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【インフィニティ QX60 新型】インストルメントパネルをどれだけ薄く見せるか…デザイナー[インタビュー]
日産はインフィニティ『QX60』をフルモデルチェンジ。ベースとなったデザインは先に発表された『QX60モノグラフ』で、エクステリアはほぼそのまま、インテリアは今回初公開された。そこで、インテリアをメインにデザイナーに詳細を語ってもらった。
◆リッチネスとインフィニティらしさ
—-:早速ですが、インテリアのデザインコンセプトから教えてください。
インフィニティ グローバルデザイン担当シニア・デザイン・ダイレクターの中村泰介さん(以下敬称略):クラスを超えたリッチネスと、インフィニティらしいドライビングの感じをいかにコックピットで表現するかです。それから、ファミリーSUVなのでどれだけ2列目と3列目にフロントシートとなるべく近しいコンフォートとクオリティ表現が出来るかということに注力しました。
大きくは、ユニークなインストルメントパネルのデザインが特徴です。薄型ベントで上下に分かれたところや、非常に大きなステップ(段差)を上手く使い、ライティングとセットしてオープンポアウッドを入れつつ、なるべく断面を薄く見せるような工夫をしています。その断面とはシートに座った時の全体に見たイメージで、どれだけ自分の前にあるものが薄く軽く見えるかをポイントにしました。なおかつ一番広い部分に非常にユニークなキルティングを仕込んで、触るところをなるべくリッチに仕立てていくところに気を使っています。
また、ハイテクとオーセンティックなクラフトマンシップをどうやって融合させていくかも重要です。そのひとつの方法として、タッチスイッチを使ってなるべくフィジカルボタンを減らしています。なおかついつも使うような温度調整などはダイヤルのフィジカルなものを採用しました。その他のものは全部大きなモニターの中に統合し、使い勝手と見た目のシンプルさを上手くバランスさせています。
◆機能とインフィニティらしさと
—-:いまお話に出たインフィニティらしさとは何ですか。
中村:機能をいかにアーティスティックに見せるかです。機能一辺倒、機能的で高いパフォーマンスに見えるデザインはたくさんあります。そうではなく、もっとコンフォートや、極端にいうとクルマではなくリビングルームみたいなデザインもあると思うのです。インフィニティでは自分で乗ってきちんとドライビングプレッシャーは感じられる。なおかつ仕立て方が他とは違い、そこに“間”の取り方などの日本の要素なども入ってくる。そういうところにチャレンジしているのがインフィニティらしさです。
—-:インフィニティらしさや間の取り方が一番表現出来ているのはどこでしょう。
中村:まず、座ってみるとわかると思うのですが、自分の目の前の部分が割とすっきりとして、圧迫感がない表現にしつつも、骨格はしっかりリジットに見えるようにしています。アーキテクチャーとしてしっかり作られているセンターコンソールもそうですし、インパネもそうです。そのコンソールもバイワイヤーのシフトを使っていますので、下に大きな空間が出来ていて、物入れという機能もあり、空間をなるべく広く、風通しよく見せるというところにも貢献しているディテールでもあります。
アシスタント側に座ると(広々として)ちょっと嬉しく感じてもらえるでしょうし、ドライバー側はまた違った景色が見えていて、スポーティに感じます。左右非対称に作っているセンターコンソールや、パーパスフルにいろんな面がドライバー側に向いているので、ドライバーセントリックに仕立てています。
加飾の使い方ですが、ラグジュアリーの捉え方は色々ありますが、その中でもなるべくデコレーション的なエレガントさは減らしつつ、どうやってリッチに機能的に仕立てるかが難しいところでした。今回そういった意味でシルバーの使い方は控えめにしています。極力使う場所は絞り、ドアハンドル、BOSEのスピーカーグリルなど場所を限定して、なおかつフロントのインパネは、メインの水平線のところにだけ細く入れていますので、少ない量なのですが効果的に使っています。またメインのところは上側には入れていません。その代わり、上側から皮がかぶっているようなイメージを表現にしています。そうすることであまりシルバーが主張しないようにしているのです。
◆こだわりのセンターコンソール
—-:他にインテリアでのこだわりはどういったところでしょうか。
中村:センターコンソールですが非常に幅が広くて色々な機能があります。ドライバー側にある“島”の部分は、ドライビングに関係した機能を全部集中させました。その前の方にあるのが携帯電話のチャージャー。その後ろにカップホルダーが配されています。これほどたくさんの機能があるのですが、なるべく複雑に見えないようにまとめました。ベースの考えは、場所を無駄にしないように上手くクレバーに使っていくということです。
細かいディテールでのこだわりですが、実は“印傳”のようなパターンを使いました。多分知っている人しかわからないでしょうが、そういうところに少し滲み出るジャパニーズDNA、アンダーステートメントなイメージで表現しています。そういうところにもこだわりがあります。
もうひとつ、セカンドシートもリッチに仕立てています。ベンチシートとキャプテンシートの仕様がありますが、展示車はオートグラフというグレードで、左右に分かれているキャプテンシートを採用しました。真ん中にセンターコンソールがあり、非常にパーソナルな感じで、フロントシートと機能としては違いますが、基本的な仕立ては同じにしています。
◆QX60モノグラフとの違いはほぼない
—-:エクステリアについても教えてください。コンセプトモデルの『QX60モノグラフ』と比較して、ボディが小さく感じるのですが。
中村:実際にQX60モノグラフよりも少し小さいのです。QX60モノグラフは基本的なテーマは同じですが、例えばフェンダーなども含めたボディの抑揚部分を強調しているのです。それ以外はキャビンの面なども含めて全部一緒です。
—-:サイドウィンドウ周りをメッキで囲って、後端に特徴的な造形をしていますね。
中村:まず大きく見えるキャビンがコンセプトですので、なるべくパノラミックなウィンドウを作ろうというのが最初のスタートでした。ルーミネスは一番のユニークセリングポイントですが、あまり四角いボクシーなクルマを作るつもりはありませんでした。インフィニティらしい、いわゆる走り感だとかパフォーマンス表現ということで、ストリームラインでアッパーキャビンのシルエットを作る中で、クロームも強調できるテーマだと考えました。基本的にはルーフラインと平行にDLO(デーライトオープニング、ガラスの開口部)のモールとして入れると同時に、水平なベルトラインを強調する意味もあります。細いクロームで本来やりたかったテーマを強調するという効果を持たせているのです。
後ろの処理ですが、全部くるっと回すなどのいろいろな手法がありますが、流れを表現する上でどこかで止めた方がいいだろうと思い、Dピラーあたりで上の方と下の方をお互い上下のセットで“止め”を表現しています。
細かいこだわりですが、エンボスでテールランプやヘッドランプにもインフィニティマークが入っており、ライトがつくとわかります。こういったちょっとうれしいディテールを入れたいと思い、インテリアでも少しそういうところを用いています。普通はそういうこだわりはあまりやらないのですが、ちょっとした遊び心があってもいいのではないかと思って入れました。
◆室内のルーミーさを強調しつつなるべくコンパクトに
—-:今回デザインする上で苦労した点はどういうところでしょう。
インフィニティ事業本部商品戦略・企画部所長のエリック・リゴーさん:さらに良いクルマを作るということでした。パッケージの観点からいうと先代モデルはひとつの指標になるような存在でしたが、デザインの観点からは飛躍するということが一番の課題でした。
中村:ホイールベースは先代と同じですが、それに対して全部のオーバーハングを少しずつ詰めています。全高全幅は若干広がっています。この理由は基本的には全体のプロポーションでしっかりタイヤが四隅にあって路面に設置している感じを出すためです。そのうえで、取り回しの良さや非常にルーミー差を強調しつつ、なるべくコンパクトに作るということもやっています。
—-:先代が成功するとキープコンセプトになりがちで難しいと思うのですがいかがですか。
中村:最初のモデルがローンチしたのが2012年で、結構時間が経過しています。そのあいだにデザインもどんどんモダンになって進化しているわけです。そこでインフィニティが持っている雰囲気やトーンはキープしつつ、出来るだけテーマを新しい時代に合ったものにしていくことを一生懸命やりました。そこが一番難しかったところでもあります。
SUVとしてのスタンスやクルマとしての強さみたいなものを出しつつ、それをいかにパワフルでアーティスティックに表現するかがインフィニティのポイントなので、それはエクステリアだけではなくインテリアのテイラーの仕方でも一貫したコンセプトで表現していきました。