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【三菱 eKクロスEV】「EVは特別なものではない」あえてガソリン車と同じ見た目である理由
三菱自動車の軽乗用電気自動車(軽EV)、『eKクロスEV』が5月20日にデビューした。軽EVとしてはかつて『i-MiEV(アイミーブ)』を市場投入し、早くからEV市場の創生を目指してきた三菱。時は過ぎ、改めて軽EVの価値が見直される中登場した新型車は、どのような想いで生まれ、そして進化したのか。開発責任者にその意気込みや課題について聞いた。
価格と航続距離が課題
三菱自動車 商品企画本部チーフ・プロダクト・スペシャリスト(Domestic Vehicle)の藤井康輔さんは、開発責任者に任命された時、率直に「やりがいあるな」と感じたという。その理由は、「(EVは)特に環境問題でいま世の中に求められているものです。そこにまた1歩踏み出す商品であり、そこに貢献できるということで、素直にやりがいがあって、嬉しいと思いました」。その一方で、「以前、アイミーブを作っていたので、色々な課題も見えていましたし、お客様の不満があったことも事実。そこにチャレンジしていくということでやりがいだけでなく、プレッシャーもありました」という。
その課題とは何だろう。藤井さんは、「1番はやはり価格。それと実用面での航続距離。また、アイミーブのスタイルが個性的だったことで足りなかった軽自動車に求められてる実用性です。それからインフラの整備でしょうか。アイミーブが普及に至らなかったところは色々あったと思いますが、その課題を1つ1つお客様の満足レベルに到達させていかないと、また軽でEVを作りましたといっても振り向いてもらえないでしょう。そういったところを、1つ1つ紐解きながら今回のeKクロスEVを作っていきました」とその思いを語る。
その中で最も実現したかったのは、「お買い求めやすい価格と、実用レベルの航続距離、この2つが大きい」とのこと。「お客様が満足いただけるかどうかは実際に販売してからになりますが、今回、WLTCモードで180kmを達成しました。アイミーブがJC08で150kmぐらい、実質130kmぐらいでしたから、プラス約50kmです。価格も補助金がフルで貰えれば、200万円を切るぐらいのレベル(※)になりましたので、ひとまず目標レベルは達成できたと思ってます」と嬉しそうに話す。
その航続距離について藤井さんは、「アイミーブの時は、エアコンをつけると航続距離が一気に縮まるなどの不満がありました。そこで今回、エアコンの効率も良くしましたので単に数値だけではなく、実用面でも十分満足いただけるレベルにあるでしょう」と期待に違わないレベルにあるとした。
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EVは特別なものではない
EVを開発する際には、2つの方向性が考えられる。ひとつは新規車種としてEVのイメージを打ち出し特別感をアピールするもの。そしてもうひとつは同じ車形の中でEVと内燃機関をラインアップし、ユーザーに選択させるもので、eKクロスEVは後者にあたる。「そこは最初の企画段階で議論になりました」と藤井さん。
「EVは普及し始めている段階ですので、そこに特別感を求めるお客様は多少なりともガソリンモデルより高いお金も出しますし、ガソリンモデルとの違いやプレミアム感を求められます。ただ、我々としては、どうしたら気軽にEVを選択肢のひとつに入れてもらうかを狙っています。全世界が向かう方向として、EVに乗り換えていただかないと、カーボンニュートラルの実現は厳しいのも事実なのです。従ってその敷居を下げることがポイントです。そのためには、あまり価格が高いイメージを持たせずに、(同じクルマの中で)ガソリンモデルか、EVを選ぶのかという選択肢を目指したいのです。そこであえて外観についてはeKクロスから大きな変更はせず、ガソリンモデルと同じようにすることにしました」と述べ、EVは特別なクルマだという見せ方はあえてさせなかったことを説明。
ただし、インテリアに関しては質感が向上し、特別感もある。見方によってはエクステリアよりもインテリアに力が入っているようにも感じる。「結論からいうと、そういうことだと思います」と藤井さん。「外観であまり(EVを)主張しすぎたくないところから始めましたが、そうはいっても買われた方に満足感をどう持っていただけるか。そこで先進的な機能や、インテリアの質感向上が結果的に繋がったと捉えていただきたいのです」と語った。
実はエクステリアでとても好ましく思った変更点がある。それはボディサイドの「EVエンブレム」だ。キャラクターラインにきれいに溶け込ませ、あたかも最初からそこにあるかのようにあしらわれている。「これは凄く苦労しました。なぜなら軽自動車の枠(規格)に入れないといけないから」と藤井さん。「お客様の思考としてあまりEVだからと外観を専用化にしたくないという方々が半分以上。しかし、やはりEVであることは主張したいという方もある一定数はいます。さらに、EVの訴求としてエンブレムは必要です。そこでサイドに入れようとした時に出っ張ってしまうと軽の枠を超えてしまうんです。その結果このような形になりました。もちろんEVを主張したいお客様に対しては単なる張り付けたちゃちなものではなく、それなりのエンブレムは必要ですから」とコメントした。
二駆?それとも「三駆」?
eKクロスEVは2WDとして登場した。では今後、4WDは視野に入っているのだろうか。実は「悩ましい」と藤井さん。「EVなので、かなり電子制御が効果を発揮して、それなりに雪道でも走れるものになっています。(社内の)人によっては“三駆”と呼んでもいいレベルだといっています。二駆と四駆の間で三駆。雪が積もった12%ぐらいの登坂路でも十分坂道発進も可能ですし、ガソリンモデルの二駆よりはかなり雪道も走れます」とその走破性の高さをアピール。しかし、「お客様にとってはやはり四駆じゃないとという方もいらっしゃいます。これはアイミーブでもありましたし、ガソリンモデルの『ミラージュ』などでもそういった声は多かったのも事実ですので、そうしたご要望にもカバーできるようなものにしたつもりです。ただ、やはり四駆を求める声はあるので、この先の検討の1つにはしていきたいですね」と検討課題であるとした。
その際の問題点は「航続距離とレイアウト」。当然、「荷室のスペースはもちろん、四駆にすると電気も消費しますし、四駆に乗られる方は地方が多く、走行距離も長いことが想定されます。そのバランスをどうお客様が満足するレベルにするか(が課題)」とのこと。「現在20kWhのバッテリーを搭載していますが、このままでは厳しい。ではあと5kWhぐらい電池を積もうとなれば、航続距離も200kmを超えると思いますので、そのぐらいのレベルであれば、なんとか目指したいなと思っています。しかしまだ厳しい。もう少し電池の性能も上げていかないといけないでしょう」とのことだった。
ただ、競合関係も踏まえると、「おそらくこれからコンパクトカーや軽のEVがどんどん増えてくるでしょう。当然、この軽自動車のプロジェクトで日産自動車と一緒に色々な話をする中で、四駆の話題挙がっています。おそらく各社が頭を悩ませているんじゃないかなと思いますね。我々は『ミニキャブMiEV』をやっていて、日本郵便にも導入してもらっていますが、(四駆の)要望は多いです。既に考え始めてはいますが、実現に向けて具体化していかないといけないという段階です」と将来的には導入される可能性が高いこと示唆した。
苦労したフロアレイアウト
ベースとなったeKクロスは軽自動車としての使いやすさを追求したクルマでもある。EV化することで何か困難はなかったのだろうか。「悩ましかったのが、フロアに電池を積むので、どうしてもレイアウト的にフロア位置が高くなってしまうことでした」と藤井さん。そこをできるだけ悪化させないようにレイアウト、パッケージングしていくかが苦労だったそうだ。
「日産は軽自動車を作った歴史はあまりなく、ましてや軽自動車のEVは初めてですので三菱の技術者もかなり入りました。基本コーポーネントに関してはアイミーブなどで培ったものをアライアンスの中に落とし込んで、日産の技術者とかなり議論を重ねて、いまの形になりました。その結果、フロア高は変わっていません。ただ荷室だけがガソリンの二駆と比べると40mm上がり、ガソリンの四駆モデルと同じ高さになりました。もちろん実用面でそれほどは大きな差にはなっていません」と、基本のフロア高やヒップポイントに変更はないことを強調した。
最後に藤井さんは、「我々がこのeKクロスEVを出したことで、EVは特別な存在ではなくなると思っています。EVの購入を視野に入れていなかった方も、一度見て乗っていただければ、きっと特別な存在ではないと感じていただけるでしょう。乗るといままでの軽自動車という概念が完全にガラッと変わると思います。そうしたうえで新たなEVをお客様の検討の一部に組み入れていただけると非常に嬉しいですね」と語った。