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【インフィニティ QX60 モノグラフ】和のデザインや“間”を少しだけ感じさせたい[デザイナーインタビュー]
日産はインフィニティ『QX60』の次期型のデザインを纏ったコンセプトモデル『QX60モノグラフ』を公開した。そのデザインはこれからのインフィニティのデザインを示唆し、また、日産のデザインを象徴するジャパニーズDNAも込められているという。
インフィニティ グローバルデザイン担当シニア・デザイン・ダイレクターの中村泰介氏に話を聞いた。
◆インフィニティのデザインレシピ
—-:QX60モノグラフのデザインは先代の良いところを残しながらデザインしたということを伺いました。具体的にはどういうところが評価されていたのでしょうか。
中村泰介氏(以下敬称略):良いところはパッケージングです。クルマに要求されているニーズとして、デザインだけではなく、ルーミネスさ、パフォーマンス、使い勝手なども含めて、全く同じパッケージングではないものの、良かったと評価されているところはなるべくキープしています。それらを踏まえてインフィニティの新しいもっとモダンな表現としています。
—-:なぜこのタイミングで新しいインフィニティのデザインに取り組もうと考えたのですか。
中村:インフィニティをデザインする上で何らかの“レシピ”があるかというと、僕は完全にはないと思っています。例えば特徴的なサインみたいなもの、アスペクト(形式や比率)だとかシンボリックにずっと昔からやってきて、いまも継続しているもの。つまりすぐには変えない部分ですね。
ただし、ぱっと見てインフィニティのクルマだとわかることはキープしたいんです。そこにプラスして、時代に合わせてアップデートしていく部分、進化という意味では日々起こっています。そして、インフィニティというブランドのスピリットはやはり日本らしさですから、それをどうやって表現していくかという大きなタイトルがやりたいことです。そうした中でQX60モノグラフが生まれました。
—-:ぱっと見てインフィニティだとわかることとは、どういうところでしょう。
中村:それは、パワフルでエレガントな表現で、これまでもずっとやってきています。それはたくさんあり、何かひとつというわけではありません。このクルマでも、パワフルでエレガントな表現になっています。さらに、パワフルな表現の仕方や、エレガントな表現の仕方がアップデートされて新しいものになっているのです。つまり、デザイン表現に関する言葉も含めてアップデートしていかなければいけないのです。
もう少しお話をしましょう。フロントのパワフルな表現のひとつとしてダブルアーチモチーフ(フロントグリルの上下部分が弧を描き、橋が水面に映るさまを表現)があります。最近は上下のアーチ状の形がフロントの一番大きなグラフィックを占めていて、なおかつ非常に象徴的な表現となっています。エンジンをクーリングするというファンクション(機能)がありますので、それプラスどれだけインフィニティとしてのクラフトマンシップを表現出来るかがひとつあります。
それから、テクノロジーをどうやって表現していくかです。ラグジュアリーにおけるテクノロジーの表現の仕方ですが、テクノロジー自体をこんなにハイテクだ!と見せるデザインではなく、どちらかというとテクノロジーは隠れていて、それが人に対してすごく心地よいとか、役に立っているように見えるというデザインだと考えています。
そうするとシグネチャーランプも変わってきます。これまではフォーカスヒューマンアイといって、いわゆる人の目みたいに見えて、その上に眉毛があり、その目のふちが光るというシグネチャーをずっと作り続けてきました。今回はもっとシンプルにそれが端的に出来ないかと、その上の直線的な部分をもっとハイテクに表現しています。
そしてその他をどんどんブラックアウトしてあまり見えないような表現をしているのですが、よく見ると細いクロームが入っていたり、ヒートシンクみたいなリブの断面があったりして、空間があまりエンプティに見えない、真っ黒なのですが、ものすごくリッチな黒ということをやりました。こういったことがラグジュアリーではないかと思うのです。
◆インフィニティが解釈するジャパニーズDNA
—-:日産のデザインが核として標榜するジャパニーズDNAはこのクルマにも反映されているのでしょうか。
中村:ジャパニーズDNAに関してですが色々なアスペクトがあります。2つ例を挙げますと、ひとつは日本のミニマリズムのように、シンプルでモダンさをどのように表現するかです。先ほどリッチな黒にしたとお話をしましたが、これは日本の“間”の考え方なのです。インフィニティなりの“間”の表現というものがあり、日本のミニマリズムは欧州のミニマリズムとは随分と違います。
ドイツや北欧のミニマリズムはシンプルでパーフェクトなものをミニマリズムといっていますが、日本の場合はもっとどちらかというと不完全な美みたいなところ。完璧な形にはなっていないのですが、全体としてものすごくシンプルで、それぞれのもののレイアウトが完璧な位置に置かれている。そういう次元の高いミニマリズムです。
それを例えばボディーサイドの大きなブロードプレーンと呼んでいる広い面の中では、どのように強弱をつけて、どこを一定に作るかというバランスで表現し、しかも全体ではシンプルに仕上げました。その結果、シンプルですがものすごくリッチさが表現されていて、それが新しいラグジュアリーに結びつくのではないかと考えているのです。特に最初のインフィニティ『Q45』のようなミニマリズムの考え方はずっと貫いて持っていて、それを新たな次元で表現しています。
2つ目はダイナミック感です。ジャパニーズDNAでダイナミック感とはどういうことか。いま、不完全な美という話をしましたが、ものづくりはシンプルでリッチに出来ているのですが、何かどこかに毒がある、少し尖ったところがあるようなところが、日本の外しみたいなところとしてダイナミック感につながるかなと思っています。
ではそれがどこだといわれるとなかなか一言でいいにくいところなのですが、『FX』にはそういったところがあったと思います。なんとなくどこか悪い感じのクルマに見えたりする時があるのですね。理路整然としてハンサムに出来ているクルマではなく、どこか少し崩れていて、でもそれがすごく魅力になっている。毒ばかり出てくるとまた違うクルマになりますので、そのあたりを脳裏に想像しながらああでもないこうでもないとやっているのが実は日常のデザインなのです。
QX60モノグラフでいうと、例えばすごく切り立ったノーズにある大きなグリルと少し小さな目のバランス。広いボディーに対する上のキャビンの比率など、そういう意味ではこれも“間”なのですね。それから、ホイールの大きさや全体のバランスもそうです。自動車のデザインでいわゆる格好良いというレシピがありますよね、キャビンが小さい方が格好良いとかタイヤが大きくてフェンダーが出ているのが格好良いとか。そういうものに対して何か違うものが表現出来るのではないかと考えたのです。
また、日本らしさのようなところが日本人以外にどう受け止められるかは一番のポイントです。そのあたりのさじ加減、どういうレベルで強く表現した方がいいのか、あるいはあまり強く表現しない方がいいのかがデザインの肝になっているのです。
◆折り紙に着物、ディテールへのこだわり
—-:資料を見ると、グリルは折り紙細工、ルーフのパターンは着物の折りなどをモチーフにしているとのことですが。
中村:折り紙といっているのはフロントグリルのパターンです。最初のイマジネーションや形を作る方法論として折り紙は面白いのではないかというところからスタートしています。つまりこれが折り紙に見えて欲しいわけではなく、独特の日本にあるものの作り方や2Dと3Dの考え方みたいなところが、非常にヒントになってインスピレーションを得ています。
また、着物パターンというのは、サンルーフのところにパターンが入っているのですが、細い線がいくつも入っていて、それが交差しています。その仕方がユニークで、そのパターン自体を売り込みたいわけではなく、真っ黒なルーフの中にそういうパターンがあることによって、ものすごくリッチな黒に見えてくることが重要なのです。
ローコントラストの中で精緻なディテールという部分が、ふっと心地よい感じ。あまり和のデザインといっていないのですが、なんとなくそういうスピリットを感じさせる、少し匂わすようなところがいいんじゃないかと思っています。