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誰もが作れるカスタムをめざしたホンダ N-VANカスタム3rd Place VAN…デザイナー[インタビュー]

  • 《写真撮影 内田俊一》
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ホンダは東京オートサロン2021に出展予定だった『N-VAN カスタム「3rd Place VAN」』を一部報道陣に公開した。アメリカンテイストを纏ったこのモデルについてデザイナーにその思いを語ってもらった。

◆若い人たちにN-VANをアピールしたい

—-:平日はカフェに、休日は旅先での車中泊など、仕事と趣味をシームレスに繋げるトレーラー風カフェとして提案するモデルが、このN-VANカスタム3rd Place VANです。始めになぜこのモデルを作ろうと考えたのでしょうか。

本田技術研究所デザインセンターオートモービルデザイン開発室プロダクトデザインスタジオデザイナーの佐藤友哉さん(以下敬称略):N-VANの“+スタイル(上級グレード)”の購入層は比較的年齢層の高い人たちが多いので、もっと若い人たちにN-VANを見てもらいたいという思いがまずありました。もちろんいまのオーナーにもPRはしていきたいのですが、若い人たちにもこんなクルマがあるのかと気づいて欲しかったのです。

N-VANは商用車をメインにしていますので、どうしてもそういう見え方が多く、若い人たちはあまり存在を知らなかったり、自分たちのクルマじゃないという前提になってしまいがちでした。しかし実際にDIYで作ったり、あるいは友達と趣味の道具を一緒に運べるような道具としてのポテンシャルはとても高く、またお手頃なので、多分若い人たちにも伝え方さえきちんとすれば需要はあると思っていたのです。そこでカフェと趣味をベースに出来るバンライフのようなクルマを提案して、若い人たちに少しでもN-VANの魅力や価値を知ってもらおうという思いです。

—-:佐藤さんご自身はインテリアデザイナーとのことですが、このモデルはエクステリアにもこだわりが感じられますね。

佐藤:ホンダのデザイナーは内装の形と外装の形と区分けした仕事ではなく、コンセプトや商品全体像をゼロから考えることがすごく多く、また、会社の中でも個人提案などが数多くありますから、インテリアデザイナーであったとしてもクルマ1台をコーディネートしてプロデュースする機会はすごく多いのです。ですからあまり自分は内装のデザイナーだから内装しか出来ないという思いで普段から働いていません。

今回はカフェをやる、しかも移動するものですから、ではそれを予感させるものは何だろうと考えていくと、いわゆるトレーラーハウス、古き良きアメリカンなトレーラーハウスの予感をエクステリアで感じさせて、室内に入るとその通りというイメージで作りました。これはこのN-VANだけではなく他のホンダ車であっても同じ考え方です。内装は外装と表裏一体で、予感させる外装であって、実際に機能している内装ということがこのモデルでもピュアに見えて、また作ることが出来たキーだと思います。

◆コテコテなアメリカンではなく

—-:アメリカンなトレーラーハウスなどの方向性を持たせているとのことですが、一方で例えばウエスタンであるとか、ルート66とか色々な考え方もあります。その中からなぜこの方向性を選んだのでしょうか。

佐藤:単純に自分の趣味です(爆笑)。最近の若い世代の人たちは、昔と違って“100%アメリカンでございます”のようなものではなく、上手く良いところをエディットしていきます。自分の中で色々なカルチャーを取り組んで編集しながら、新しいけれども懐かしいカルチャーを生み出すなど、そういった風潮をすごく感じています。むしろ上から下までコテコテのアメリカンというのは、いまはダサいのかなと肌で感じているわけです。

確かにおじさんウケするのはアメリカンならとことんアメリカンなのかもしれませんが、カフェの少し北欧の雰囲気と、アメリカンな雰囲気といったものを上手い具合にミックスして、しかし統一感のあるようなクルマを目指しました。

—-:このクルマは使用シーンがとても見えてきますね。

佐藤:コンセプトカーなどを見ると、格好良いのですが身の丈ではなかったり、実際に生活している街の暮らしにマッチしていなかったりするクルマが多いのかなという気もします。最近はそうじゃないコンセプトカーも多いですけどね。ですから、あくまでも自分たちでも出来そうだなとか、やってみたいなと思うカスタム、そういったレベルのカスタムをあえてチャレンジしようと思ったのです。

◆フィルムを貼ってやすりで磨いて

—-:ではまずエクステリアについて教えてください。

本田技術研究所デザインセンターオートモービルデザイン開発室プロダクトデザインスタジオデザイナーの荒木紀充さん(以下敬称略):個人的にエアストリームに憧れがありました。アメリカでエアストリームをクルマで引っ張って、どこかでカフェを広げるような生活にすごく憧れがありましたので、そういったイメージを追いかけて表現していくことを2人で目指しました。そこで、表参道にあるイメージに近いカフェに行ったり、新品のエアストリームを見に行ったりしてインスピレーションを得ていったのです。

新品で売られているアメリカンなトレーラーハウスはツルツルでピカピカの新品のアルミの輝きを持っています。しかしそうではなく、少しやれた感じ、ラギットで少し擦れたような、使い古したような感じのアルミに雰囲気が感じられますので、そちらの方を目指しました。

最初にN-VANのボディにフィルムを貼った時には、ピカピカなアルミの感じだったのですが、それをやすりで擦ってみたところ白茶けてしまったのです。そこからの調整が難しかったのですが、最後にコンパウンドで磨きを出すことで、ちょっと擦れてやれた感じでありながら、少しツヤが残っている感じを出すことが出来ました。

—-:リベットが打ってあったりしもしますね。

荒木:エアストリームなどのトレーラーハウスもアルミの板を何枚も継ぎ合わせて作られているものなので、そういった継ぎ合わせの部分にリベットが打ってあり、その再現をしようとしたのです。実際にぱっと見た人にアメリカのトレーラーハウスのようなイメージを感じて欲しいと思っています。

実はこのリベットですが、本当に安い立体の透明なシールをスプレーで塗装して同じ間隔で貼り付けていっただけです。簡単に付けたり外したり出来るシールで作りました。

佐藤:小学生の女子とかが貼りたくなるような少し立体感のあるシールが昔あったと思うのですが、これの小さいやつを買ってきて、塗装してシールなのでペタッと貼り付けてリベット風に見せています。

またルーフ部分にもアメリカのトレーラーハウスの雰囲気を出すためにオレンジのライトを付けました。2つと3つとどちらが良いかと考えたのですが、やはり3つが多いのでそうしています。全体とし少しコテッとしすぎるようにも感じていましたが、普通の人がこれに気づいて、自分たちでもやってみようと思えたりすると良いですね。

荒木:ちょっと濃過ぎてやり過ぎているぐらいが、オートサロンの会場に出した時にも、上手く映えるではないかと思いました。

—-:ホイール部分は鉄チンのままなのですね。

佐藤:最初はN-VAN純正のホイールキャップを付けていました。これもデザインがシンプルで少しレトロな感じがして相性が良かったのですが、何かのタイミングで外して見たら「これじゃん!」とピンと来たのです。そこで何でかなと思ったら、バンパーはプラスチックではありますが今回はアルミ風、鉄っぽい金属のように全部見せています。その中でホイールキャップだけがプラスチックに見えていたのですね。それを剥がすと全部金属に見えて来て、すごく重厚感や渋さを感じるようになりました。樹脂が作られる前のクルマの時代の雰囲気が出たので外したのです。

◆簡単に作ることが出来るインテリア

—-:インテリアはいかがでしょう。

佐藤:インテリアも簡単に作れるようにしました。これが一番こだわったところです。まず4座全てが使えること。そして様々なトレーやテーブルの組み立てが簡単で、設置も楽ちん。さらに取り付けは乗せているだけです。一部M6ナットが使えるところに横方向にボードを乗せてそこに固定してはありますが、いわゆる特殊な加工やクルマに穴をあけたりなど、素人や女性が無理と思うようなことは何ひとつしていませんし、そこがポイントです。

例えば、インパネはトレー状になっていますので、前後方向の長いボードは一方をここに乗せ、後ろはホイールハウスの上に乗せています。その上にテーブルなどを乗せていますので、ずれないようにピンは刺していますが、これは使う人の好きな固定方法で良いと思います。またセパレートして折りたたみ、後ろに収納すると4座全てが使えるようになりますので、友達みんなで出かけることも可能です。

こういうカフェスタイルやキャンパースタイルのようなものの多くは1人や2人しか乗れなくて、それだけでもおじさんが定年後に出かけるようなイメージになってしまいます。しかし若い人たちが友達は同士で出かけたい時には4人で、1人でカフェをする時はテーブルやその下のボードなどを出して作りつける。つまり休日のためのクルマと平日の仕事のためのクルマを両立させようと、テーブルの機構にはすごくこだわって考えました。

また、インテリアもエクステリアと同様の風合いを感じさせたいと、少しやれた感じや日に浴びて黒味がかったような、例えばカフェとかで使われるような木目の雰囲気をあえて演出することで、内外テイストを合わせています。少し珍しいと思いますが新しいクルマなのに内装も外装もどちらも古く見える(笑)。そこのあたりの質感もかなりこだわりました。

荒木:ルーフ部分のライトも、元々ボルトの穴が開いていてそこにキャップがしてあるだけなのです。それを外してフックをボルトのところに付けてライトを吊るしています。実際にクルマに穴をあけたり切ったり傷つけたりしないようにしながら、そういうところにこだわりました。

◆DIYで気軽にクルマを楽しく

—-:実際に作ろうと思えば作れるというのはすごいことですね。

佐藤:実際にネット上で図面も公開しています。

—-:自分でもこのクルマを買えば出来ると夢が膨らむ提案です。

佐藤:自分はあまりクルマをカスタムしたりしないので、オートサロンなどのカスタムを見ていると、すごく難しいといつも感じていました。派手な電飾などもどうやって光らせるのだろうとか、すごく敷居が高く感じていたのです。自分がカスタムをするのであればもう少し簡単なのが良いなと思っていました。家でDIYをするのは普通に流行っていますし、女性もみんな出来るようなものがあります。

しかしクルマのDIYはめちゃくちゃ敷居が高い。そこが変だなと。このN-VANだったら家のDIYレベルの技能と知識さえあれば出来ちゃうので、そのあたりも若い人たちに向けて伝えたいですね。クルマってもっと簡単にいじることが出来て、もっと自分の部屋みたいに自分らしく作ることが出来るということをいいたかったのです。

荒木:クルマの中にロープを通してカーテンが出来るとか、電飾も簡単なマグネットを付けて止めているだけ。生活の知恵ではないですが、そういった発想と工夫と転換みたいなところで簡単に出来るのです。実際にやってみて発見したことも多く、知識を出し合いながら、こうやって出来るんだと進められたのがとても楽しかったですね。

実はタープも簡単に畳んでしまえるようにしてあります。

佐藤:骨自体も固定出来るようにきちんと骨組みを作ろうとか色々考えて、ジグなどもワンオフで作ろうと思ったこともありましたが、それは本末転倒だと、ルーフキャリアを生かしたりカラビナだけで固定したり、どんどん考え方をシンプルにしていきました。

佐藤:デザイナーはすぐに新しいものを生み出したがるものですが、今回はホームセンターにあるものだけでやりたいとずっといい続け、やり続けました。そこがお客様から離れないための大事なポイントだったのです。

—-:このクルマの様々な電源はどのようになっているのですか。

荒木:基本はホンダの蓄電池、『リベイド500』から電源を取っており、USBやコンセントも使えるので単純にこれだけで電源は賄えています。シガーソケットも使えるようにしていますので、電源は十分に供給出来ているのです。

佐藤:これを使うことで停車中の価値が一気に高くなります。クルマはずっとエンジンをかけておくわけにはいきませんし、そうすると結局何をやるかというと携帯しか見られなくなってしまう。そこでリベイト500を使うことでより停車中にクルマを有意義に有効に活用出来ると考えました。