう基本的な形はなかなか変えられないのですね。色々加飾を施したり柔らか素材を使ったりして頑張ってはいたのですが、抜本的な改良となるとフルモデルチェンジで形そのものを変えていかないと難しいかったのです。
◆威風堂々は大きくデザインにも影響
—-:そういった結果などを踏まえて商品のコンセプトとして“威風堂々”というワードが決まったのですが、この言葉を選んだのはなぜでしょう。
上原:ほかのメーカーのクルマ達を含めてマッピングをするために、色々お客様のお話を伺ったのですが、そこで改めて感じたのは、このクラスのSUVは基本的に、家族を乗せて安全で安心に色々なところに行ってみたい、というセグメントだということでした。日本だとそういうことをしたい人はMPVを買うパターンが結構多いのです。その一方で、ミニバンだとスタイル的に納得出来ない、という主張のあるお父さんやお母さんが乗っているのが、このクラスのSUVだったのです。
そういう目で競合車を見回してみると、必ずしもそういうSUVに乗りたいというニーズに応えきれていないな、と。具体的には、広さを重視したピープルキャリア的なSUVであったり、もうちょっとタフで遊びに振ったSUVがあったり。それはそれで個性があると思ったのですが、その中で、自分たちならではの強みを生かすことで、どうすればお客様に受け入れてもらえるかを考えました。
つまり、アウトランダーの本質的価値は何だろうということを入念に議論したのです。その結果、三菱としてほかのメーカーと差異化出来るところは、どんなところを走っても安心できるところや、パジェロやデリカのように見た目も力強く頼もしくて、所有者がそれを見ただけで、自信を持って色々なところに行けると感じる本質価値。それを端的に表すにはどういう言葉がいいかと議論しました。その時は社内向けの言葉だったので、「ちょっとおおげさでもいいか」とか「威風堂々」という言葉にいきつきました。
また、こういう分かりやすい言葉なので、結果的に良かったと思ったこともありました。私たちの仕事である商品企画は、書きものとかで色々な部門にこういうクルマでこれを実現したいとお願いする立場なんですね。そこに難しいことをごちゃごちゃ書いてもなかなか分かってもらえないんです。それに伝言ゲームみたいになってぶれてきてしまうこともよくあります。しかしこの威風堂々は非常にわかりやすくて、実際にクルマをチューニングする部門の人も、このクルマの方向性はなんですかと聞くと、「威風堂々」とみんな答えてくれる。これは本当に良かったですね。
—-:この言葉をベースにデザインや走りを開発して行ったわけですが、その中で一番大切だったのはデザインだったのでしょうか。
上原:力強さ、頼もしさ、上質感、強く滑らかな走りの4本柱で考えていますが、その中でデザインは、力強さとか頼もしさに寄与しています。なかなかこれがナンバー1だとはいいにくいのですが、とっかかりとしてデザインによるところの力強さは大きいですね。
アメリカでは色々なクラスのSUVがあり、アウトランダークラスは決して大きなクルマではなく、どちらかというとコンパクトといわれるくらいです。しかし、これは嬉しいことにこのクルマはパッと見はかなり風格があると思ってもらえていますので、ひとクラス上のクルマと競合するという声を凄く聞きます。これは威風堂々をもとに作ったので、他のクルマと比べて圧倒的にフロントが分厚く出来ているからで、ここが差異化に繋がっていて、立派さとかひとクラス上感になり、それがキーとなり実際に乗ってもらい納得してもらっているという循環になっています。
私の立場からは4つのキー全部だといいますが、結果的にはデザインによるところがすごく大きいですね。