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新型『フィット』にもある「謎の三角形」で走行が安定するって本当?【岩貞るみこの人道車医】
◆フィットの謎の三角形
2016年の秋、クルマ業界に衝撃が走った。トヨタ、ご乱心か? なんたって、車両にひと巻き数百円のアルミテープを数センチ、ぺっと貼るだけで空力が向上するというんだもの。「放電用アルミテープでの空力最適化」って、言われても、ねえ。
しかし、実際は本当に向上する。アルミテープには放電作用があるためフロントウィンドやらバンパーの四隅やらハンドルの軸の部分やらに、ぺっと貼ると空気が整うのだ。ゆえに、現在も販売されている車両のいくつかに、しっかりぺっと貼ってある。乗り心地の違いは、わかる人ならクルマを走らせたらすぐに、わかるらしい。らしい、というのは、すみません、私、わからない人だと思うので(実際は、乗り比べしていない)。
ふうんと思っていたら、実はもうひとつ、乱心かオカルトか! と思うことがあった。それは、「ホンダの三角形」である。
トヨタ・アルミ vs ホンダ・三角形。
アルミと三角、まさにおにぎり対決である(違います)。
◆三角マークで走行が安定する?
ホンダの三角形とは、▲のマークのこと。これが、フロントウィンドウにあること、気づいていましたか、みなさん? どこにあるかというと、たとえば新型『フィット』なら、ここ。
左右のこの場所に、この小さな▲があるのである。なんだこれは。聞いてみると、「これで走行が安定する」のだそうだ。
……やはり、ご乱心レベルである。
しかし、価格勝負のコンパクトカーに、わざわざこのマークを入れているということは効果があるということだ。さっそく、ホンダの技術者、由本誠二氏が2011年に自動車技術会で発表した論文を取り寄せてみた。タイトルは「狭路左折時に走行軌跡を安定させる視覚アイテムの効果について」。以下、引用しつつ説明する。
まず、狭い道を曲がるとき、水平で滑らかで安定した視線移動と、走行軌跡の滑らかさには、相関があるという。
たしかに、上手なドライバーは、ど下手な私とは見ているところが違うことは薄々感じている。なので由本氏のチームは、▲マークをフロントウィンドーにつけて、滑らかな視線移動を誘発させようとしたわけだ。
仮説を立証するための実験は、3m幅の左折に直角に曲がる道(道は、パーテーションで壁を作ってある)を、軽自動車で通過するというもの。バンパーの右前の角と、壁との隙間を測定して、走行軌跡を確認するというものである。
◆「意識には上がらないができる行動が多数ある」
詳しい被験者数や実験回数の説明などは、はぶくとして(知りたい人は自技会で手配してね=有料です!)、その結果、▲マークなしより、▲マークありの方が、安定して同じ軌跡を通過できるようになったのである。
いやいや、待て待て。それってただ単に、クルマと道に慣れてきて、後からやった▲マークありの実験で、上手になっただけなんじゃないの?
という疑惑を払拭すべく、次にもう一度、▲マークなしで走らせたところ、おやまあ、下手にもどった人がしっかりいるという。▲マーク、侮りがたし!
論文には、「▲マークの取り付けの効果については仮説としてみとめる」とあり、絶対みんながそうなるよ、とは断言はしていない。でも、人によっては効果があり、しかも即効性があることはわかる。
「人間には、普段の生活において意識には上がらないができる行動が多数ある」「▲マークは、その能力を引き出す手助けをしたに過ぎないと考える」とも、書いてある。
▲マーク、こんなにちっちゃいのに、すごいと思いつつ、「意識には上がらないができる行動が多数ある」という言葉に、人間ってほんとは、もっともっと、やればできる(ティモンディの高岸か!)ことがたくさんあって、自分でしまい込んでいるだけなんじゃないかなと思ってしまう。
▲マークみたいなマークが、日々の生活のなかで自分のまわりにいっぱいあればいいのになあ。
岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。主にコンパクトカーを中心に取材するほか、ノンフィクション作家として子どもたちに命の尊さを伝える活動を行っている。レスポンスでは、アラフィー女性ユーザー視点でのインプレを執筆。コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。