注目の自動車ニュース
【ダイハツ ロッキー 新型】ロッキーはSUVらしく、ライズはトヨタらしく[デザイナーインタビュー]
コンパクトSUVのダイハツ『ロッキー』とトヨタ『ライズ』は兄弟車であるが、開発に関しては主にダイハツで行われた。そこでデザイン上ではどのようなやり取りがトヨタと行われたのか。担当デザイナーに話を聞いてみた。
◆トヨタと意見交換をしながら
「ある程度ダイハツ側のボディデザインができてからトヨタの開発に入った」とは、ダイハツDNGAユニット開発コネクト本部デザイン部第1デザイン室国内スタジオ主担当員の奥野純久さんの弁。「トヨタの考え方とラインナップとしての位置付けがあるので、トヨタデザインとも意見交換しながら進めた」という。
具体的には、「フロントのハの字に構えているところを中心に作ってほしいということだった」とのこと。因みにデザインは全てダイハツで行われた。これは、「OEMなので基本は全てダイハツ側で作り、考え方を提示。実物を見せて承認をしてもらうのではなく、アドバイスをもらうような形で進めた。承認形態はダイハツの中で行うイメージ」という。
ロッキーの発売前にトヨタからは同じくSUVの『RAV-4』が発売された。「我々は開発中にRAV-4は全く見たこともなかった。ロッキー発売後、似ているとよくいわれるが、我々デザインとしては立ち入るところでないので、出てきてから初めて結構似ていると思った」と奥野さん。そして、「トヨタのデザイン部門はもちろん知っているので、このクルマを見ている時はその関係を知った上で我々の提案を選んで合意をしていると思う」と語る。
◆SUVらしく、トヨタらしく
さて、ロッキーとライズの作りわけのポイントとして、ロッキーはSUVのど真ん中を狙い、ライズはトヨタらしさを強調したという。これはどういうことなのだろう。
奥野さんは、「SUVのど真ん中というのはいい過ぎかもしれない」としながらも、「佇まいとして、小さいハッチバックが背を高くしてSUVに見せるのではなく、しっかりとSUVに見えるようにしよう」。一方のトヨタについては、「我々が考えたトヨタのイメージは、もう少し都会寄りでスポーティーさを加味したもの。そこでもう少し街に似合うイメージで作ろうとした」と奥野さん。
顔つきは、「(ロッキーは)面の幅を少し太めに作っているのに対し、ライズは少し細め。ラインも流れるような線使いにするなど少し考え方を変えている」と述べる。そういったことを「トヨタに説明にしたところ、トヨタのラインナップの考え方も一緒に入っており、考え方も非常にわかりやすく、文句なく良いとなった」とのことだった。
◆ユーザーの声を咀嚼して
ここまで読まれた方は、最初にロッキーのデザインがスタートしたことがわかってもらえただろう。奥野さんは、「もちろん初めはダイハツのものから始めているが、トヨタの顔を作るのは決まっていたので、形がおぼろげになった時からトヨタの雰囲気の顔も作り始めた」という。
その際には、「トヨタ車の顔のラインナップを海外も含めて全部集めて、かつ、トヨタからもレクチャーを受けた。それを我々が解釈・咀嚼した上でコンセプトを作っていった」と奥野さん。「絵からいきなり始めると、“考え方”がない形になってしまう。その点は常にすごく気にしている」と述べる。
これはクルマ全体にも言えることで、「初期の調査ではユーザーの声をダイレクトに聞きながら、そのまま(鵜呑みにするの)ではなく、その背景を聞いている。シャープさが求められたとしても、どの範囲のシャープさなのか、すごく怖いくらいなのか、ほんの少しなのか。これによって最終の商品が変わってくる」と話す。
例えば、「力強くしたいとしても、これはユーザーがどのように思ってその要望が出ているのかが重要。女性が周りに大きなクルマばかりだから守ってくれそうなクルマがいいのか。あるいは、強くて格好が良いのがいいのかで、形の作り方が変わってくる」と説明。そういった点を踏まえながら、「(ライズに関しては)トヨタの意図と範囲を把握し、形に表していった」。
また奥野さんによるとユーザー調査のポイントは、「骨格に関わるところ、大きな形、性格に関わるようなところ」であり、「ディテールの部分は我々で判断する」と話す。ユーザー―調査には企画系の部署とともにデザイナーも同行しコメントを聞き、その背景などを探ろうとしている。その結果を、「デザイナー皆でユーザーのこの意見はどういう心の根っこがあったのか、それをもう一度議論している」。これは、「ただ単に聞いてそのまま作っていくと薄っぺらになってしまうからだ。ここが一番時間のかかるところであり、また最も重要なことだ」と改めて強調した。
◆生き残りをかけて再びコンパクトSUV市場へ
ダイハツは、このコンパクトSUVセグメントに2006年に『ビーゴ』(とトヨタ『ラッシュ』)を投入したが、それらは2016年に販売が終了していた。そこから時を経てロッキーとライズが登場した。
関係者によると、元々ダイハツはコンパクトセグメントから撤退し、軽自動車だけで事業を成り立たる方向に向かった時期があったという。しかし、今後、軽自動車の規格がいつまで存続するか、また海外が主戦場になることが想定されることから、軽自動車とともにコンパクトカーセグメントに力を入れていく必要があると判断され、新たなにプラットフォームから作り上げられた。
つまり、この開発をしないと生き残れないという考えが社内にあったことから、軽自動車と海外専用になるかもしれないコンパクトカーにも含めて力を入れていくことになったそうだ。因みにビーゴ等の生産終了前からライズの企画は始まっていたという。
奥野さんによると、「正直にいうと常にこういう話は出ては消えてだった」と述べる。これは、「その時々の会社の状況等によって、どれを優先して作るかが決まっていたからだ。そういった際に、このクルマの優先順位が低く、軽自動車の優先度が高かった」と述べる。しかし、「トヨタとの関係が強くなり、トヨタのグループ全体として我々は裾野という立ち位置であるとともに、SUVがブームになってきていることから、我々が生き残る術としていまがそのタイミングだったということだ」と投入の背景を説明した。
◆「使えるSUV」であること
コンパクトSUV市場への投入タイミングはかなり後発だ。そこで、「デザインをシンプルでクリーンにしたのはそこにも理由がある」と奥野さん。「色々なクルマの種類があり、特に中国車は安くて様々なクルマの要素が混ざったクルマが20も30もある。その中で存在感を出すためには、そしてダイハツとしてのポジショニングも踏まえると、このクルマにたどり着くのだ。そして、売れたクルマと売れなかったクルマなどの理由を探り、結果として見えたのが“使える”というものだった」という。
この使えるとはどういうことか。関係者は、『ヴェゼル』が年次を経ても販売台数はそれほど落ちないことを挙げ、その理由は特にトヨタ『C-HR』やマツダ『CX-3』と比較し荷室などが使いやすいことがポイントだった。そこで、ヴェゼルをベンチマークに、ダイハツとしても使えることが重要という見解に至ったのだ。
奥野さんは、「スポーティーな小さなC-HR方向という話もなくはなかった。しかし、精査していくうちに、格好だけではなく、安く長くちゃんと使えるクルマ、実用をベースとした生活の中で使えるSUVを目指したのだ」と話す。「“新しい”とか“格好良い”とはいうな。格好良いのはデザイン部としては当たり前だからだ。格好悪くもしないし、古くもしない。そしてみんなのコンパクトSUV。この考え方がクルマ全体に生きていると思う。この企画を最後まで変えずに行けたのがこのクルマの良かったところだ」と語った。