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ヒョンデ日本参入、ネット世代をターゲット…マーケティング担当[インタビュー]
ヒョンデモビリティジャパンは日本においてFCVの『ネッソ』とBEVの『アイオニック5』の販売を開始するとともに、横浜市にヒョンデカスタマーエクスペリエンスセンター横浜をオープンするなど積極的な展開を見せている。そこでマーケティング面に関してどのような戦略を考えているのか。担当者に話を聞いた。
◆満を持しての導入
—-:初めに伺いたいのは、今回の2車種はなぜ日本向けに選ばれたのでしょう。
ヒョンデモビリティジャパンマーケティングチームシニアプロダクトスペシャリストの佐藤健さん(以下敬称略):実は3年以上前から着々とこのプロジェクトは進めており、日本向けにどうするかを本国と日本のスタッフとでやっていました。
12年ほど日本では乗用車は売っていなかったんですけれど、研究所はありまして、その間も日本で活動をしていたのです。ただし、研究所での仕事は主には日本以外のマーケット向けのクルマの仕事ではあったのですが、そこにはエンジニアリングのチームもいますので、日本仕様として日本のマーケットにどう合わせるかはかなり研究を重ねていったのです。
例えばウインカーレバーの位置も右にしましたし、ナビゲーションもきちんと日本仕様にしたり、CHAdeMOもそうですね。そういったところを、色々検討を重ねて進めてきました。商品自体も日本のマーケットを見て作っていますし、価格も日本のマーケットで非常に競争力のあるところを狙って、今回満を持して導入したのです。
—-:アイオニック5については、これからはEVが着実に増えるでしょうし、かなり特徴的なデザインでもありますので、訴求力はすごくあると思います。一方のネッソはFCVではありますが、日本市場での訴求を考えると開発の世代を含めてかなり難しいポジションかなと感じます。そのあたりを含めてなぜネッソの導入に踏み切ったのでしょう。
佐藤:そこは明快で、いま世界中の乗用車で量産してるFCVはネッソとトヨタ『ミライ』しかないんです。ミライに関しては、日本でもそれなりの数を売っています。水素ステーションは確かに多くはありませんが、それなりにはあります。実はグローバルではミライよりネッソの方が台数は多いのですね。そこで、インフラが日本においてきちんとあるということ、しかも日本の政府がやろうとしてるカーボンニュートラルにもゼロエミッションビークルですので合致することから導入致しました。
—-:しかしかなり売りにくいと思うのですが。
佐藤:正直に申し上げて、アイオニック5に比べますとチャレンジだとは思います。ただ、ひとつの状況として、水素ステーションが比較的常に空いているんですね。
ですから使おうと思えばいつでも使える状況で、そこで充填すると800kmぐらい走れるわけです。一方で普通のガソリン車はだいたい400kmから500kmぐらいですので、そう考えると使い勝手としては決して普通のガソリン車よりも劣りません。いまなら補助金も出ますので、例えば近くに水素ステーションがあるなどで、場所の制約がなければ非常に手が届きやすいですし、かつ、環境に非常に良い。
ある意味、未来の燃料で走ってるわけですから、そういったところは人によっては間違いなく響くと思います。かなり絞ったマーケティングかもしれませんが、ある程度の可能性はあると思っています。
いままで日本市場においてFCVはミライしかなかったわけです。そのミライに乗っておられる方々が、次に何に乗ろうかとなった時に次がないんです。私たちとしては、ゼロエミッションビークルの選択肢を日本のマーケットできちんと提供したいという思いもあります。しかもFCVの選択肢もありますので、それであればきちんとご提案しようというイメージです。
確かにデザイン的にはアイオニック5と並べるとちょっと尖っていないかもしれません。ただネッソ単体で見ていただくと、間違いなくどのクルマにも似てない、かつSUVとしての機能性も持っています。しかも水素で走るサスティナブルなクルマだといういうところは、ポイントとしてありますので、きちんとした魅力を持っているクルマだと考えています。
◆価値観の多様化が日本再導入の背景
—-:ヒョンデの乗用車は日本市場から2010年に撤退しました。そしていま再び導入が開始されました。その理由は何でしょう。
佐藤:かなり前から再導入の検討は始めていました。12年ほど売っていなかったわけですが、この間に日本のマーケットはすごく変わったと感じています。若者のクルマ離れといわれていますが、実は若い皆さんも免許は持っているんです。クルマに乗るのが好きかと聞くと、好きだと答える方も多い。ただ維持費がかかるから持たないとか、色々な意見があるのですね。
いまクルマに対する価値観はすごく多様化してきています。多分50代くらいの人たちにとってクルマは小さいころからの憧れで、いつかクルマを自分で持ちたい、持ったら手放さない、ずっと所有すという感覚だと思います。
しかしいまの若い人たち、40代ぐらいまでの方はそういう感覚ではなく、どちらかというとクルマを“使いたい”という感覚のようです。休日に高速道路を走ってるとわナンバーのレンタカーが多く走っているのを見かけますよね。結構若いカップルが多く乗っている。つまり、クルマを使ってライフスタイルを豊かにしたいとか、楽しみたいという気持ちが増えていると思うんです。
かつ、環境やSDGsなどにも若い人たちも関心を持っていて、そういった価値観を考えると、ゼロエミッションビークルでクルマのある生活を楽しみたいという人が、日本でもそれなりに増えてきているわけです。その選択肢がどのくらいあるかと見たときに、実はあまりないんです。そういうところに我々がきちんと選択肢を提供できるのではないかと考えています。
いま日韓関係で色々といわれていますが、少し視点を変えるとスマホもそうですし、音楽業界やエンターテインメントなど、韓国はグローバルで大きく活躍しています。そして、日本でも支持する人たちはたくさんいるので、きちんと良い製品を適切な価格で提供できればチャンスはあると考えています。つまり、日本のマーケットがそれなりに変わってきていますし、ヒョンデとしても、そこに合う商品を提供できる準備が整った。そこで今回満を持して再参入することになったのです。
—-:今回から名称がヒュンダイからヒョンデに変わりましたね。
佐藤:いま日本では、ヒュンダイをきちんと自動車メーカーのブランドだと分かる方と、全く知らない方も実はいらっしゃる。どちらかというと、ご存じの方がたくさんいるのは分かるんですけれども、やはりまず本国に合わせて、グローバルな呼び方にするという目的があります。
それからヒュンダイを知っている方の多くは、過去のヒュンダイを知っているのであって、その時代のクルマ達は、いまの商品群とは一線を画す時代のものといっていいと思っています。そこで全く新たなものという捉えられ方をされてもいいのであえてヒョンデと統一したのです。
◆ネット世代がターゲット
—-:今回、販売方法をネット中心という特徴的な売り方を選択しました。これはターゲットユーザー世代がスマホ世代であり、ネットでの購入を重視しているからなのでしょうか。
佐藤:そうですね、間違いなくそうです。日本のクルマの売り方は、もう100年ぐらいずっとメーカーが作って、販売店に卸して、そこからお客様に売るというスタイルでした。しかし、自動車以外の商品を見ると完全に変わってきていて。普通に皆さんネットで買うようになっています。その方が合理的ですし、いつでも買える、どこでも買える、そういう時代になってきてると思うのです。そこに照準を合わせたというところですね。
—-:その反響はいかがですか。
佐藤:いまのところネットで買うこと自体にあまりネガティブな意見は聞かないですね。ただ心配される声としては、ディーラーがないとアフターサービスをどうするのかという声のがあります。また、いままでは販売店に行って担当の営業マンがいるから、なにかあったらその営業マンに聞けばいいけれど、いないのでどうしたらいいのかという問い合わせは結構あります。
そこは、ご自身の“ワンID”を作っていただいて、コールセンターに電話してそのIDを伝えていただければ、過去にどういう会話をされていたのか、また整備の履歴などもきちんと出るようにしますので、そういったことで、おそらくその不安は解消できるでしょう。また、横浜に開設しましたヒョンデカスタマーエクスペリエンスセンターをはじめ、主要都市にもこういった拠点を配置する計画もあります。
—-:では基本的にはネットを軸にしながら、その不安を取り除くためにリアルな店舗もいくつかは構えましょうというニュアンスですね。
佐藤:そうですね。
—-:ゆくゆくとしてはリアルな店舗はなくしていきたいというお考えですか。
佐藤:いえ、カスタマーエクスペリエンセンターは続けると思います。ただ、いまのディーラー網のように全国50か所みたいなことはないでしょう。
◆グローバルのキャンペーンを日本でも
—-:今後のことについて教えてください。今回2車種が投入されましたが、これ以降、どのような商品展開を考えていますか。
佐藤:具体的にお話できるものはまだないんですけれども、基本的にはゼロエミッションビークルだけで行きますので、本国での導入状況を見ながら日本でも支持していただけるようなモデルがあれば、展開していくことになるでしょう。
—-:その支持してもらえるモデルとはどういうクルマですか。
佐藤:そこは時代によっても変わってくるかもしれませんが、日本のマーケットにきちんと合っている、例えばサイズ感や価格ゾーン、あとは私たちがターゲットとするようなお客様に対して、本当に楽しんでいただける内容、価値を持っているかということを見て判断していくことになると思います。
—-:ブランド訴求を踏まえると、現在はまだクルマの商品展開しか見えてきていません。現在何か考えていることはありますか。
佐藤:そこもいまはまだ具体的なものはお話ができることはないんですけれども、ただ、1つにはきちんとした商品を提供できれば、時間はかかりますがブランドはそこから積み上がっていくものだと思いますので、そこは大事なことと捉えています。
それからグローバルでヒョンデブランドとして様々なキャンペーンを行っていますので、そういった活動を通して、日本でもブランドの構築はしていくことになるでしょう。
—-:ではどういうブランドとして認識してほしいのでしょう。
佐藤:難しいところですね。いままでの自動車メーカーはどちらかというと若い人に訴求するといいつつも、実購買層はいまの団塊ジュニア世代、50歳前後以上に売らなければいけませんでしたから、どうしてもプレミアム性などを持たせて、“自慢できる的”なブランドの構築が多かったと思います。われわれとしてはそことは一線を画して、40歳代よりも下の人たちにもきちんと受け入れられる価値観、即ち、使って楽しいとか、あなたのライフスタイルを豊かにできますとか、色々な可能性が広がりますというようなところをアピールしていくべきかなと考えています。