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新型ヤリス&フィットの登場でコンパクトカーの勢力図は変わるか?
◆ヤリス vs フィットの“ガチ対決”で盛り上がるコンパクト市場
2月10日と2月14日、たった4日の差をおいてほぼ同時に、先を争うように発売となった新型トヨタ『ヤリス』と新型ホンダ『フィット』。トヨタの3月9日の発表によれば、新型ヤリスの国内受注数は月販目標(7800台)の約5倍にも上る約3万7000台。一方のホンダは3月16日の時点で、月販目標1万台の約3倍にあたる3万1000台を超えると発表した。
自販連の発表では3月は、フィットが1万4845台で全登録車中2位、ヤリスが1万3164台で同3位となっている。いずれも順調以上、滑り出しはヒット御礼といったところだ。
この2台のガチ対決の波及効果で、国内のBセグコンパクト市場が活気づいていることは間違いない。2017~18年と国内ベストセラーだった日産『ノートe-POWER』や、昨年半ばより『デミオ』から欧州モデルと同じ車名変更がなされた『マツダ2』辺りは割を喰っているようだが、それゆえに販売面でテコ入れが必要な時期でもあった。
1月は7529台(前年比-34.2%)だった日産ノートの販売台数は、閏年で1営業日長くてコロナ禍の本格化前とはいえ、ニッパチ月の2月に9913台、3月は1万999台と、けっこう巻き返してきた。マツダ2の2124台(1月)→2397台(2月)→5616台という数字も絶好調とは言えないものの、倍近くまで増やした。e-POWERと1.5リットル クリーンディーゼルSKYACTIV-D、そしてトヨタとホンダそれぞれのハイブリッド。Bセグコンパクト・ハッチバックはパワートレインだけで見ても、選択肢さまざまの魅力的なクラスになったのだ。
むしろ新型ヤリスと新型フィットが塗り替えるであろう勢力地図は、今も高い人気を誇るリッタークラスのSUVやハイトワゴンといった、異なるボディ形式のコンパクトカーにも及ぶ。実際、昨年末にデビューしたトヨタ『ライズ』は、今年1月、2月と国産車ベストセラーの座を獲ったが、3月は1万2009台を販売したものの4位に転落。またスズキ『ソリオ』のストロングハイブリッドのような、車格の上では競合しないはずのハイブリッドも割高に見えてくる可能性がある。
◆ヤリス好調の理由はプラットフォームにあり!?
ライズは広く知られた通り、グループ内調達でダイハツ由来のDNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)に基づく。軽自動車にも使われるこのプラットフォームで、全長4mを僅かに切る車格は、ゆとりある大盛りのお得感、かつSUVらしいアドヴェンチャー・ルックを備えたコンパクトカーといえる。
同じく全長4m弱とはいえ、新型ヤリスは逆にギュッと中身の詰まった、盛りのよさより質を追求したコンパクトカーといえる。TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)をBセグに最適化派生させたGB-Lプラットフォームの新しさは、後車軸にハイブリッド・モーターとダブルウィッシュボーン式サスが入ることだが、それに伴う低重心化と高剛性化は見逃せない。3月9日時点で新型ヤリスの受注総数のうち、ハイブリッドの占める割合は約45%と、残り55%のガソリンエンジンの方が優勢だ。
いわば新型ヤリスの人気は、ブランニューのプラットフォームとパワートレインでありながら、非ハイブリッドの2WDならすべて200万円アンダーのお得感。加えて細かな仕様は異なるも、基本骨格の同じモデルがフランス工場でも生産され、欧州仕込みの動的質感への期待も高い。むしろハイブリッドをより好む燃費アタッカー層は、年末に予定されているというトヨタ『アクア』のフルモデルチェンジ版との、様子見フェイズだろう。
一方、プラットフォーム目線でいえば、新型フィットは3代目より引き継いだ「新グローバルスモールプラットフォーム」の熟成改良版。「i-MMD」から「e:HEV」へと呼称を変えた2モーターハイブリッドも、ブランニューというよりは最適化改良版だ。
とはいえ燃料タンクを前席下に置くセンタータンクレイアウトは初代フィット以来、ショートノーズかつビッグキャビンのFFというMM思想(マン・マキシマム、メカ・ミニマム)によるパッケージングで、優れた居住性を突き詰めるのは初代『N360』や『シティ』、『トゥデイ』など、ホンダの伝統芸でもある。そこを「過ごしやすい空間」や「視界のよさ」「シンプルで上質なインテリア」といったふわっとしたキーワードで、新型フィットは巧みに現代に翻案して見せたのだ。
◆ハイトワゴン系にも影響が…?
新型フィットに比べてリッタークラスのハイトワゴンは、インテリアのテイストでも、プラットフォームという建てつけや走りの面で、古びて見えてしまう可能性がある。具体的にはスズキ・ソリオやトヨタ『ルーミー』/ダイハツ『トール』辺りだ。
ハイトワゴンの特長は、1350mm前後という縦方向に余裕ある室内だが、新型フィットの室内高は1280mmもある。居住性重視のユーザーにとって7cmほど低いとはいえ、その差は握り拳ひとつ分でしかないのだ。
というのも、ルーミー/トールが基づいているトヨタ/ダイハツAプラットフォームは、ライズ/ロッキーが使うDNGAに代替されつつある車台だ。その初採用は2005年登場の欧州向け車種である初代トヨタ『アイゴ』、つまりチェコで生産されていたプジョー『107』やシトロエン『C1』との共通プラットフォームに遡るほど古く、フリクションの少ない走りや動的質感で、新型フィットに肩を並べるのは難しい。
またソリオのフルハイブリッドモデルは200万円強~の価格設定で、ひとつ上のセグメントであるフィットやヤリスと感覚的には変わらない。ソリオのプラットフォームは現行モデルから採用した新世代なので、償却で苦しい分、価格によるテコ入れも難しそうだ。トドメに新型フィットのカタログ燃費は、JC08モードで38.6km/リットル、スズキ・ソリオの同32km/リットルを上回る。ハイトワゴン系が一気に古びて見える可能性とは、こういうことだ。
実際にホンダの発表では、新型フィットの受注数のうち72%はハイブリッドという。新型ヤリスとはやや傾向の異なるユーザーが流れ込んでいることがうかがえる。
つまり新型ヤリスと新型フィットは、Bセグコンパクトの復権のようでいながら、双方ともコンパクトカーに求められる価値観やお得感で、新しい提案がある。ガラパゴス的だったAセグのSUV&ハイトワゴンが、徐々に旧いプラットフォームとともに、走りやスペース効率に優れたBセグコンパクトの世界戦略モデルに駆逐されてしまうか? それとも生き残るか? ハッチバックの復権とともに、今年の注目テーマとなるはずだ。