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【ホンダ シビック 新型】インテリアで「爽快な朝」を表現したかった…インテリアデザイナー[インタビュー]
ホンダから11代目となる新型『シビック』がお披露目された。そのインテリアは「爽やかな朝」をイメージしてデザインされたという。その意図やデザインのポイントなどをインテリアデザイナーに話を聞いた。
インタビューに応えてくれたのは、本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ アシスタントチーフデザイナーの小川泰範氏。
◆ファインモーニングがインテリアのコンセプト
—-:小川さんはこれまでどんなクルマのデザインに携わってこられたのですか。
小川泰範氏(以下敬称略):11代目シビックの前までは、アメリカのスタジオに駐在していて、そこで『USオデッセイ』を担当しました。それ以前では先代『CR-V』などです。先行開発のアドバンス系のスタジオにもいた経験がありますが、個人的には量産車をやりたいと思っていましたので、色々希望を出して、アメリカに行きました。向こうの市場などについても実際に自分で運転してわかったことが多くありましたので、それが結果としてこのシビックにつながっています。
—-:このシビックのインテリアを担当することが決まった時、まずどう思いましたか。
小川:正直な話、荷が重いなと(笑)。特に機種をまとめるPL業務、量産車のPLは初めてでした。『アコード』、シビック、CR-Vはグローバルで展開していて、それぞれの(市場の)声もありますし、特にシビックの場合は歴史もあります。本当の話なのですが「嫌です」と一度断りました。そうしたらその嫌ですが「駄目です」と帰って来ちゃいました(笑)。
—-:実際にシビックのインテリアを担当する、となった時にどのように仕上げていきたいと考えましたか。
小川:「ファインモーニング」です。大上段にある「爽快」というキーワードを皆で作った時に、爽快なインテリアってどうしたら出来るんだろうと考え始めまして、例えば時間で切ったらどうなるかと思い至りました。爽やかな朝、気持ちいい朝が迎えられたら一日中気持ち良いよねと。
一日そのまま気持ち良くいようというのは難しいですが、朝に注目すると、それが達成出来るのではないか。そこで実際に若いデザインメンバーを含めて北米に家を借りて、気持ち良い朝とはなんだろうみたいなリサーチをしました。そこで出てきたのが3つのキーワード「清潔性」、「リズム」、「刺激」です。
当たり前の話ではありますが、朝、心地よい光が窓から差し込んでくるのは、とても気持ちが良いですよね。でも、そこで部屋が散らかっていると嫌ですよね。それであれば大容量の収納が必要でしょう。また、朝忙しい時に、あ、ここにあったはずのものがないとか、忘れたっていうのはすごくストレスになりますので、自分が思った通りに操作出来ること、つまり感じたままに自然に手が動くようにしたい。人間の体の動き方は決まっているので、その中で一番良いリズムって何だろうと想像していきました。
刺激では、朝、目覚めなければいけませんので、そのモードを切り替える為に、ちょっとした刺激が欲しい。しかしそれは電気ショックビリビリみたいなものではなく、朝のコーヒーの香りみたいな、ピリッとした刺激がインテリアで実現出来ないかということを行っていきました。ですので、この言葉や、やりたいことが見つかった瞬間に、実はすごく開発が簡単になったようにも思います。それを達成するためにはどうすればいいかとブレイクダウンしていった感じです。
◆奇抜さは一切狙っていない
—-:実際に座ってみると、デザインがこれまでとはガラッと変わったと感じます。これはなぜでしょう。
小川:純粋に掲げたコンセプトを体現しようということを、かたくなに行ったのが一番大きいと思います。もちろん僕も先代のシビックの時代からデザイナーをしていますし、その時の時流や、狙っているお客様、その環境に合わせたベストな人中心の考え方で出来ています。今回、爽やかで気持ち良い朝、そしてちょっとした特別感を、華美ではなく、自分の心が満足するような特別感を狙った時に、まず視界が良くないといけません。そうすると邪魔な線の窓映りはだめですので、インパネの上面をツルツルにしました。
実はデザイナーとしてはこれを絵で表現すると、すごく怖いんです、不安になる。線を入れると分かりやすくて「シャキッとさせた」とか言えるのですが、それをぐっとこらえて、それを禁じ手にして、ちゃんと評価してもらえるように、こういうコンセプトでここが目標なのでこうしましたと、皆で一緒になってやっていきました。それでも作っている間はずっと不安でした。しかし、形になり、実際にクレイモデルを作って、自分たちで座ったときに、間違ってなかったというのがわかりました。それでも実際に完成してお客様がどう感じられるかはやはり不安です。
—-:インテリアでは爽快さということで、広々感なども意識されているように見えます。これまでのシビックを含めたホンダのクルマは、どちらかというとドライバーオリエンテッド、パネル類もちょっとドライバーに向けたくなるとか、ちょっと囲まれ感を作りたいという方向があったようにも思います。そこから脱却したのはすごく勇気があることで、ここまで爽快さという一言だけで突き進めたというのはどういうモチベーションだったのでしょうか。
小川:すごく難しいのですが、今回奇抜さは一切狙っていません。今回のターゲットユーザーはそういったことを求めていませんので、まずはそこを先に決めていました。当たり前のことをちゃんと当たり前にやろう、それを一歩でも二歩でも進めることが、ちゃんとしたデザインになる。そういうのを評価してくれるのが、今回のお客様だと捉えているのです。
—-:今回のターゲットユーザー、つまりジェネレーションZの方々(1990年代半ばから2000年代前半に生まれた、生まれながらにしてインターネット環境で育った人たち)ということですね。
小川:はい。ジェネレーションZのような方々は、本質がないといくら表層だけやっても伝わりません。捻るもの、引くもの、押すもの、それぞれに適した形があります。これは、本当はデザインでいうと当たり前のことなのです。それをちゃんと全部やりきったうえで、そのやりきった姿をいかにも美しく質感高く見せるかに注力しています。例えば金属でも何種類か作り方があります。切削で作るのか、鋳物で作るのかなどです。そこで切削で作った時には、それでしか出来ない形にしないと、金属っぽく見えません。このようにどうすれば表面のマテリアルと、その製法、使い方がマッチするのかを真剣に考えて、それぞれ一個一個作り込んでいます。
これはシートにも表れています。「LX」と「EX」で実は肩周りの形状が違っているのです。体をサポートする部分の断面や形状は一緒なのですが、布にあう形になると、やはりパリッと糊のきいたシーツやシャツのイメージの方が高そうであったり上質に見えたりします。それと同じ形で革をはってしまうと、急に安っぽく見えてしまうのです。そこで、革はおおらかな面が合うので、肩周りのところでの形を変えました。形状とマテリアルの一貫性という視点では、固いものは固く見せなければいけませんし、人をちゃんと受け止めてくれるところはそういう断面にしなければいけません。そういうところを今回はやっていきました。
—-:かなり細かいところにも気を使っている。開発は実際にどのように進められたのですか?
小川:実は今回、面白い開発の仕方をしていて、開発の初期段階から、栃木の敷地内で実際に走るクルマに色々貼りものをして、どういった視界が良いんだろうというボリュームの骨格の検証や、HMIの高さの検証を動的に行っていきました。そこで気付いたのは、低くすれば低くするほど爽快ではあるのですが、やりすぎると、ある一点を越えた瞬間に落っこちそうとか怖いと思ってしまうのです。そこにならないギリギリはどこだろうというポイントを、ちゃんと走る環境下で決めていきました。
一方でディテールは、最近は3Dプリンティングが出来るので、自分たちでデータを書いて、そのものの大きさやセレーションの大きさを変えたものを別で作って、どうなったら一番価値観があって、正しい作り方、本物に見えるかというのを、並行しながらやっていきました。こういったやり方はいままでの開発の中では実はなかったのです。
◆アウトレットがなぜあんなに偉そうにしているのか意味がわからなかった
—-:その結果、タッチパネル操作のために「指かけ」が出来るようになったのですね。
小川:そうです。指かけでいいますと、開発の途中で話が出てきて、設計者から「ここに指をおかないと駄目です」といわれました。しかし20mmというスペースはインテリアのデザインでいうと、結構な数字なので、そんな段差を作ったら格好悪くなるから本当に止めてほしいといい続けていたんです。しかし、実際に実車に乗ってくれといわれて乗って触ってみたら、使いやすいですねと(笑)。あとはこれをどうやってまとめるかは僕らの仕事ですから、やりますよということで受け取りデザインとして仕上げていきました。
爽快でいうとエクステリアでも、パッケージングのところで一緒にならなければいけませんし、設計者も同じような考え方で、一緒にやってくれましたので、良い意味で“いつものバトル”はあるものの、ゴールに向かってみんな同じ方向を向いていましたので良い結果に結びついたと思います。
—-:爽快さを意識して、横基調をすごく重視したインテリアになっていると思うのですが、そのあたりのこだわりを教えてください。
小川:純粋に広く見えるという視覚的な効果もあるのですが、運転中にどっちにロールしているかなど、クルマの挙動がはっきりわかるというのは大事だと考えています。例えば一本走っている(ドアのインナーパネル上の)線も、ちゃんとクルマが水平かどうかがわかるように入れています。今回上級グレードで入っているフロント側のアンビエントライトも、価値向上と同時に、夜間でもちゃんと水平だということや車幅感が、運転しながら目の邪魔をしない範囲できっちりわかることで、運転しやすいという効果を狙っています。
—-:シルバーの加飾を思い切り横に伸ばしていますが、これは普通やりたがらないと思うんですね。しかしあえてトライしているのはなぜでしょう。これが今回のデザインのアイキャッチであり、インテリアのトピックだと思うのですが。
小川:そうですね。半分は僕の個人的な思いもあるのですが、入社以来感じていることなのですが、エアコンのアウトレットがインパネの中でなぜあんなに偉そうにしているのか、全然意味が分からないんです。昔の電車は扇風機がついていましたよね。どうしてもアウトレットの中身があれに見えるんです。僕らからしたら、ただ涼しさが欲しいだけなのに、なんであんなに立派なフィンがいつも回っているのかが、ちょっと嫌だなと思っていました。例えば屋内のインテリアを見るとこういったものはみんな目に見えないところに隠れています。
北米にリサーチに行ったり、僕も住んでいましたので経験上分かるのですが、朝の強い光は低い角度で入って来るのです。そうするとエアアウトレットの中の“臓物”が、あからさまに見えてきて、凄くガッカリ感があるのです。それをまず隠したい。すると今度は長手で隠したものだから、強度を出すためにメタルじゃないともたなくなってしまいました。そこでもうこれはオーディオや、家のリビングにあるような価値観のあるものをもとに考えを置き換えていかないとだめだと考えた結果の形状です。
実はパンチングメタルの色もかなりこだわりました。どうしても奥にある臓物が目に見えてしまうので、ちょっとだけ明るい色にすることで、視線が手前に行きます。そうすることでそこをコントロールしました。実際に、通常と同じように快適なものを作って、外の光の中で何枚か色を当てて、チューニングしながらトーンを決めていったのです。
—-:CMF(Color・Material・Finishの担当)の方は大変でしたね。
小川:インテリアで形を作って、CMFにパスをするというのが通常の流れです。CMFはそれにベストな仕様を当ててくれていたのですが、形状とマテリアルは一致してないとおかしいと思うのです。シビックのインパネの周りを囲んでいるピアノブラックがありますが、そもそもピアノブラックは何がもとかというと、黒曜石など石みたいな表現をしたいがための色なのです。そうすると、ある程度固く見えないと嘘っぽい。ぐにゃぐにゃしたピアノブラックはおかしいので、ここはピアノブラックを使うと決めた時点で、どんな断面がベストなのか、クレイで削ってもらって、上からフィルムを貼って、なんか丸いねとか、ちょっと平たいねというのを繰り返して仕上げていきました。
◆ハニカムの理由
—-:ところで、エアコンのダクトを見るとハニカム基調になっていますね。
小川:これはいくつか理由があるのですが、エクステリアでもグリルでハニカムのパターンを使っていますので、連動性をもたせてひとつのクルマだと表現したかったことがあります。それから、ハニカムは構造的に安定していて、しっかりして見えるということもあります。クルマとして信頼が出来るということもこのパターンにした理由です。本音の本音でいうと、開口率で、穴を塞ぎすぎない方がエアコンとしては良いので、その兼ね合いもありました。
—-:風の出方として影響はそれほどないのですか。
小川:多少はあるんですけれど、逆にこのメッシュがあることで、多少風が拡散するのです。その結果心地の良い風になりました。実は予期してなかったことなのですが、出来てみたらこのパターンじゃないと、この風になりませんでした。
—-:CMF関連でこだわりがあるそうですが。
小川:はい、CMFとしては、センターコンソール周りに上級グレードでは光沢感がありつつ、表面に細かい柄が入っているパターンを採用しています。実は、これは塗装もフィルムも使っていない、材着で表現をしているのです。つまり、環境も配慮しているのです。塗装するということは、有害な部分もありますので、僅かではありますが、そういうトライもしています。
こういったことはただ単にコストを下げて価値観を上げたいというよりは、例えばここにピアノブラックを使うと指紋や、傷もついてしまいます。アウトレットみたいな、なかなか触らないようなところであれば大丈夫なのですが、カップホルダーはどうしてもぶつけたり、スイッチパネルだと爪で引っ掻いたりしますので、表面に細かいつぶつぶを入れることで、スクラッチに対してもタフネスになります。そういった配慮をしながら価値観を出すようにしています。