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ホンダ シビックタイプR 改良新型、変わったところはここだ!—限定仕様も登場
2017年に発表された現行のホンダ『シビックタイプR』が3年の時を経て、2020年モデルにマイナーチェンジされた。事前説明会の内容をベースにどこが変わったか紹介する。
ホンダというと、このところ軽自動車やミニバン、SUVばかり好調で(ホンダに限ったことではないが)、ピュアスポーツの元気がない、とストレスが溜まっているファンも少なくないのではないだろうか。『NSX』のようなスーパーカーモデルはあるが、ホンダのDNAは、だれもが楽しめるホットハッチではないか。「シビック」である。
シビックタイプRのグランドコンセプトは「スポーツカーの枠を超えたUltimate Sports」だ。ホンダは2017年モデルの進化で満足していたわけではなく、「現行モデルの開発が終わったら、さっそく次はなにをするか」を考え始めたという(本田技術研究所 シビックタイプR開発責任者、柿沼秀樹氏)。今回取り組んだのは、「異次元のタイプR」がコンセプトだそうだ。これまでのタイプRは、どちらかというと日常性能を犠牲にして、軽量化や運動性能を求めてきた。しかし、これからは乗り心地や運転のしやすさで妥協しない、究極のスポーツ性能へのチャレンジを行ったという(柿沼氏)。
そのため、これまでのタイプRシリーズの進化では手をつけなかった設計や細部にまで手を入れた。
改良点を次の3つだ。
– サーキット性能の進化
– ダイレクト感の進化
– ドライビング空間の進化
サーキット性能は、エンジンの冷却性能に注目し、長時間のサーキット走行にも耐えるエンジンを目指す。冷却効果をあげるには、前面の開口面積の拡大とラジエターフィンの間隔を3mmから2.5mmと小さくし、冷却フィン表面積を拡大した。これによりサーキット走行での水温を現行モデルより10度下げることができた。
しかし、開口面積を大きくすると、フロントのダウンフォースが下がり高速走行でのハンドリングに悪影響がでやすい。新しいタイプRでは、前面の開口面積を13%アップさせたが、フロントスポイラーのチューニングによってフロントダウンフォースの減少を抑制。加えてリアスポイラーなどの調整で、車両全体のダウンフォースは現行モデルと同等を維持している。
ブレーキディスクを1ピースから2ピース構造にすることで、高速ブレーキングでのディスクの熱変位(ディスクの傾き)も抑えた。サーキット走行でのヘアピンやシケインなどで安定したブレーキ性能に貢献する。
ダイレクト感の進化は、アクティブダンパーの制御アップデートとサスペンションのジョイントおよびブッシュ類の最適化が担う。従来型タイプRにも採用されているアクティブダンパーは、2020年モデルの軽量化への対応とハンドリング性能向上のために制御プログラムが更新されている。フロントロアアームのボールジョイントはテンパリング加工により、微細な動きの追従性を上げている。同じくフロントのコンプライアンスブッシュは剛性を10%アップさせ、接地感・ダイレクト感を向上させている。リアロアアームのBブッシュも8%の剛性アップさせ、コーナリング時の横力に対してトーインを増やし安定性と旋回性能を上げる。
コンプライアンスチューンとアクティブダンパーのリファインにより、コーナーのターンインでのステアリングの応答性、追従性がよくなり、操作に対するリニアな動きをサポートする。コーナリング中はアクティブダンパーがフル稼働し、4輪の減衰力をリアルタイムに調整し、安定したグリップを確保する。コーナー脱出時の加速は、フロントのサスペンション剛性アップとアクティブダンパー制御によって、トラクションを無駄なくタイヤに発揮させる。
このような制御を実現するため、アクティブダンパーのセンサー解像度を上げるだけでなく、ECUのサンプリングレートを10倍(2kHzから20kHz)とした。センサーの解像度だけ上げると、ノイズを拾いやすくなるだけなので、サンプリングレートも上げ、より細かい挙動を検知し、繊細な制御を可能にした。
ドライビング空間の進化はおもにインテリアの改良だ。タイプRなので快適性やユーティリティも、機能性能を重視した内容だ。まず目立つのはステアリングホイールのアルカンターラ表皮だ。アルカンターラは革より薄くなるので、裏地を2枚重ねにして質感も向上している。グローブなしでも手のひらにしっくりくる感触は非常に高級感がある。もちろん吸湿や滑り止めの役目もあるので、ステアリング操作を楽にしてくれる。
シフトノブ(6MTモデル)はチタン製だが、丸形からティアドロップ型に変更された。丸形より横方向の動きをしやすく、シフトの傾きの感触を向上させる効果がある。内部にカウンターウェイトも仕込まれており、リンケージの先のテコ動作をアシストする。
柿沼氏がいう「究極のタイプR」は、走行性能だけを突出させない。シビックタイプRのもうひとつの特徴は、ホンダセンシングを全モデルに標準装備している点だ。タイプRの開発テーマには軽量化も大きなウェイトを占めるはずだ。しかし、スポーツカーとはいえ、安全装備や運転のしやすさを犠牲にした性能追求だけでいいとは考えない(柿沼氏)。ベースとなるシビックハッチバックと同じホンダセンシングは外さなかったという。
この点について「たとえばルノー『メガーヌR.S.トロフィーR』は最速FFというゴールに理想的な装備、チューニングを施している。このチャレンジは車両開発として評価できるものだが、シビックタイプRが目指すスポーツとは同じではない」と説明した。
とはいえ、もっとサーキットを意思したモデルがほしいという人もいるかもしれない。シビックタイプR 2020年モデルには「リミテッド・エディション」というモデルも用意される。こちらは、主に防音素材などを外し、専用の鍛造アルミホイールにより軽量化(車両重量で23kg削減)されている。鍛造ホイールはBBS製で、2020年モデルのために開発された。軽量化のため削れる部分は限界まで肉厚を薄くしている。それでいて、サーキット走行で十分な剛性と柔軟性を発揮するという。タイヤはミシュラン「パイロットスポーツCup2」が装着される。
軽量化とタイヤの変更にともない、アクティブダンパーの制御も専用プログラムとなる。専用鍛造ホイールはバネ下荷重を10キロほど下げている。このため、ハンドリング性能はさらに改善されるという。バネ下10キロの違いは、レーシングドライバーでなくても感じることができるはずだと柿沼氏はいう。
タイプRは夏頃の市場投入となる予定だが、リミテッド・エディションはそのあとになる。限定およそ1000台で、クロームのシリアルナンバープレートが装着され、専用カラー(サンライトイエローII)が選べる。日本国内では200台ほど販売される予定だ。1000台の内訳は、日本が200台、北米が700台(アメリカ600台、カナダ100台)、EUが100台、オーストラリアが20台とのことだ。