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過去のモチーフを現代のエンジニアリングで再現したフェアレディZ…東京オートサロン2022[デザイナーインタビュー]
日産は東京オートサロン2022において、新型『フェアレディZ』の日本市場向けモデルを公開した。そこで、改めてデザインの考え方、そしてコンセプトモデルとの違いについてデザイナーに話を聞いた。
◆悩んだ方向性
—-:歴代フェアレディZのモチーフを数多く取り入れた新型ですが、そもそもなぜ、その方向が取られたのでしょうか。
日産グローバルデザイン本部第二プロダクトデザイン部プログラム・デザイン・ダイレクターの入江慎一郎さん(以下敬称略):この新型Zを開発するにあたり、正直色々悩みました。新しさと、歴代が背負ってきた伝統的な“Zネス”みたいな部分を新しいこのZでどのように表現しようかと、色々と試行錯誤しました。そこで気付いたことは、Zのコアのファンの人たちは、ノスタルジーを非常に愛していたのです。それは彼らが所有してきたZ、もしくは彼らのお父さん、おじいちゃんが持っていたZに憧れて、いずれZを自分も所有したいというような部分があるのです。そこで、スポーツカーですからそういったコアのファンの人たちに向けて、モノ作りをしようと考えたのです。また、それが我々日産社員のZに込める熱意、情熱みたいなものと一致したこともあります。
通常デザイナーは古き物をぶっ壊し、新しきを作っていくものです。1回なかったことにしたいんですね。そして新しいものをデザインしていきたいんですけれど、新型Zのデザインのテーマは、過去のZの中にあるわけです。それはお客様が望んでいること。そのユーザーと我々作り手の思いがひとつになった時に、この新しいZのテーマが決まりました。それは伝統と最新のテクノロジーの融合だったのです。
ですからこれまでの色々なZのモチーフを使いながらも、現代のテクノロジーでないと出来ないデザインに仕立てようとしています。
—-:その現代のテクノロジーでないと出来ないデザインは、例えばどういうところですか。
入江:リアコンビランプのオーバル形状のモチーフはZ32に代表されるように、歴代使ってきています。また黒いベゼルの上にリアコンビランプが乗っているというテーマも同じなんですけれど、LEDを使いながら、しかもレイヤーで2重に見せるなどで、近未来的でモダンな処理で伝統を再現しています。まさに生まれ変わるというようなところです。
もうひとつ例を挙げるならば、ヘッドランプもそうです。初代Zにはアウターレンズがついていて、そこに映るリフレクションがあるんです。それも現代のテクノロジーで上下のシグネチャーランプにしたのが今回のZのヘッドランプなのです。
このように単純に過去のモチーフを採用するのではなく、現在のテクノロジーで新たに解釈して、デザインし直し、新しくしているのです。そのうえでかつてのZのエッセンスがふんだんに入っていますので、あくまでもフェアレディZにしか見えないのです。
◆ジャパニーズDNAも取り入れて
—-:フロントボンネット上にあるエンブレムはニッサンマークになっていますね。歴代はフェアレディZのエンブレムが多かったと思います。
入江:今回Cピラーに配したペットマークは初代Zとほぼ一緒で、取り付け位置も同じくらいです。ここにZマークをつけましたので、フロントはニッサンマークにしました。もちろん賛否両論ありましたし、特にユーザーからはZマークが欲しいという意見が多くでました。コアなファンの人たちからすると、Zマークの方が、馴染みがあるわけですね。しかしボディサイドの特徴的な同じ位置にZマークをつけましたので、フロントには日産マークをつけることで、あくまでも日産のフェアレディZだとしています。
—-:サイドのルーフラインにシルバーのキャラクターが入っていますが、これはどういうものでしょう。
入江:我々は“刀”と呼んでいます。日本刀ですね。そこからインスピレーションを得ています。実は唯一歴代にはない要素なんです。
新型フェアレディZは、ルーフが黒のツートンカラーが多くを占めています。そこでルーフラインに沿わせてマッドシルバーのアクセントを入れることによって、特徴的なフェアレディZのモチーフであるスロープダウンしている美しいルーフのシルエットを強調出来ますし。全高を低く感じさせることが出来ています。
—-:さらにこれがあることによってウインドウシルエットが見事にZに見えますね。また、ジャパニーズDNAも感じさせています。
入江:その通りですね。まあZ自体が、日本人の思想で作るスポーツカーというのが初代のフェアレディZから受けついだ魂なので、Zそのものが日本ともいえますね。
◆作り込みの違いよりも職人のぬくもり
—-:プロトタイプを最初に公開して、今回日本仕様車が公開になりました。そこでの違いはありますか。実はプロトタイプよりもまとまった感じを受けています。
入江:その質問は皆さんからいただくんですが、そのときに皆さんプロトの時よりも良くなったねっていわれるんですよ。通常、ショーカーっぽいプロトタイプの方が良くて、生産車になって残念だねという意見をもらうのがほとんどなんですが、今回は珍しく逆なんです(笑)。
でも実はほぼデザインはいじってないんです。これも皆さんびっくりされるんですが、ほとんど一緒です。もちろん例えばドア下の黒い部分がプロトではカーボンで出来ていたり、若干タイヤサイズが大きく、サイドウォールにホワイトレターが入っていました。また生産要件がないので、パーテングラインが少し少なかったりしていましたが、形自体はほぼ一緒です。
—-:ですが細かい作り込みが全然違うように見えますが。
入江:そこなんですよ。これは社内でも分析していたんですが、プロトタイプは一品物ですから、生産車よりも例えば面の平滑さとか、パーティングとパーティングの隙間はプロトタイプの方が良いんですね。一方市販車は実際にラインで流しているのですが、台数が少ないこともありますので、工場の人たちが1つ1つ丁寧に組んで作り上げて、磨いて、色を塗ってくれているんです。そこで人の温もりみたいなものが入ってるので、暖かく見えるし、より作り込まれたように見えるのではないかなと思っています。
—-:今回は職人さんの手が入るラインに流しているのですか。
入江:そうです。工場の人達には頭が下がるぐらい頑張っていただいて、無理をいっぱいいわせていただいています。
—-:このクルマを見て一番驚くのは古臭くない、いまの時代のフェアレディZに見えることです。
入江:懐かしくもあり、古臭くも見えないということですね。僕は30年近くクルマ作りをしていますが、初めてガレージに飾っておきたいと思ったクルマがこのフェアレディZなんです。あるときモデル場でクルマを何げなくリアスリークォーターから眺めていたんですが、ガレージに飾っておきたいかもって思った瞬間があったんです。それは長いデザイナー人生の中で初めての感覚でした。クルマ、特にスポーツカーは走ってなんぼじゃないですか。ですから飾っておきたいという感覚はありませんでしたので、そういう意味ではいままでにない仕上がりをそのときに感じていたのかもしれないですね。