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リアフェンダー周りは光と影を演出…ボルボ V60 新型[デザイナーインタビュー]
ボルボ・カー・ジャパンから発売されたミッドサイズステーションワゴンの『V60』は、最新のボルボデザインをまといながら、『V70』のユーザーの代替え車種という位置付けや、『V90』との差別化などいくつものデザインのポイントがある。そこでデザインの担当者に話を聞いた。
◆よりドライバーオリエンテッドなクルマに
インタビューに答えてくれたのは、ボルボ・カーズ・USAデザイン部門シニアディレクターのT.ジョン・メイヤー氏だ。氏の経歴は2006年にアメリカのフォード社に入社したところからスタート。2011年にボルボに入社し、2013年の『コンセプトクーペ』、『コンセプトエステート』などのエクステリアデザインを担当。今回登場したV60やまもなく日本にも導入が噂される『S60』、そして『V60クロスカントリー』、『ポールスター1』のデザインマネージャーとして主にエクステリアデザインを担当した。
—-:早速ですが、V60をフルモデルチェンジするにあたり、最も重要視したことは何だったのでしょう。
T.ジョン・メイヤー氏(以下敬称略):それは軽快な印象を持たせたいということでした。そこでスリムなボディ、ガラスエリアを大きくとるようなデザインとしています。その結果すっきりとしたクリーンなデザインに仕上がっていますし、同時に塊感も持たせています。
またリア周りの角度によって実用性も強調しています。全体としてはドライバーオリエンテッドなクルマに見えているでしょう。
—-:ドライバーオリエンテッドの方向を目指したのは先代のV60が実現し得なかったからこそ、今回のクルマで目指したのでしょうか。
メイヤー:そうではありません。より先進的なプラットフォームを手に入れたということです。その結果、ハンドリング性も乗り心地もさらに良くなりました。またシートポジションも低く抑えられましたので、デザインも含めて、よりドライバーオリエンテッドなクルマに仕上げたということです。
例えば先代V60と比較をするとウインドウグラフィックがより大きくなっています。先ほどお話をした通り、軽快感を目的としてはいますが、同時に、視認性が高いという効果も得ています。実用性もより高まっていますので、例えばトランクルームは前と比べて100リットル余分に入るようになっています。
◆V90と大きく違うのはリア
—-:実は写真で見たときにはV90と大きく変わったところのないクルマだという印象を受けたのですが、実際に見ると近年のボルボのデザインフィロソフィを取り入れつつ、軽快でボディサイズにあったデザインに仕上がっていると思いました。そこで今回このデザインを成立させるために、V90と明確に差別化しなければならないと考えたところはどこでしょうか。
メイヤー:明らかにV90と違うところはリア周りです。この傾斜角がより立っているのがV60なのです。これは先代のV60とともに、V70の代替え車という位置付けを持っているからです。これが実用性といっているところなのです。
もうひとつはサイドから見たときに、V60の場合にはヘッドライトからBピラーまでのライン、そしてリアホイールから始まる筋肉の盛り上がりのように描かれているラインの2つがあります。
特にリアクォーターを見ると、リアフェンダー周りの筋肉が盛り上がっているような男性的なこのクルマの魅力が見えてきます。そこには光と影の陰影により水溜りのような大きな楕円が描かれその美しさが強調されています。実際にクルマのボディは光を反射するのでそのときの美しさまでをこだわってデザインしました。これは私が特に大事にしている、またこだわったエクステリアデザインなのです。そこにこのキャラクターラインは大事な働きをしているのです。
一方V90の場合には上下に2本の長めのラインを持たせており、途中で途切れていません。そうることで、V60の場合は特にリア周りに塊感を感じさせスポーティに見せており、V90の場合は伸びやかさを強調しているのです。
また、V60に持たせた2つのキャラクターラインは、コンセプトエステートや『1800ES』から歴史的なインスピレーションを得てデザインされています。
◆過去を参考にしながらモダンなデザインに
—-:ボルボのデザインでは『P1800』や1800ESをデザインモチーフに使われているケースが多いようですが、なぜこのクルマたちを取り上げるのですか。
メイヤー:我々が新しい世代のデザインとういうことで始めたのが2013年で、これがコンセプトクーペでした。そこでまさにアイコン的デザインとして、そしてボルボのヘリテージとなる位置付けとしてP1800をモチーフとしたのです。そこでボルボとしての大きな差別化できる特徴を出そうと、P1800をモチーフとしたキャラクターラインを使うようにしました。私は、このコンセプトクーペ、そしてコンセプトエステートのデザインに関わっていますので、その流れとして新たなV60にも取り入れようというとしたのです。
つまりデザインはレトロということではなく、過去を参考にしながらモダンなデザインに取り入れていくということなのです。
—-:そうすると、ボルボのヘリテージを引き継いだ新しいクルマだということを強調したいという考えがベースとしてあるのですか。
メイヤー:そういうことです。我々は歴史的遺産を持っていますので、そのいくつかの部分を言語として次の世代のモデルに取り入れていこうという試みなのです。常に過去を振り返るということではないのですが、コンセプトエステートはまさにモダンなコンセプトであり、そのモチーフは1800ES。そこを引き継いでV60が完成しているのです。
◆兄貴分のV90、弟分のV60
—-:話をV90とV60に戻します。この2台を同じボルボと見せながら、明確な差別化をしなければいけないのですが、その苦労とはどういうものだったのでしょう。
メイヤー:そこがまさに最大のチャレンジでした。先ほどお話をしたリア周りとは別に、ヘッドライトのところが大きく違います。このTシェイプヘッドランプは、北欧神話に出てくるトールハンマーをイメージしているもので、これは現在のボルボのアイコンとしても知られています。将来の我々のボルボにおいても若干の修正を加えながら“深化”させていきたいと考えています。
さて、V60の場合にはトールハンマーによって3つのパートに分けながらその柄のところがフロントグリル側に突き出している形状になっています。ちょうど人間の目をなぞらえ、目頭を意識したようなものです。“兄貴分”のV90の場合にはヘッドライトの形状は違っており、ヘッドライトの中にトールハンマーが収まる形になっています。これによって成熟度のある大人というイメージを醸し出しています。
一方の“弟分”のV60の場合には若向きで機能性が感じられるような顔が必要ですからこのように変更をしています。つまり両方とも持っている遺伝子は同じなのですが、若干要素を変えているのです。
特にV60の場合はダイナミックで車高の低い、ドライバーオリエンテッドなクルマをイメージしていますので、バンパーもV90の水平基調から、地に足がついているような、しっかりと地面を踏みしめるような形状をエアインテークに持たせています。
◆自動車とアートと数学が好きな子供だった
—-:少しメイヤーさん自身のことを教えてください。なぜカーデザイナーになったのですか。
メイヤー:子供の頃にクルマの絵を描くことが大好きでしたし、またアートも大好きだったのです。その頃は建築家になるのかなと思っていました。しかし後にインダストリアルデザインに巡り会い、その学校に行き、プロダクトデザインやインダストリアルデザインの勉強をしました。実際にその学校に行っていたときにクルマのデザインをしたいと強く思ったのです。特にクルマのデザインや設計というのはとても専門性のあるものです。実は子供の頃には、自動車とアートとともに数学も好きだったんですよ。その好きなもの全てが組み合わされると思ったのです。
—-:子供の頃はどういうクルマが好きだったのですか。
メイヤー:ポルシェ『911』です。造形的な塊感があり、そしてユニークなシルエットでシンプルなデザインですよね。そしてアイコニックさも重要です。それら全てを兼ね備えているのが911なのです。