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ドライバーの異常を検知してクルマを安全に停める、マツダ「CO-PILOT」に試乗してみた
◆いざというときにクルマを安全に停める「CO-PILOT」
事故を起こさずに運転寿命を全うしたい。クルマ好きなら誰もがそう思っているはずだ。しかし、高齢者に限らず、体調の急変は起こる。日本医科大学千葉北総病院救命救急センターの小田有哉医師は「交通事故の約3割に、ドライバーの意識低下が起きていた可能性がある(病気のほかに居眠りや飲酒を含む)」と、論文に書いている。
体力が落ちても運転をしなければいけない環境のなかで、事故を起こしても自分が傷つくだけならいい。けれど、他人は、しかも未来のある子どもたちは絶対に傷つけたくない。池袋での事故をはじめ、子どもたちが被害者になる事故の報道にふれるたびに、そう感じる人は多いと思う。
体調が急変したときに、ドライバーも周囲の人も守りたい。そうして開発されたのが、2022年から導入を予定しているマツダの「CO-PILOT 1.0(コ・パイロット)」である。いざというとき、高速道路だけでなく一般道でも車両を制御して止める。しかも高速道路では、より安全な路肩への退避も行う。
さらに、2025年以降の導入を視野に入れているCO-PILOT 2.0になると、体調不良の予兆まで検知し、一般道でも車線上より安全な場所へ退避させることを目指している。
車道上に止めれば二次事故の危険性が高い。ただ、一般道は地域によって環境が大きく異なり、安全な場所の定義がむずかしい。車線上以外に、人や物、自転車などを避けて安全に止められる場所を見つけるのは簡単なことではなく、対応できる技術開発、精度の向上が求められるところだ。
◆ドライバーの異常検知はちゃんとできるのか
今回、この「CO-PILOT CONCEPT」を搭載した車両の試乗機会を得た。びびりで新しいものに対して疑り深いおばちゃん性格の私としては、「クルマを止めなければならないほどのドライバーの異常検知ってちゃんとできるの?」「高速道路の本線上から路肩退避ってどうなの? まわりの車両にぶつからないの?」と、疑惑満々での試乗である。
問1:「ドライバーの異常検知ってできるの?」
結果=あっさり検知。そして、制御開始。ポイントは頭の位置だ。人は、意識を消失すると、がくりと前や横に頭がずれる。車内の後席や電車内で寝たとき、首が痛くて目が覚める経験をした人も多いはずだ。すると意識消失をを検知してすぐに制御が始まる。
プープー! という一定のリズムを刻んでクラクションが鳴り響くので、助手席や後席でうたたねをしている同乗者にもすぐにわかる。また、同時にハザードの点滅が開始するので、周囲の車両も異常に気付けるはずだ。
問2:「高速道路の本線上から路肩退避ってどうなの? まわりの車両にぶつからないの?」
結果=周囲の車両を検知し、隣の車線に車両がいて車線変更できなければちゃんと待つ。お世辞抜きに、怖いとか危ないという感覚はまったくない。
◆緊急時の車線変更は「ウィンカー」で大丈夫か?
ただ、ひとつだけ違和感があったのは、ドライバーの意識消失と同時にハザードランプが点滅するのだが、車線変更するときは、ウィンカーに切り替わってしまうことだ。道路交通法に「車線変更のときは、ウィンカーを点滅」とあるためである。しかし、緊急事態なのだ。ドライバーに意識がない状態で高速で移動しているのである。ハザードのほうが周囲への注意喚起効果は高いし、逆にウィンカーが正常に点滅されると周囲は「あら、ドライバー、大丈夫なんじゃない」と誤解しかねない。
ここは、警察庁の判断になるのだが、実態を把握して道交法の運用を考え、特例を認めるか道路交通法の改正を求めたいところだ。
こうした安全技術は、世の中に出てからどのように育てていくかが最も重要なところだと思う。技術者が開発するだけでなく、私たちユーザーも熟成させる一翼を担っている。技術の特性や使用方法、限界を理解して使ってよりよいものにしていきたいと思う。
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。最新刊は「世界でいちばん優しいロボット」(講談社)。