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【ホンダ シビック 新型】“爽快”ではなく“Sokai”、新型のデザインは何を目指したのか…エクステリアデザイナー[インタビュー]
11代目ホンダ『シビック』のエクステリアは、ターゲットユーザーが求める価値にピタリと合うようにデザインされており、これは歴代シビックが持つキャラクターであるという。「シビックのキャラクター」とは何なのか、そして新型のデザインのねらいとは。エクステリアデザイナーに詳しく話を聞いた。
インタビューに応えてくれたのは、本田技術研究所 デザインセンター オートモービルデザイン開発室 プロダクトデザインスタジオ アシスタントチーフエンジニアデザイナーの浅野一麿氏。
◆まずは50年の歴史を振り返った
—-:初めに伺いたいのですが、グローバルモデルとして、またホンダとして大きな柱にもなるシビックのエクステリアデザインを担当すると決まった時、正直、どのようなお気持ちでしたか。
浅野一麿氏(以下敬称略):正直かなり重たい…と(笑)。これだけ歴史のあるクルマですし、販売台数もすごい(編集部注:2020年時点で世界累計2700万台以上を販売)。その11代目を担当するということは、エクステリアデザイナーとしては嬉しいという反面、どのようにまとめていこうかという気持ちでした。
—-:そこでどのようにまとめていこうと考えたのでしょう。
浅野:実際に具体的な形に入る前に、シビックはおよそ50年にもわたる歴史がありますから、どのような形で作られて来たのかということを凄く考えました。
—-:では最初に振り返りをやったということですか。
浅野:そうです。シビックの特徴として、実際の形を見てここが同じとか、そういうところはないのです。他車では「Cピラーを継承している」などの例がありますが、造形として継承しているものというのがほとんどないのです。ただし、シビックのキャラクターをずっと見ていくと、お客様のその時その時の価値にぴったり合わせているように考えて作ってきていると感じました。そこがシビックのキャラクターで、あくまでもお客様に対してどういうデザインがそのタイミングで一番良いのか、ということをデザイナーが考えて提案していると思いました。
—-:そうすると今回の11代目シビックのキャラクターも、ターゲットとなるジェネレーションZとその先行層が好むであろうデザインに絞って進めてきたということですね。
浅野:そうすべきと思ってやってきたつもりです。
—-:これまでのシビックのユーザー層と比べると、ジェネレーションZ(1990年代半ばから2000年代前半に生まれた、生まれながらにしてインターネット環境で育った人たち)はかなり若返っているように感じますが。
浅野:はい。いまのデザインに対して、さらにもうひと世代、若い世代に向けてデザインしたつもりです。
—-:具体的にはどのようにエクステリアデザインに表現されているのでしょうか。
浅野:先代はどちらかというとジェネレーションYの世代(1980年代前半から1990年代中頃までに生まれた世代)をターゲットにしたようなデザインでした。一方のジェネレーションZは、すごく特別感がありながらも、親しみやすくて、使い勝手が良くて、本質的なものを選ぶ世代だと考えています。彼らの使っているようなものを色々見ていくと、すごくものが主張して、これを持っているんだ!というような、例えば時計や靴のブランドを見せていくような、そういう世界ではなく、本当に自分が美しくて、良いものだと思うものをチョイスするように変わってきているのです。そういう彼らの生活にすっと綺麗に溶け込むようなデザインというのは、どういうものが良いのかという観点でデザインしていきました。
—-:そのときにクルマに限らず、参考にしたものやイメージしたものはありますか。
浅野:時計を例に挙げれば、いかにもブランドが分かりやすいものがありますよね。でもそういう世界ではなく、凄くシンプルでカチッと出来ていて綺麗だけれど、すごく高いものを選んでいるわけでもなく。単純に「シンプルなデザインが良いよね」という観点で身に着けている。彼らの生活を見ていると、ブランドにこだわらずに、いろんな情報から知識を持ったうえで、良いモノをきちんとチョイスしていく人たちなのではないかなと思っています。
◆一筆書きフォルムの「Sokaiエクステリア」
—-:そういったターゲットユーザーに向けて、新型シビックのエクステリアデザインコンセプトはどのように考えていったのでしょうか。
浅野:グランドコンセプトである「爽快シビック」という全体像に対して、違うコンセプトを立てるべきなのかはいろいろ考えました。しかし、グランドコンセプトの世界観とはクルマ全体、エクステリアだけではなく、インテリア、走りなどすべてに向けたものですから、エクステリアも「Sokaiエクステリア」として、皆と気持ち良く方向を揃えたいと考えました。
—-:なぜローマ字なのですか。
浅野:「爽快」という言葉は、日本ですとパッとイメージが伝わるのですが、グローバルで発信しようとすると翻訳してもなかなか伝わらなかったのです。日本人が持つ爽快なイメージそのままの印象をグローバルの皆さんに知ってもらいたいと、あえてローマ字で表現しました。
—-:その爽快さを一番表現出来ているのはどのあたりですか。
浅野:一番こだわったのは外から見たキャビンのデザインです。爽快を具体的に形としてイメージすると、室内空間に直結すると思いました。そこで、エクステリアでの爽快とはどういうものかを考えたのです。人がクルマに乗っている姿を外から見て、このクルマはすごく気持ち良さそうだな、すっきりして見えるなという外見はどういうものが良いのかという観点でデザインしました。
—-:爽快な走りというイメージはしなかったのでしょうか。
浅野:そこももちろん含めています。新型シビックは全高がかなり低く(1415mm)、気持ちよくキビキビとした走りの良さが感じられますので、例えばぱっと見た瞬間に、あっこのクルマに乗ったらいろんな街に行って、スムーズに自分の運転が上手くなったかのように運転出来るな、など、ぱっと見てそういう印象を与えたいという思いでデザインしています。
—-:もうちょっと具体的に、そのデザインにおいてどのような表現をしていますか。
浅野:まずキャビンをグラッシーに見せたいということで、ガラスエリアを大きく取りました。また、ウェッジシェイプも今回は止めて、かなり水平基調にしています。フロントでは、走りの良さとか、視界のことも考えてAピラーを室内側に引くことでスタンスよく感じるように、Aピラーがタイヤに刺さるようなイメージにしています。
今回のデザインで一番キモになっているのが、ルーフの後端のデザインです。実はいろんなパターンを検討しました。ガラスが2枚あるエクストラウィンドウタイプや、いわゆるハッチバックスタイルも考えました。そういった中で、見た瞬間に気持ちそうだな、爽快そうだなと思ってもらえるデザインは、やはりフォルムがガタガタと、例えばスポイラーがついてフォルムが折れているような形ではなく、シューっと一筆書きで描いたようなフォルムにするべきではないか。そこでこのようなキャビンのデザインにしました。
◆アコードとは意味合いが違うキャラクターライン
—-:そこですごく効いているのがヘッドライトからテールランプに抜けるキャラクターラインだと思います。このラインは『アコード』も使われていると思いますが、なぜシビックでも取り入れたのでしょうか。
浅野:アコードにも同じようにキャラクターラインが入っていますが、その扱い方はちょっと違うのです。アコードの場合はクルマ自体が長いので、サイドビューで見た時にストロークを長くして綺麗に見せるためにデザインしています。シビックの場合は、キャビンが大きいので、そこをしっかり支えてあげられるようなイメージです。
シビックを実際に正面やリアから見ると、かなり卵のように膨らんでいて、前後に行くに従って閉じていくように意識しています。そうすることによって、面自体が前後で絞られますので、自ずとタイヤの位置がぐっと外に張り出して来る。真ん中あたりの線は外側に出ていて、前後は線が絞られてそのぶんタイヤがギュッと出ている。そうすると四隅にタイヤがしっかりあって走りの良さや、スタンスの良さが感じられるようにしているのです。
—-:フロント周りでは、グリルにハニカムを使うなど、これまでとは少しイメージが変わっています。ホンダは『ヴェゼル』あたりからデザインテイストが変わってきているように思うのですが、この新型シビックはどのように考えられているのでしょう。
浅野:同じブランド内でやっていますので、一緒にやりながら、どういう顔が次に向けていいのかという観点でやっていますが、ヴェゼルがこうだから、シビックが同じような顔をするべきなのかというと、そういうわけでもなく、やはりシビックはシビックとしての表情が必要だという観点でデザインしています。
一番の狙いとしては、歴代のシビックをずっと見て行った時に、やはりスポーティで若々しいというのがシビックの基本、ベースになるところだと思うので、絶対に外していけない。そこですごく精悍な顔にしようと、アッパー周りはなるべく薄く見せながら、グリルがちょっと(前に)出て、そこから左右にヘッドライトを持ってきて繋いでいます。
これも歴代の話になるのですが、シビックの顔が変わってきている中で何か共通点がないかと探したところ、ひとつあったのです。アッパーグリルの位置が少し低くて、ヘッドライトがちょっと高い位置にあるという顔に、全部がなっていました。グリルがヘッドライトより上にあって、そのヘッドライトが横か少し下にあると、少し高級なクルマの顔つきになってくると思うのです。(シビックは)そうではないので、グリルとヘッドライトの位置は歴代通りで、なんとか取り入れるようにしました。
また、ロアグリル周りは、どこから見てもすごくスタンスがよく見えるようにと、大胆にハの字を使いデザインにしています。
◆リアの重心の位置を見直したかった
—-:今回ハニカムグリルをあえて使っていますが、インテリアにもハニカムが使われています。このあたりは共通性という考え方でしょうか。
浅野:エクステリアでは、わかりやすいスポーツ表現ということで、お客様にぱっと見ていただいて、スポーティなクルマだなという印象を与えられることと、インテリアと何かしら共通点を持たせたいという考えです。
—-:一方でリア周りはさっぱりと外連味なく仕上げたという印象があります。
浅野:造形の意図を説明すると、リアに関しては重心の位置を見直したいということでスタートしています。ボディ全体のフォルムを水平基調にしたというのもそこにあります。いままでのようにウェッジシェイプにすると、フロントクォータービューから見るとすごく動きがあって、勢い、疾走感が出るのですが、どうしてもリアが腰高になってしまうのです。例えば灯体の取り付け位置や、バンパーのボリューム感なども影響し、どうしてもグッとお尻が上がって見えてしまいます。日本はもちろん色々な国に行って見た時に、安定して走っているように見えなかったのです。
そこで、すごく安定感があってキビキビ動く感じを見せるために、リアはちゃんと「座っている」ようなスタイルにしたいと、水平基調にしながらなるべくリアのボリュームをグッと後ろに下げて。ただ下がりっぱなしではなく、ちゃんと締まるところはきゅっと締めた全体のボリューム感を目指しています。具体的には特にバンパーの下回りで締めています。面の抑揚できゅっとスムーズにヒップアップしたようなイメージです。また下回りの黒のグラフィックも、あまり上の方に配せずに、ボディ色を下まで持ってくることで、重心を下げて見せられるのではないかと考えています。
—-:因みにテールランプのCの字はシビックのイメージなのですか。
浅野:実は先代と先々代でも取り入れており、アイキャッチになっています。夜、すごく遠くから見てもブレーキを踏んだ時にシビックだとわかるひとつのキャラクターなっていましたので、これは大事なことであると考えて取り入れています。他のメーカーもいろいろなシグネチャーや、ラインをやっていますが、3代続けてデザインを統一してやっているところは少ないという思いもあり、採用しました。
◆「スムーズなキャビン」を実現するこだわりのテールゲート
—-:リア周りでは、テールゲートの開口部がサイドまで回り込んでいるのはすごいですね。このこだわりはどういうものなのでしょう。
浅野:ここはかなりこだわったポイントです。緊密に設計と連携して実現出来ました。テールゲートの開き方はもちろんなのですが、私が一番こだわりたかったのは、スムーズなキャビンです。後ろに向かって角が出来て折れたりバキバキしたりするところをなくしたい、というところに一番注力しています。
後は、リアヒンジの位置が人(が座った時)の頭の後ろ辺りにあるのですが、どうしてもここがハードポイント、ネックになってしまいますので、なかなかルーフラインが下げられないのです。もちろんパッケージをいじめて(犠牲にして)デザインを成立させる方法もあるのですが、シビックとしてもホンダとしても、パッケージだけは絶対に犠牲にしたくない。これはインテリアデザインもエクステリアデザインもパッケージも全員の共通認識にした上で、どうやるべきかをスタートさせました。
まずはヒンジの位置をピラーの外側に持ってきたらどうかという話から始めました。カットラインに関しては、ノイズレスなキャビンをイメージした時に、例えばCピラーの真ん中にカットラインを入れてしまうと、一気に台無しになってしまいます。すっと前から後ろに流れる線を絶対に分割したくない。他にもやり方としてはリアガラス側にカットラインを入れて、灯体のところで切ることもあるのですが、この場合はテールゲートの開口部がかなり減ってしまいます。そういった犠牲を払わないで何が出来るのか。
それならばクオーターガラスまで回り込ませようと提案し、設計者も含めて皆がそこに向かって行こうとなりました。やはり見た瞬間に、これがいいと思ってくれたのだと思います。設計者にはかなり頑張ってもらいました。