注目の自動車ニュース
【光岡 バディ】欧州だけ、アメリカだけとこだわらない。光岡らしい面白さを…開発者[インタビュー]
光岡は自社初のSUV、『バディ』を発表した。そのデザインはアメリカンビンテージだという。前回の『ロックスター』からその路線を取り入れていることから、今後、光岡はヨーロピアンテイストから方向性を転向するのかなどについて話を聞いた。
◆RAV4には縁があった
—-:バディはトヨタ『RAV4』をベースにしています。まず初めにこのクルマをベースにした経緯から教えてください。
光岡自動車執行役員の渡部稔さん(以下敬称略):今回光岡初のSUVですが、過去に企画がなかったわけではありません。では、なぜ生産化にならなかったかというと、ベース車の選択が非常に難しかったからです。つまり光岡でデザイン出来るような別のクルマがなかなか見つけられなかったわけです。
この企画を始めたのは昨年の3月で、ロックスターが一段落した後なのですが、その時には既に北米でRAV4が市場に投入され、国内では4月から導入が開始されるということになっていました。デザインの青木(光岡自動車企画開発課課長の青木孝憲さん)から提案があり、このRAV4なら直線的なラインを活かせそうなので、行けるのではないかとRAV4に決めました。
ちょうどRAV4が日本市場に投入されるタイミングで、そこからスタート出来たのも我々としてはメリットでした。末期モデルではなかなか出来ませんので、そのあたりもこのRAV4には縁があったと思います。
—-:なぜ過去にSUVの企画があったにも関わらず、実現に至らなかったのでしょう。
渡部:素直に格好悪かったのです。何かないかと何度か絵を描いてもらったこともあったのですが、まとまりが悪いのでそこで終わってしまいました。
光岡自動車企画開発課課長の青木孝憲さん:我々のイメージにはまらなかったんです。
渡部:そう、これだ!と来なかった。
青木:直感的な部分で、これは来るなというのが何かあるものなのですが、どの案にもそれがなかったんですね。
渡部:その感覚は青木と私とでかなり近いのです。「これが良い」とどちらかが押すようなことがなかったので実現に至りませんでした。
◆アメリカンなSUVにしたのはロックスターの影響
—-:50年を超える歴史が光岡にはありますが、今回SUVには初挑戦です。なぜSUV市場に参入を考えたのですか。
渡部:今回SUVにしたという前に、まず光岡にアメリカンなクルマという発想がそもそもありませんでした。強いてあげると以前、『ラセード』があり、アメリカにあるようなクルマをモチーフにしていました。それ以降はほとんどがヨーロッパ車のクラシカルなデザインを踏襲して商品化するという流れでした。
しかし、ロックスターを出したところ、反応がすごく大きかったのです。これまでの光岡の顧客層とは別に、いままでは光岡にあまり関心が持たれなかったお客様も、振り向いてくれたのです。またアメリカンテイストな商品を出すと反応が早いということのも実感しました。白黒はっきりしてもらえるような感覚の方が多かったように思います。
現在SUV市場が拡大していますし、光岡の場合はパーソナルユースで使われるクルマの方が多かったのですが、家族に反対されるからダメという、そんな言葉ももらったことがありました。ロックスターなどもそうですね。しかしSUVはレジャーにも家族を連れて行けますし、使用用途はかなり広がります。いまは生活圏がどんどん広くなっていますので、街乗りだけがメインではありません。そういったところからSUVの発想に繋がり、たまたまいいベース車両があったというのもこのタイミングになったというわけです。
◆ずっとアメリカンではない
—-:これまで光岡は欧州路線のデザインが多かったのですが、ロックスターから路線が変わりました。光岡としては今後アメリカン路線を取り入れていくのでしょうか。
渡部:選択肢として過去、アメリカンな路線はずっとありませんでした。私は光岡だけでなくBUBUというアメ車の販売店の経験もしていますし、過去アメリカに住んでいたこともあります。自分からすると色々な選択肢があったのですが、特にチャレンジをしなくてもなんとなく販売もスムーズに動いていました。
しかし、ロックスターは記念事業のひとつ(光岡設立50周年)といこともあり、アメリカンテイストの方向性でチャレンジした方がお祭りっぽくなるのではないかという、ひとつのきっかけでした。それをやった結果、先ほどお話したように新たなお客様に振り向いてもらえましたので、アメリカンもありだなとなったのです。
ただしアメリカンでずっと行くかというとそうでもないですね。色々なことを提案してみて、そこにはそれなりのお客様がいるとすれば、そういった色々な人に色々な楽しみ方をしてもらいたいと思っています。
青木:光岡自動車の面白さは、いちファンでもある僕からすると、何をやっても許されるところがちょっとあります。次は何をやってくれるのだろうという期待感もあるのですね。そういう意味では光岡イコールヨーロッパ的なデザインでもないですし、かといって今後アメ車路線かというわけでも全然ありません。
光岡なら何を出しても面白いんじゃないかなという、僕なりの客観的な期待感があるのです。それを表そうと、渡部と話をしていくうちに、だいたい次はこっちかなという感覚が合っていきます。ですから、これからはアメ車で行くぞということは全くないし、これまでのお客様も大事にしていきながら、また面白いことを、今度はアメ車路線ではない全く違うものをやり始めるかもしれません。そういう考え方です。
◆1950から60年代のアメ車はピンポイントでは良いのだけれど
—-:今回は70年代80年代のアメリカンテイストを感じさせていますが、60年代以前のものもあるかと思います。あえて70年代から80年代にしたのはなぜですか。
渡部:その選択肢は自分の中では全くありませんでした。古すぎるというか、60年代ぐらいまでの古いクルマは個性が強すぎ、アメリカアメリカしすぎている印象なのです。また、日本ではあまり受け入れられないような感覚もあります。もっと古くなるとさらにそう思います。たまにビンテージで走っているのを見かけますが、やはり街中には合わないと感じますね。
古いアメ車は面白いなとは思いますし、シボレー『コルベットC2』やC1まで行くと、素敵で格好良いのですが、それはピンポイントで良いなと思うクルマであって、世代的には(50年代から60年代のアメ車をデザインに取り入れるのは)ちょっと違うかなと思っています。
—-:もっと古いアメリカンなワゴンテイストもありますよね。
渡部:60年代やアメリカングラフィティなどの時代は、アメリカは伸びていた時代で、一方70年代から80年代は日本が伸びていました。その時は日本からアメリカにものを売っていたり、アメリカを見たりする機会がすごく多かったように思います。ですが、60年代は逆に虐げられていたというか、なんとなくそんなイメージもあり、選択肢に挙がらなかったのかもしれません。
60年代は、アメリカがアメリカ人のために作っている、というような印象がその時のクルマにはありますよね。やけにデカイし、センスというよりも大きさで誤魔化すような迫力ですとか。特にSUVやそういったクルマでは魅力をあまり感じないのです。
青木:私は1975年生まれですので、まずその時代を知りません。1970年代から80年代は日本もアメリカも出てくるものは格好良いし、すごくメッセージ性が強くエッジが効いていたように思います。そういったものが原体験にありますので、そういう勢いみたいなものをバディで表したいと思いました。
◆なんちゃって感が出ないように
—-:アメリカンビンテージをデザインに取り入れていく上で見て欲しいところや、ベース車との違いについて教えてください。
青木:バディのデザインのテーマは70年代から80年代のカルチャーやクルマのデザインです。しかし当時の造形や表現手法をそのまま持ってきても時代感がずれてしまいます。ですから令和という新しい時代や感覚のテイストを混ぜながら全体を仕上げました。あまり懐古主義的なアメリカンにならないようには気をつけています。
内装についても、日本車の良さは機能性やサイズ感、痒いところにまで手が届くのが良さだと思っていますので、そういった現代のアレンジは残しながら、バディらしい、このクルマのキャラクターらしいデザインを与えています。シートやドアトリムは変えていますが、それも古臭いただ革を張り替えただけではなく、きちんと時代のカルチャーを表したデザインを組み込んでいます。分かる人にはあの時のあれに似ているとかの発見があるでしょう。
—-:その令和のテイストは、具体的にどこで表現されているのですか。
青木:説明が難しいのですが、自動車のデザインは流行り廃りがあります。ですのでここ数年前からこの先数年のクルマの方向性や造形の流行りというものは入れています。
例えばフロントグリルの縦横の格子ひとつにしても、昔のアメ車のものはかなり単調です。その潔さが気持ち良いというのはありますが、それをやってしまうと“なんちゃって感”がすごく強くなってしまいますので、かなり細かく面のふくよかさや角度をつけています。ヘッドランプの角目もLEDにしたり、光り物は時代感を出しやすいので、そういったことを積み重ねて、クルマに表現しています。光り物はヘッドランプやクロームなどを含めて、メッキバンパーひとつにしても、形状によってで何年代みたいなことが分かりますよね。
—-:リアスタイルも独特です。縦型のテールランプで横型のプレートのようなものが入っていますが、これはどのような思いでデザインされたのでしょう。
青木:まさに70年代80年代のSUVやピックアップは後ろにだいたい真ん中にドカンとメーカー名が入っています。この勢いみたいなものをパネルで表しています。そこもステンレスのブラックのヘアライン仕上げという、かなり凝った表現の素材を使うことでいま風にしているのです。
縦型のテールランプも当初は違うデザイン案もあったのですが、すり合わせをしながら何か垢抜けないな、といまのものに落ち着きました。
かなりすっきり仕上がっていると思います。ロックスターとのときもそうでしたが、その当時の時代感をそのまま持ってきても、垢抜けないのですね。そこはすごく大事にして、なんちゃって感にならないように気をつけているのです。
◆こだわりのカラーは18色
—-:カラーにもかなりこだわりがあって18色設定されていますね。
青木:いつもより3倍ぐらいあります。カラーはイメージを決定づける最初の要素です。カラーによってその人のキャラクターや、趣向性が判別出来てしまいますので、バディの場合はこのぐらいの色の幅は欲しいだろう、クルマのキャラクターからするとこのぐらいは欲しいだろうという感覚で、結果的に18色になりました。ネーミングもひとつずつ70年代80年代、場合によっては90年代ぐらいのキーワードが全部入っています。あえて説明は避けますが、かなり思い入れが入っているネーミングです。
—-:最後にこのバディはどんな人に乗ってもらいたいですか。
渡部:年代では40歳代がターゲットですし、そこが一番反応してくれています。ロックスターはお父さんが欲しくても家族から反対されてしまいます。しかし家族も一緒に楽しめるのがSUVのいいところですので、そういう世代にも乗ってもらえるでしょう。一方で限定車ではありませんから若い人はお金を貯めて、3年後にも変えるチャンスはあります。本当に幅広い世代の人たちに楽しんでもらえるクルマです。