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公道での自律走行バス…「横に動くエレベーター、エレベーターは無料」茨城県境町町長
茨城県境町は1月27日、自動運転事業の運行管理を推進するSBドライブと、輸入商社マクニカの協力を受け、自律走行バスを町内の移動手段として4月より定時運行すると発表した。自治体が自律走行バスを公道で走らせ、公道での実用化は国内では初めての事例となる。
自律走行バスに使われるのはフランスのNavya社製「NAVYA ARMA(ナビヤ・アルマ)」で、これまでもSBドライブが自動運転の実証実験で使用してきた車両の同型車だ。境町ではこれを3台購入して、5年間分の予算として5億2000万円を計上。運行管理やそれに伴う人件費を含むパッケージで契約した。
自律走行のための各種センサーはマクニカが取り付け、運行管理は複数の自動運転車両の運行を離れた場所から同時に管理・監視できるSBドライブの自動運転車両運行プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」を活用。境町にある「河岸の駅さかい」を起点とする片道2.5kmの区間を往復運行することを想定する。
運行開始は4月を予定するが、当面は購入車両ではなくSBドライブの車両を借りての運行となる。その理由は境町が購入した車両3台は4月上旬頃、フランスから日本に到着する予定ではあるが、日本国内で走行するためには保安基準に合わせた仕様変更やナンバー取得が必要で、さらに自律走行のために必要なセンサー類も装備する改造も行う必要があるからだ。境町によれば購入車両に切り替わるのは夏頃になる見込みだという。
さらに車両を輸入するマクニカは、これまで自動運転ソリューションを提供してきた知見をベースに各種センサのメンテナンスを行うと同時に、車両本体については地元の車両整備工場と連携しながら境町での自律走行バスの運行を全面的に支援していく。
SBドライブが運行管理するDispatcherでは、車内外に設置されたカメラで運行状況をオペレーターが常に監視。車内での転倒事故につながる乗客の着座前発進や、走行中の車内移動などをAIで検知して注意喚起を行い、危険と認められる場合は遠隔操作で車両を停止させることもできる。また、それらの事象を蓄積して地図上で確認する機能も備えて危険予測に役立てていく。
ただ、導入初期の段階では習熟も兼ねて、SBドライブの社員がバスの運行を担当しながらトレーニングのサポートをしていく。SBドライブはそのために運行開始の4月までに境町にサテライトオフィスを開設することになっている。
境町の橋本正裕町長によれば、「境町は最寄り駅である東武動物公園駅までのバスの運行があるだけで、それ以外のバス路線は町内にはない。高齢化に伴う免許返納者の増加や鉄道の駅の不足、バスやタクシードライバーの不足など、これらの問題を解決することは喫緊の課題だった。町議会は12名で構成されるが、今回の提案は根回しなどすることなく満場一致で可決された」という。
また、今回の事業について橋本町長は、「この事業は言わば“横に動くエレベーター”。たいていのエレベーターは無料で乗れる。この事業はそれと同じ発想で準備した」と言い、車両が白ナンバーであることもあって、当面は無料で利用できることを予定しているという。運用は2台で行い、1台を予備車両とする計画。
「将来的には町内を5路線まで拡大し、この運行に地元のバス会社などが参画してもらえるよう働きかけていく」(橋本町長)とした。また、「国に対して補助金申請をしたところだが、これが認められない場合でもこの事業は継続していく」(橋本町長)とも語った。
境町は今後、SBドライブおよびマクニカの協力を受けながら、自律走行バスを運行させることで住民がもっと便利に移動できる環境を構築することを目指す。3者はこの新しいモビリティサービスを通して、同町と類似した環境や条件における自動運転サービス導入のモデルケースを作り、他の自治体の参考になることを目指す考えだ。