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【三菱 eKクロスEV】「ターゲットは地方のセカンドカー市場」なぜベース車が『eKクロス』だったのか
三菱自動車は軽自動車のBEV(軽EV)、『eKクロスEV』を発表した。同時に発表された日産『サクラ』とは違い、既存車種をEV化するという手法を取った三菱。そのねらいとは。車種選定や販売関連に関して、開発責任者とマーケティング担当者に話を聞いた。
『i-MiEV』でも提案した選択肢
『eKクロス』をベースにしているとはいえ、軽乗用のフルEVは『i-MiEV(アイミーブ)』以来だ。そこで開発にあたってはアイミーブの経験などが活かされたという。三菱自動車 国内商品販促部シニアスタッフの露木茂さんによると、「アイミーブは1万台ほどを販売しましたので、そこでの販売の苦労や、ユーザーの意見などを吸い上げていました。そして、次につなげるならこの吸い上げた内容を活かしていきたいと常に言い続けていたのです」と話し始める。さらに、「我々は最初に軽のカテゴリーで(EVを)出したので、今回も軽のカテゴリーで出したい」との思いもあったそうだ。
また、営業面での訴求では、「新しくEVが出たというよりも、身近な軽のEVとして広告宣伝もやってもらいます」。その理由について露木さんは、「『すごい技術がある』などとアピールすると、ちょっととっつきにくさが出てしまうでしょう。そうではなく『ガソリンもEVもあるので、どちらにしますか』という選択肢を設けたイメージなのです」と説明。そのメリットも、「ガソリンであれば長距離、EVは近所。特にガソリンスタンドがないようなところで(EVは)使いやすいと、それぞれのメリットを説明して行きます」と語る。
実は三菱がガソリン車とEVという選択肢を設ける方法は、これまでにもあった。それは、『アイ』とアイミーブだ。「アイがあってアイミーブがあったように、eKクロスがあってeKクロスEVがある。その進化の仕方は、三菱のやり方に則っているといえるでしょうね」とコメントした。
露木さんは、軽EVの担当になった時「やっとかという感じ」だったという。「アイミーブを出していましたので、その次も欲しかったですね。これまでもアイミーブの電池を使ってパイクスピークに出場したり、PHEVを使ってアジアクロスカントリーラリーに出たりなど、電動車両で極限のパフォーマンスを出して、それを市販車につなげるべく開発は続けてはいました。ただそれが製品になるというところまではなかなか進めていなかったので、それがようやく実現するという感じです」とその気持ちを語る。
地方のセカンドカー市場をターゲットに
ekクロスEVのターゲットは主に地方を中心に考えているようだ。露木さんによると、「軽は地方が多く、そこではセカンドカー需要が中心です。さらに、ガソリンスタンドが減っているという状況下、給油のために1リットル、2リットル使う必要があるようなところがあります。EVなら自宅に充電機さえあれば日常の移動には事足りますので、軽EVのメリットは大きくなります」という。
「調査結果では、軽やコンパクトカーユーザーの8割以上が1日50km未満の走行距離です。今回の開発ではこれがひとつの契機になりました。そのぐらいであれば週1回か2回充電すればよいので、受け入れてもらえるのではないか。片道何十キロも給油だけのために行くのであれば、家で夜充電して朝には満充電になっている。そういったところが地方に行けば行くほどやりやすいと思いました」とのこと。また、都心では集合住宅が多いため、充電器設置に関してハードルが高くなってしまうことも地方に目を向けたひとつの要因になっているようだ。
EVのメリットは充電だけではない。「モーターを使っているので、トルクの立ち上がりなど動力性能も含めたメリットは大きい。さらにアイミーブの時にはなかった日産の技術力の結果であるワンペダルフィーリングも、アクセルペダルとブレーキペダルの踏みかえが減ることで、踏み間違いも減る可能性があります。これは安全にも寄与できるでしょう」とコメントした。
そこでターゲットユーザーをより具体的に聞いてみると、「セカンドカーユーザーで、女性が多いでしょう。年齢層的にはお子さんが大きくなりかけている、30から50歳代です」と述べた。
また、地方での軽需要を鑑みると、農家で使用する軽トラックのEV需要は大きいのではないか。商用車としては『ミニキャブ』のバンタイプにEV(ミニキャブMiEV)を設定している三菱。車体としてはミニキャブのトラックも用意しているが…。露木さんにそう尋ねると、「本来はそうあってほしいのですが、四駆がないので厳しかった(『ミニキャブミーブトラック』には四駆設定がなかった)。四駆にしようとすると、(バッテリー設置と駆動方式によるレイアウト変更で)荷台容量が減ってしまう」と説明。ただし、「軽規格の電気トラックはやろうとしています」とあきらめていない様子だ。
ハイトワゴンの『ekクロス』が選ばれた理由
アイミーブに次ぐ軽EVとして、なぜeKクロスが選ばれたのか。車種選定の理由について、商品企画本部チーフ・プロダクト・スペシャリスト(Domestic Vehicle)の藤井康輔さんが答えた。「1つは三菱らしさを出したいということです。『アウトランダーPHEV』がその最たる例ですが、『デリカD:5』など、改めて三菱らしさの原点に立ち返った商品をラインアップしていきたいという基本的な概念があります」。
そうした概念から言えば、三菱のEVとして選ぶべき車種は『eKワゴン』ではなかったという。「eKクロスは三菱らしさやSUVらしさを表現したモデルですので、EVにおいてもeKクロスをベースにすることにしたのです。スーパーハイトワゴン(eKスペース/eKクロススペース)のEVに対する要望があるのも事実で、この先考えていきたいと思っています。ただし、スーパーハイトワゴンのネックは、スライドドアによる重量増で、航続距離が短くなる可能性があること。それからバッテリーのレイアウトによる、荷室容量とのバランスです。それらを考えた時に、今回はeKクロスが最適だと判断しました」と述べる。
また、スライドドアの構造物の関係(スライドドア用のモーターなど)で電池を小さくしなければならず、その結果として航続距離も減少してしまうことなどの影響が予想されたことも要因だった。露木さんも、「eKクロスであれば、1人、2人での乗車が多いのですがeKクロススペースでは、家族で乗るケースが多いでしょう。そうなると乗車人数も増え軽EVのメリットがあまり活かせなくなるかもしれません」。そこで、三菱らしさ(ダイナミックシールドやSUVらしさ)を考えると、まずeKワゴンではなくeKクロスをベースにEVしたと理解しています」と露木さんもコメントした。
そうして誕生したeKクロスEVだが、どのくらいの販売割合を見込んでいるのか。露木さんによると、「ekクロス全体では半々。しばらくはガソリンの方が多いでしょうが、5年後くらいには逆転するぐらいのところまで成長すれば嬉しい」と語った。