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【池原照雄の単眼複眼】トヨタ MIRAI、カーボンフリーの「未来」へ再発進

  • 《写真撮影 雪岡直樹》
  • 《写真撮影 雪岡直樹》
  • 《写真撮影 池原照雄》
  • 《写真提供 トヨタ自動車》
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  • 《写真 オンライン中継画面から》
  • 《写真撮影 池原照雄》
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◆プラットフォームとFCスタックの刷新で大変貌

トヨタ自動車は燃料電池車(FCV)の『MIRAI』(ミライ)を全面改良して12月9日に発売した。2014年12月に世界初の量産FCVとして登場した初代から丸6年。

航続距離や走行性能、スタイリング、さらには乗員数の拡大に至るまで、すべての面で大きく前進したと評価できる。走行中にCO2(二酸化炭素)を排出しないFCVは、カーボンフリーに示される地球環境の「未来」に向けた主力プレイヤーでもあり、初代ではなかなか叶わなかった未来へのアプローチに、2代目ミライが挑む。

新型車はプラットフォーム(車台)やFCVの心臓部である燃料電池(FC)スタックといったユニットなどを全面的に刷新した。開発では社内分社組織「ミッドサイズ・ビークル・カンパニー」の田中義和チーフエンジニアが初代から続けて指揮を執った。「もてる技術をすべて注ぎ込み、フルスイングで開発した」(田中氏)と振り返るように、初代誕生からの6年であぶり出された課題をひとつひとつ潰すように取り組んだ。

まずプラットフォーム。レクサスの旗艦モデルである『LS』と同じ「GA-L」を採用し、車体サイズは初代に比べて全長が85mmプラスの4975mm、全幅が70mmプラスの1885mmと、ひと回り大きくなった。当然、駆動方式も初代のFF(前輪駆動)からハイパフォーマンスカーに採用されるFR(後輪駆動)に変更となった。

新たなプラットフォームとともに性能向上に大きく寄与したのが動力の源であり、トヨタが内製しているFCスタックの進化だ。その最高出力は初代用より12%高い174PSとする一方で、体積は約2割、重量は約4割も低減した。体積1リットル当たりの出力密度(5.4kW/L)は世界トップレベルの性能だという。スタックの性能アップによって駆動モーターの最高出力は18%高めた182PSとしている。都内でトヨタが運営する試乗専用コースで短時間走ったが、加速パワーと静粛性の両面で、初代からの確かな改良が体感できた。

◆FRありきで開発を進めわけでもない

コンパクトになったFCスタックの配置は、従来のフロア下部からボンネット内、つまりエンジンルームに移動させている。これにより乗員は4人から5人となり、初代では窮屈感があった後席スペースにもゆとりができている。

スタックの移動とFR用プラットフォームは、車室スペースの改善よりもFCVにとってはさらに重要な効果をもたらした。航続距離に直結する水素タンクの増設である。初代ではリア席とリアフロア下に2本横並びに置いていたが、新型ではフロア中央部のトンネル部に1本追加して3本とした。このスペースはガソリン車やハイブリッド車(HV)だと、後輪に駆動力を伝えるプロペラシャフトが収容される場所だ。

ここをタンクの増設に有効活用することで、水素の搭載量を初代の4.6kgから5.6kgに増やし、航続距離はおよそ3割延長の約850km(WLTCモード)となった。水素のフル充てんはこれまでと変わらず、3分ほどで完了する。FRへの変更について田中氏は、「FRありきで開発を進めたわけでもない」と明かす。むしろ「スタック、モーター、タンク、バッテリーという重要ユニットをどう配置し、クルマ本来の価値をいかに高めるか」の視点を優先したそうだ。

そのなかで、航続距離の延長は水素ステーション(現在全国で135か所)の整備がまだ十分でないだけに、「初代のお客様からもっとも要望が多かった課題」(同)でもあった。850kmは実用走行でも、東京から大阪まで安心して走ることができる距離であり、「ステーションの制約を乗り越えられるクルマになった」(同)と指摘する。

◆2代目は、より長く飛べるようになったミツバチ

一方、普及を左右する価格(税込み)は710万円から805万円で、初代(約741万円)とほぼ同じレベルに抑えている。実際には、優遇税制や国の補助金(自治体分は除く)を勘案すると、710万円のモデルは570万円程度となる。既存のラグジュアリーカーと比較しても競争力ある水準だ。

初代モデルの6年間の販売は、世界で約1万1000台にとどまった。水素インフラの制約もあるが、トヨタの生産能力の問題もあった。初年度は700台、2年目は2000台、3年目からは3000台と計画に沿って規模は拡大したが、FCスタックの供給力などもネックとなって足踏みした。

2代目の投入に当たっては、ここにもメスを入れた。9日の発表イベントでCTO(最高技術責任者)を務める前田昌彦執行役員は「新型ミライは水素社会実現の出発点。生産能力は10倍に引き上げた」と強調した。年産3万台規模の需要に対応できるようにしたのだ。

6年前の初代ミライのラインオフ式の際、豊田章男社長は、FCVと水素インフラの関係を「花とミツバチ」になぞらえた。双方の成長には相手が欠かせず、共に努力をというわけだ。FCVをミツバチとすれば、2代目ミライは流麗な体躯に変身し、より多くの蜜を携え、より長い距離を飛べるように成長した。