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【スズキ ワゴンRスマイル】ぬくもりや温かみを感じるインテリアに…インテリアデザイナー [インタビュー]
スズキ『ワゴンRスマイル』の外観は女性だけでなく男性にも受け入れられるよう、メッキ等にもこだわってデザインされた。ではインテリアはどうなのか。デザイナーにそのこだわりを聞いた。
◆長く親しんでもらえるインテリアとは
—-:エクステリアは威圧感なく、しかしメッキなどで男女ともに好まれるようにデザインされたと伺っています。では、インテリアのデザインコンセプト、どういうことを考えてこのクルマのデザインが始またのかを教えてください。
スズキ四輪デザイン部四輪インテリアグループマネージャーの辻村隆光さん(以下敬称略):まず企画として子育て卒業世代、それから若年の大学生やそろそろ親離れをしようかなという方々に向けて、スライドドア車で何か新しいものをということから始まりました。
そのうえでデザインでは、子育てを卒業されて、これから旦那さんと奥さんのお二人で改めて自分たちの生活をスタートする。そういった方々はそれなりにモノにこだわりを持っている方が多いので、同じようにこだわりを持てるクルマの方がきっと良いだろうと考えました。
そしていまの時代を考えながらこのターゲット層を踏まえると、全体的にはシンプル思考に向かっているという傾向を感じつつ、そのシンプルさの中でもある程度普遍的な洗練さだとか、ぬくもりや温かみみたいなものがあるほうが、これから先、じっくりと乗っていただくクルマとしてきっとふさわしいんじゃないか。この思いがデザインの中で一致したので、そういったところを軸にモノ作りを始めていきました。
◆手作りの丁寧さや温かみ
—-:そういった考え方を踏まえたA案、B案、C案の3案を見せていただきました。A案とC案はセンタースクリーンを大きく取っていますが、B案はインパネのメーター周りとスクリーン部分が繋がっています。A案とC案のようにあえて独立して大きな画面を置こうというアイディアは、どういう考えで出てきたものなのでしょう。
辻村:まずA案から説明しますと、A案についてはこのデザイン自体のテーマが、普遍的な世界観。モチーフにしたものが、古いクルマですとか、イタリアの古いスクーターのような、本当に昔から誰もが好んで愛している、キャッチーなキャラクターみたいなところです。横基調にスーッとつないで新しく見せるとか、いま時の見せ方ではない、ひとつひとつのものがしっかりと存在感をもって美しく見えて、それらの集合体がすごくバランスよくまとまっている。そういうデザインを目指しています。その結果としてA案は丸いメーターを採用しています。
C案は捉え方がまた違うんですが、こちらはどちらかというと現代の雑貨ですとか、家具みたいなものをモチーフにしています。身の回りのスツール、台みたいなところに、自分の大切なアイテムをひとつひとつ綺麗に並べて飾るようなところからインスピレーションが始まっていますので、これも繋げるところには最初から至っていません。ひとつひとつのものの美しさみたいなところをまとめていった結果としてこうなっています。
対してB案ではメーターとセンタースクリーンが繋がっているのですが、これはどちらかというと最近のリビングなどの世界観みたいなところをモチーフにしています。いまの家のリビングの印象は、大画面のワイドテレビがあって、そこにゆったりとしたソファーがあって、ラウンドした空間があって、そこで過ごしているようなイメージをモチーフにこの案は進めていましたので、この案だけモニターとメーターが繋がっているという表現で作り込んでいます。
—-:その中で最終に近いのがA案のようです。C案との大きな違いは、メーターと助手席前の部分が大きく違っていますが、あえてA案に近いものが選ばれていったのは何だったのでしょう。
辻村:今回は若い方をたくさん取りたいというところはありましたが、なるべく普遍的な世界観で、色替えとか、その色を変えた形の表情などを含めて、なるべく多くの方に親しんでこだわりをもって使っていただけるようなところを目指し、形を決めたかったのです。その辺が一番ですね。
それから、温かみというところで、もともとデザインとしては手で仕事をしたような、手作りの丁寧さであるとか、温もりであるとか、手仕事感みたいな表現をなるべく全体に散りばめたいと考えていました。そうすることでこだわりを持って、なるべく長く好んで使っていただけるような商品にしていきたかったのです。外観も含めそういう話をしながら作り上げいきましたので、その考え方に一番マッチングが良い案であることと、エクステリアと相性も含めてA案が一番良いだろうという経緯です。
◆加飾からも温かみを感じて
—-:実車を見るとエアコンの吹き出し口などにもすごくこだわりを感じました。
辻村:特にサイドルーバーですね。形自体は通常の丸ルーバーを収めている部分ではあるんですけれど、しっかりこだわりを持っています。やはり丸い部品の形状はインパクトが非常に強いので、そこをカラーパネルの中に納めて表現するのであれば、しっかりデザインを入れてキャッチ―に見えるように、そして質感高く、クルマの世界観にちゃんと溶け込むようなものにしました。また、カラーのメンバーともよく相談をしながら、カッパーの加飾を入れています。
実はこの辺りはカラーデザイナーのこだわりでもあったんですけれど、今回若い世代の方にしっかり新しいものとして認識してもらうことも目標としてはかなり強くありました。そこで通常であればこういうところはシルバーやメッキといったものと艶のパネルのコンビネーションみたいなものが、これまでの軽自動車でよくある定番だったのです。しかし、このクルマはあえてこだわりとして温かみを持たせました。いままでと何か違って、大事にしっかりと長く乗ってもらうような味わいのある部分が必要だと考えたのです。そこで一番見えるところにフォーカスして、そう感じてもらえるような表現を入れていきたいと、この色を作るのにカラーデザイナーはだいぶ苦心していました。もうちょっとピンクっぽい色とか、もうちょっと黄色っぽかったりいくつか繰り返し作って、最後の落とし所としてこの色に落ち着いたのです。
—-:助手席前にある艶のある化粧パネルはあまり採用例がないようにも思います。
辻村:スズキですと、先代の『ハスラー』などにもありました。ただ、こういうテイストを普遍的な形に落としながら、それとの相性で手仕事感の表現として採用するのは初めてです。その表現をしっかり伝えるために、特にカラーパネルの部分は色と形のマッチングというところに非常にこだわって作り進めていきました。
—-:その結果としてスタイルコーディネート(販売会社装着アクセサリー)でいくつか色が変わったりするわけですね。
辻村:そうですね。もともと工場で装着するものとしては、アイボリーとネイビーが車体色に合わせてどちらかを選べます。そのほかにブラックとコーラルなどいくつかオプションも含めて用意しています。
—-:あるコンパクトな輸入車はインパネとボディカラーが同色ということでユーザーから高く評価されていますが、それと同じイメージでしょうか。
辻村:そのあたりはA案の狙いです。元々昔のクルマやバイクをモチーフにといったところですから、古いクルマのインパネは鉄板でしたよね。そうすると車体色でコーディネートされて、必ず共色で出来ているわけです。その辺は若い世代の方から見ると、昔のクルマでしか味わえない特徴的な表現で非常に魅力的に感じるという声は結構聞こえてきています。そこでこのクルマでやるのであれば、そういうところはヒントにさせてもらって、なるべくカラーコーディネートの中で車体色と合わせる展開も考えて作っていきました。
◆室内全体で広々と感じてほしい
—-:軽自動車のインテリアはやはり広々感や横方向の抜け感を欲しがる傾向にあります。例えばハスラーでも上と下にバーを通して横に広く見せる工夫をしています。ではワゴンRスマイルではそういった工夫はありますか。
辻村:インパネ単体で見ると、横に通った感みたいなものは薄いかもしれません。ただしもう少し引いて斜め上ぐらいから正面を俯瞰してドアトリムまで含めて見ていただくと、インパネのカラーパネルの上にカッパーのモールがありまして、その上に疑似ステッチの表現があります。このステッチがインパネの端まで行って、一回そこで途切れるのですが、実はドアトリムにもう1度同じようなステッチとこのカッパーの加飾があり、空間全体でなるべくラウンドして広く見せるという表現を目指しています。
—-:つまりこれまでと考え方が変わったということですか。
辻村:そうですね。特に今回はフロントシートでゆったり心地よく過ごせる空間作りにこだわった部分もありますので、居心地の良さをなるべく大きくラウンドしたところまで捉えてやってみようという表現を取り入れています。
—-:シートにも結構こだわりがありますよね。
辻村:特にファブリックとステッチの加飾と共色に見えるように、カッパーのステッチをあしらいました。そのあたりが特にこだわりになりますね。
あとは、シートの側面と背面に使うファブリックですが、通常ですとここまで表情のある布を使っていないんです。しかし室内での心地良さや、全体でなるべく温もりのある空間にとしてしっかり仕立てていくうえで、シートの面積は非常に大きいですし、必ず体に触れる部分になりますので、しっかりこだわるべきだと取り入れました。
◆こだわりのステッチ
—-:このクルマのインテリアデザインでこだわったところやアピールポイントがあれば教えてください。
辻村:ステッチの表現部分です。当然価格的にもある程度上限がありますので、本革を巻いてみたいなことができればいいんですけれど、なかなかそこまではできません。とはいえやはりコンセプトでお話した手仕事感であるとか、温もりであるとかを疑似とはいえちゃんと表現してしっかり伝わるものにしたいということで、糸目を織り込むところの周辺の形状の断面や、糸目ひとつひとつの表情、それから布同士をつないで糸で縫うと、その間に裏側の糸の細い糸目のピッチみたいなものも見えてくるのです。縫い合わせの部分ですね。そういうものが奥にちょっと見えていたりとか、縫ってテンションが一番かかる革のトップのアールの部分のところも、シボをやや浅くして革が引っ張られた表情を実は表現しています。そのあたりはみんなで結構こだわりました。
インテリアグループの中に質感のワーキンググループがありまして、そこで数年前に疑似ステッチの表現を、なるべくリアルに見せるためにはどういうことをするとよりそのように見えるかという研究をしたことがありした。その辺の成果があったので、今回はしっかり量産で盛り込もうと表現しています。
—-:実はプレミアム軽の印象ですね。
辻村:なるべくそういう質感のこだわりはしっかりと入れました。正直いま200万円する軽自動車が普通にあります。そこにはダウンサイザーのユーザーもたくさんいますし、もともと良いクルマに乗っていらした目の肥えたお客様が、軽自動車というものに下りて来て頂いた時に、“なんだかな”と思われない商品をしっかり作っておきたいという思いが強かったので、最初から気持ちを入れてやって来た部分ではあります。
また、ルーフにキルティングの柄が入っているのも、ほかのクルマとはちょっと違う仕様かなと思いますので 座ってふと休憩したときに見上げると、ちょっと違う柄が入っている。そこもこだわったポイントのひとつです。
空間全体でそういうこだわりを表現したというところがアピールのポイントですね。