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自動運転路線バス実現のカギは…埼玉工業大学と深谷観光バスが語る

  • 《写真撮影 大野雅人》
  • 《画像提供 東京大学》
  • 《画像提供 東京大学》

地域課題の解決や、自動運転技術などの普及・促進にむけて、新技術をどう導入・実装するか、そのための産業・企業育成をどうすすめていくか……。そんな課題へのヒントを共有するオンラインセミナーを、東京大学生産技術研究所次世代モビリティ研究センターが開催した(9月24日)。

今回の東大生研ITSセミナーシリーズ38「ITSセミナー in 埼玉」~地域における新技術の導入・実装・育成~には、自動運転バスの実証実験車両や後付け自動運転システムを開発する埼玉工業大学、その埼工大保有の自動運転バスを期間限定で運行している深谷観光バスなどが参加し、最新トピックスや今後の課題解決にむけた計画・展望などを参加者たちと共有した。

◆後付け自動運転AIシステムで先行する埼玉工業大学

渋沢栄一生誕の地、埼玉県深谷市にキャンパスを構える埼玉工業大学は、福祉車両架装・改造で実績のある地元のミクニライフ&オート(埼玉県加須市)と協業し、日野『リエッセII』にジョイスティック運転装置を実装。

ハンドルやフットペダルを使わずに、片手で運転できる機構を組み込み、そこに埼玉工業大学が開発した接続マイコン、自動運転AI(AI Pilot / Autoware)を実装した。

この後付け自動運転AIバスは、2019年8月の登場からわずか8か月で、650kmを超える自動運転レベル3テスト走行を記録。この自動運転AIバスで培った後付け自動運転AIシステムを、こんどは日野『レインボーII』に搭載。

中型路線バスクラスのエリアで自動運転レベル2での営業運転(埼玉県スマートモビリティ実証 2020年度~)に投入し、深谷観光バスが現在も「渋沢栄一「論語の里」循環バス」として運行している。

◆世界初の水陸両用バス自動化をめざすプロジェクトにも応用

また、この埼玉工業大学 自動運転AIシステムは、地元埼玉県を飛び越え、群馬県の八ッ場ダムでも試され始めた。日本財団が主導する「水陸両用無人運転技術の開発~八ッ場スマートモビリティ~」事業だ。

同事業は、世界初の水陸両用バス自動化をめざすプロジェクトで、事業代表者はITコンサルティングのITbookホールディングス。コンソーシアムメンバーは、長野原町(水陸両用車保有・湖面管理)、日本水陸両用車協会(運行)、埼玉工業大学(自動運転技術)、エイビット(ローカル5G通信)が名を連ねる。

同事業の最終目的は、大型自動車運転免許と小型船舶免許2級以上を持つ運転手を抱えることなく、離島間の運送人件費が削減できることや、夜間運航などの稼働率向上などを想定。国内外の離島を多く抱える国・団体へ展開していく考えだ。

◆「楽しくておもしろい」産官学で機会損失回避、低コスト化、実施加速

今回の東大生研ITSセミナーシリーズ38「ITSセミナー in 埼玉」では、埼玉工業大学自動運転AIバス日野レインボーIIを預かり「渋沢栄一『論語の里』循環バス」として運行している深谷観光バス 高田勇三 代表取締役が、この自動運転バス運行プロジェクトについて「楽しくておもしろい」と伝え、こう続けた。

「われわれは、楽しくておもしろいというのが正直な気持ち。われわれのようなローカル企業で長期実証に取り組めたポイントは、自動運転バス車両をまるごと借り受けられたことで機会損失を逃れたこと、埼玉工業大学やミクニライフ&オートなど地元の産官学で取り組むことで運行・開発などにむけた設備を最小限におさえられること、大学教授や技術者と近い距離でコミュニケーションを図れることで時間も節約できスピーディーに判断できることなどがあげられる。次世代モビリティを実現させるには、所有からシェアへ、専用から供用へ、という考えがポイントなるのではと思っている」

◆事業者のやる気を引き出し、大学間連携やネットワーク拡充へ

同セミナー最後に、東京大学生産技術研究所ITSセンター 大口敬センター長・教授は、「新しいモビリティ・移動体を開発するなかで、実証実験レベルから事業化へと結実させるためには、試作機で終わらせないという気持ちで取り組む自動車メーカー以外の産官学の取り組みを実感した」と伝え、こう付け加えた。

「新たなモビリティを実現させていくうえで、新たなサービスも創出しなければならない。今回、深谷観光バスの高田代表から、『プロジェクトが楽しくておもしろい』という言葉があったように、そういう思いのある地域輸送事業者がいることが心強い」

「こうした事業者のやる気を引き出しながら、道路環境や交通信号システム、法律・規制なども整えていく必要がある。また、道路交通法や道路運送車両法などが改正される動きを止めてはいけないとも思っている。今後、大学間の連携も含めて、ネットワークを拡充していきたい」

今回の東大生研ITSセミナーシリーズ38「ITSセミナー in 埼玉」の登壇者は、先出のほかに、東京大学生産技術研究所ITSセンターの須田義大教授、同じく中野公彦副センター長・教授、東京大学の鈴木彰一准教授、東京理科大学の和田正義教授、ミクニライフ&オート技術・品質部技術課の斎藤征道課長、埼玉工業大学の内山俊一学長、同じく渡部大志教授、シブサワ・アンド・カンパニーの渋澤健代表取締役、ITbookホールディングス経営企画室の大久保達真室長、埼玉県産業労働部先端産業課の斉藤豊課長、国土交通省大宮国道事務所の阿部俊彦所長ら。