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【スズキ ワゴンRスマイル】可愛いを4回言われたら格好いいは6回…エクステリアデザイナー[インタビュー]
威圧的なフロントフェイスではなく、まさに“スマイル”フェイスなスズキ『ワゴンRスマイル』。先日フルモデルチェンジしたダイハツ『ムーヴキャンバス』も同様に優しい顔つきを踏襲するなど、フロントフェイスの変化が見えてきた。そこでワゴンRスマイルのエクステリアデザイナーにそのデザインについて話を聞いた。
◆女性へのアピールは欠かせないが
—-:これまで新居さんはスズキでどのようなクルマのデザインを担当してきたのですか。
スズキ四輪デザイン部四輪先行デザイングループの新居武仁さん(以下敬称略):直近ではいまの『スイフト』、その前は『エスクード』、エスクロス『SX4』などで軽は久しぶりです。
—-:今回、ワゴンRスマイルのエクステリアのデザインを担当されました。このクルマは新規投入車種ですが、どのような形でスタートしたのでしょう。
新居:スライドドアで月間5000台くらい売れるクルマを作ってほしいということがスタートで、デザインも一緒に考えはじめました。
—-:その時新居さんの中ではどんなクルマを想像されていましたか。
新居:実はすごく難しいなと。『スペーシア』がありますし、そのバリエーションもあって、本来ワゴンRスマイルはいるのかな、と思いました。つまり、決定版のスペーシアがありまして、ホンダ『N-BOX』もそれだけで2万台売れるクルマです。そこに新しく5000台の軽を投入するというのは意外とハードル高いなと思ってました。
—-:そこから新居さんの頭の中で色々デザインを考えていったと思うんですが、最初にこれはやらなきゃいけないとか、こういうデザインをしなければいけないと思った事はありましたか。
新居:それはいわれてたせいもあるんですけれど、女性へのアビールは外せないということです。ただ女性一辺倒は止めてくれといわれてもいました。ワゴンRは7:3と男性比率が高いんですね。しかし軽全体の構成比をみると6:4で女性なんですよ。その中で割とスズキのクルマは男性に振れているんですけれど、そういったこともありまして、女性へのアピールがしたいということがありました。ですからあまりガチガチのクルマにして、女性に買ってもらえないのは駄目だなと思ってました。
—-:それは最後まで貫き通した感じですね。
新居:そうですね、
◆生活に寄り添うイメージで
—-:ワゴンRスマイルのエクステリアデザインのコンセプトはどういうものだったのでしょう。
新居:一番目はシンプルで明快なデザインがテーマです。古典的なクルマだと思うんですけれど、ショルダーがあってボディがあって、そこにキャビンが乗っている。そういう明快なデザインテーマです。
二番目は愛着とぬくもりを感じさせる面の表情です。そして三番目が、色、素材、加飾が生きるディテールで、これはインテリア、エクステリア共通なのですが、それをデザインテーマとして挙げています。
—-:なぜデザインテーマとしてそういったことを選んだんですか。新規投入車種ですからもっと色々なことができたと思うのですが、すごく生真面目な印象を受けました。
新居:実はコンセプトは最後に出来上がったものに対して説明するためでもあります(笑)。もちろん選択肢は色々あって、もっと違うものもあったんですが、いろいろもまれた中で残って来たのがこの案でした。それを一番端的に説明しているのがこの言葉なのです。
確かに難しいんです、こういうクルマは。『ハスラー』のように凄くアクティブで元気印みたいなのはわかりやすいでしょう。でも実際の生活はそうでもないと思うんですよね。別にガンガンにアウトドアテイストでもないですから、もう少し生活に寄り添った感じというのはテーマにも上がっていました。なかなか言葉では伝えにくい部分ではあるんですけど、そういったところは意識していました。
◆ヘッドライトへのこだわり
—-:デザインをして行く中で一番こだわったことは何でしょう。
新居:女性にはウケたいんですが、可愛いだけじゃだめ。可愛いと4回いわれたら、格好良いと6回いわれているようなクルマを作りたいという思いはずっと頭にありました。
—-:それが実際に表現できてるとこはどこですか。
新居:『MINI』などは基本的に丸目で可愛いんですが、男が乗ってもいいですし、ディテールにもモダンさも併せ持っています。そういう意味ではワゴンRスマイルも基本的なデザインはそれほど変わったことはしていません。そのぶん灯火類の作り込みや、メッキ、面の表情とかは結構こだわって作り込んでいるクルマです。
また、凄く特徴的なキャラクターラインを一本入れると、その特徴が浮き出ますが、そういうところではない、違うところで勝負していくデザインを目指しています。
—-:ヘッドライトの上のボンネットにはふくらみを持たせたりしていますよね。
新居:目というか顔のあたりを作っていく上で、ヘッドライトやそのベゼル、グリルなどとのバランスを取っていった際、より量感を持たせたいというところから出てきたものです。
—-:そのヘッドライトは“四角丸”ですよね。
新居:実はなぜか手が動いて鶉型のヘッドランプが生まれたんです。そこが何で鶉型かといわれると困るんですけど(笑)。
—-:職人ですね。
新居:たまたまそれを描いたのを見た高橋CE(スズキ商品企画本部四輪商品第一部チーフエンジニアの高橋正志さん)が良いといって選ばれました。MINIやポルシェ『911』だとヘッドライトの面をショルダーに流すことが出来るのですが、軽の四角いクルマですから、それができなくて、どこかで少しずつ吸収していかなければいけないのですが、そこが難しくもあり味にもなりました。ちょっと変わっていますよね。
—-:TVCMやカタログなどを見ると、とてもヘッドライトが大きく見えますが、実車ではそれほど感じませんでした。それはいま仰ったボンネットの膨らみをなんとなくショルダーに流しているからなのでしょうね。
新居:そうですね、フェンダーのあたりが矛盾を吸収しているというか。確かにちょっと“ぎょろ目”に見えるときもあるかなと思いますが、実際のヘッドライト自体はそれほど大きくないんですよ。ただクロームのベゼルが大きく見せているのかもしれません。シルバーは意外と大きく見えたりするんです。多分ボディ色によってはすごく小さく見えるようなときもあると思います。
◆優しい表情と量感
—-:可愛らしさと格好良さの表現ですが、それぞれどこで表現されていますか。
新居:可愛らしさは丸目のたたずまいと優しい表情です。とげとげしい表情がないでしょう。最近流行でもあるのですが、本当に不機嫌そうなクルマが多いと妻がよくいっています(笑)、後に着かれると怖いとか。このクルマはそういうことは全然ないですし、優しい表情だと思います。
格好良さはディテールの作り込みと量感で表現しています。量感とはクルマの成り立ちでいうと意外とボディががっちりしていてキャビンが小さいことですね。ベルトラインがほぼほぼスペーシアと一緒なのですが、キャビンだけ90から100mm落としているので、アメ車でいうチョップドトップみたいなバランスなんです。だからすごく“ガタイ”が大きくて頭が小さい。そういう量感が割とあります。
最初に設計をスタートするときに100mmほどは全高を落とすことが決まっていたので、ベルトラインも下ろそうと、プロポーションモデルで検討したんです。ただ、少しベルトラインが高めでチョップドトップの方がスポーティでいいんじゃないという結論になりまして、それが結構、ごついとかスポーティだといわれる要因だと思います。
◆ボディカラーにもこだわり
—-:このクルマのエクステリアで新居さんがすごくこだわったところはどこでしょう。
新居:ショルダーからヘッドライトに流れるような面が一番の見せ場です。あとは、ドアハンドルのところをしゃくっているのですが、そこのネガ面が意外と効果を生んでいます。ネガでえぐっているがためにボディの面が結構豊かに見えています。
—-:ホイールとかもちょっとこだわりが感じられますね。
新居:クルマの性格上アルミホイールではなくキャップで良いので、2トーンなどバリエーションを持たせたいと考えました。実際に女性にとってアルミホイールはあまりメリットは感じないでしょう。それであればむしろカラーコーディネートが出来る方が良いのではないかと、最初の段階からキャップだけを開発しています。なおかつ高橋CEがいう、可愛いだけじゃなくてかっこいい系にも対応できるようにデザインしました。
デザイン案はホイールキャップとはいえ何百枚も絵を描くわけなんですけど、それから選抜をして10案以上を一個一個、そのときにはもうボディはできていましたから、そこに当ててみて、みながピンと来たのがこの仕様です。
—-:ボディカラーもかなり豊富ですね。
新居:カラーも女性にアピールしたいということもありますが、もうひとつ、きちんと男性が乗れるクルマでもありたいと、イメージカラーも2色持っています。ひとつはコーラルオレンジとネイビーブルーです。色も明暗がはっきり出るようなイメージで、特にコーラルオレンジの方はアーバンブラウンツートンルーフです。いままでほとんどなかったような明度違いでニアトーンのブラウンで2トーンルーフを作っているのがお勧めで、おしゃれ上級者向けです。
またコーラルオレンジや、ネイビーブルーは工夫して割と量感がはっきり出るようなタイプの塗装にしています。