注目の自動車ニュース
CASE車両の進化に挑む高性能LiDAR・センサー技術…ソニーセミコンダクタソリューションズ
ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)が6月17日、メディア向けに各種センサー技術、13種のデモンストレーションを行った。イメージセンサーやLiDARなど車載システムと縁が深い技術も多かった。
●ソニーの最新半導体技術13種を展示
SSSの事業は、スマートフォンなどのモバイルデバイス、カメラ、ディスプレイなどが主力だが、近年車載用センサーの需要も増えているという。ソニーのVISION-Sでは、同社は各種センサー技術の要であり、ホンダとの提携では、ホンダとソニーVISION-Sチームをつなぐ役回りが期待される。
13種の技術のうち、車載システムとして見た場合、車載用高精度イメージセンサー、高性能LiDAR、これらを応用したモーションキャプチャーのアプリケーションが興味深いものだった。また、デバイスソリューションの応用として、エッジAIを組み合わせた総合ソリューション「AITRIOS(エイトリオス)」もCASE車両やモビリティビジネスで注目すべき技術だった。
エッジAIとは、高度なAI処理をクラウドではなく、デバイス側で行うことを指す(NTTなどはクラウドのエッジ(縁)であるモバイルネットワークの中継局での処理をエッジということがあるが、ここでのエッジは車両本体側での処理を指す)。
●車載カメラの要件
スマートフォンのカメラは、月明りやろうそく1本の暗がりでも写真撮影が可能だったり、撮影後にフォーカスを調整したり、逆行でも顔がきれいに写ったり、かなりの機能を持っている。画素数も1200万画素という高解像度の製品も珍しくない。だが、車載カメラとなると要件の方向性が少し変わる。
スマートフォンのカメラは、撮影後にソフトウェアによる補正・加工処理によっていくらでも画像を“作る”ことができる。本体内蔵の小さいカメラが夜景をきれいに撮影できているが、これはカメラ部やイメージセンサの精度より、ソフトウェアによる画像処理技術、画像アプリでいえばレタッチ機能によって実現している性能だ。
だが、車載カメラの場合、多くの用途がADAS機能や自動運転のためであり、リアルタイム性能と光学的な要求性能が高くなる。逆光でも信号を認識し、ヘッドライトによる蒸発現象(強力な光源の前で対象が見えなくなる現象)は回避しなければならない(HDR)。暗闇や豪雨、コントラストが高い雪の路面でも認識能力が求められる。障害や異変を取りこぼしなくセンシングするため、フレームレートは高めたいが、高めるほどLED照明(高速道路の案内表示や信号機で増えている)のフリッカーの影響がでやすいという問題もある。
●ソニーセンサー技術の車載ソリューション
車載カメラでは、これらの要件を満たすため、HDR機能をセンサーや撮影後の信号補正処理などで実現している。暗い場所では赤外線など可視光以外の領域をセンシングしたり、カメラに頼らないレーダーやレーザーを利用したりする。
SSSの車載ソリューションでも、これらの技術を利用しているが、STRAVISという技術では4K画像を0.05lx(月明り程度)での撮影を可能にする。この明るさでは、通常、対象の色の再現までは難しくなるが、SSS独自のプロセス技術、回路技術によって暗闇のカラーチャートをかなりの明度で認識できる。応用は、防犯カメラの他、ドライブレコーダーにも有効だ。
なお、色はソフトウェアによって着色しているわけではなく、対象の光をセンシングして増幅している。
逆光やハレーションを起こすような照明下でのHDR機能も特徴的だ。HDRやフリッカー低減のためには、サブピクセルと呼ばれる方式がある。イメージセンサーの画素ドットの間に感度の低い画素を配置し、画像が飽和する時間差によって消えてしまう画像をとらえる方法だ。SSSではこの方式の他に、octa PDという技術を持っている。
センサーの画素を4つずつセットにし全体の感度を上げる。この4つの画素は3種類の明るさで同時撮影することでHDR特性を向上させる。さらに、ひとつの画素は左右に分けてフォーカスを設定できる。このocta PDによって、好感度、HDR、高性能AF(全画面フォーカス)を可能にしている。
octa PDは現状スマートフォンでの実装が多いが、SSSの積層・パッケージ技術によって信号処理プロセッサやロジック部分と一体化できれば車載カメラとしての応用は広がるだろう。
●ToFセンサーで高性能LiDARやジェスチャーコントロールを実現
デモで驚いたのはSSSのLiDAR技術だ。SSSのSPAD距離センサーは、検知可能距離を150メートルから200メートルまで広げたLiDARを実現できる。通常この距離のセンシングはミリ波レーダーかカメラ画像を利用することになる。どちらも対象の立体形状の認識は得意ではない。
SPADセンサーは、CMOSイメージセンサーと同様なフォトダイオードアレイの光センサーだが、ダイオードの構造が異なり受光した光(光子)を直接電気信号に変える(CMOSセンサーは受光した分の電気が溜まりそれを検出する)。応答速度と感度が高いのが特徴だ。対象までの距離はToFという光が反射して戻ってくるまで時間で計算する方式を採用する。測距は別のロジックチップで行うが、独自の積層技術でSPADセンサーに一体化させている。
このSPADセンサーをLiDARとして利用する場合、回転ミラーなどを使ったメカニカルスキャナーに組み込む。デモでは横幅12センチくらいの小さい箱が3脚に取り付けられていた。かなり小型で、車載する場合、前後のバンパーなどに埋め込むことになる。
ToF方式のセンサーは車載インナーカメラとしても応用可能だ。ADASや自動運転機能が強化される次世代車両は、キャビン内、ドライバー、同乗者の状態監視のニーズが高まっている。すでに緊急停止や居眠り防止のためのドライバーモニタリングシステムが実用化されている。今後は、異常検知精度の向上が求められると同時に、パーソナライズやエンターテインメントへの応用が期待されている。
ToFセンサーでドライバーの手足や頭などの動きを細かくトラッキングすることができる。顔の向きや瞼の状態だけで判断していたドライバーの異常を、手足の動き、細かい挙動から予測・検知することができる。指先の動きをトラッキングすれば、ジェスチャーコントロールにも応用可能だ。輸入車の一部に採用されているジェスチャーコントロールは、SSSのソリューションが採用されているそうだ。