注目の自動車ニュース

マニュアルが楽しいSKYACTIV-X:マツダがトヨタハイブリッドを採用しない理由?

  • 《撮影:中尾真二》
  • 《撮影:中尾真二》
  • 《撮影:中尾真二》
  • 《撮影:中尾真二》
  • 《撮影:中尾真二》
  • 《撮影:中尾真二》
  • 《撮影:中尾真二》
  • 《撮影:中尾真二》

1月16日、マツダ『CX-30』がいよいよ正式発売となった。試乗レビューなどはすでに各媒体が報じているが、特徴のひとつがSKYACTIV-Xエンジンだ。SPCCIという新しい圧縮着火技術が目玉のエンジンだが、同時にマイルドハイブリッドシステムを採用している。

SKYACTIV-Xについては、SPCCIに関する解説記事は目にするものの、ハイブリッドシステムでもあることが取り上げられることは少ない。それは、Xに採用されたハイブリッドは「P0」と呼ばれるタイプだからだろう。P0ハイブリッドのモーターは、オルターネーターの位置になる。直接駆動力を得るためのモーターではなく、モータートルクを感じる発進とはいかないため、「ハイブリッドとしては中途半端」といった評価をする人もいる。

とはいえ、リチウムイオンバッテリーを搭載し、回生システムも備わっており、単に車載バッテリーや補器類の電源というわけではなく、必要なときにオルターネーターモータがクランキングをアシストしている。制御域はイグニッションと通常燃焼とSPCCIの切り替え時などだ。SPCCIはマツダの内燃機関の効率改善、環境性能アップの取り組みの第2ステップに相当する。第1段階は高圧縮・希薄燃焼の実現(SKYACTIV-G)。

SPCCIでは、これにディーゼルエンジンのような圧縮着火をさせるため点火時期とスパークを1サイクル単位で制御する。これにより、熱効率改善とCO2削減といった環境性能に加え、ディーゼルエンジンの高トルクとガソリンエンジンの高域での伸びを両立させた走りでも楽しめるエンジンとなっている。

短い距離だがSKYACTIV-Xを搭載したCX-30の試乗では、発進のしやすさ、上り坂など中間加速におけるアクセルのつきの良さが体感できた。CX-30はサイズも大き目で重いイメージがあるが、発進時のもたつきやアクセルレスポンスの悪さは感じられない。試乗車がマニュアルトランスミッションだったので、坂道の途中であえて3速にシフトアップして失速するような状況を作ってみたが、そのままアクセルを意識して踏み込むこともなく加速していった。

低速でのトルクがあるのと、エンジン自体の熱効率をあげるための遮蔽が防音効果も発揮するので、全体として静かでマイルドだ。緩慢なアクセルワークでも余裕の運転ができる。大きさや重さを感じさせない運転が可能だ。しかし、試乗した範囲でのアクセルレスポンスの良さから判断すると、おそらくエンジンの全域でトルク感が味わえる。こまめなシフトチェンジは必要ないが、積極的にギアを切り替えていけば自在な加減速を制御できそうだ。

これらは主にベースのエンジンとSPCCIによる特性で、ハイブリッドのモーターアシストによる効果は、シフトアップやSPCCI切り替え時など限られる。SKYACTIV-Xに搭載されたマイルドハイブリッドの効果がいちばん体感できるのは、アイドリングストップだ。通常のイグニッションもアイドリングストップからの起動でも、不快な振動が感じられなくなる。再始動時の振動をストレスに感じる人(筆者もそうだが)には、地味にうれしい機能だ。

ここで、ひとつの疑問が浮かぶ。SKYACTIV-Xとストロングハイブリッドを組み合わせるとどうなのだろうか。さらにアシスト範囲が広がるのではないか? そもそも、SKYACTIVエンジンとハイブリッドの相性はどうなのだろうか。試乗に際して技術説明を担当したマツダ執行役員パワートレイン開発本部長中井英二氏に聞いてみた。

「そもそもSKYACTIV-Xは内燃機関の効率を徹底的に上げて、走行性能と環境・燃費性能の良さを目指したエンジンです。一方ストロングハイブリッドは、エンジンの苦手な領域をモーターでアシストしたり、モーターだけで走行したりすることで効率アップを目指したものです。したがって、組み合わされるエンジンは広い領域の効率改善を求めるよりも、大きなモーター駆動を前提に特定領域の効率改善を目指したほうが効率的です」

つまり、ストロングハイブリッドは、電気モーターの助けを借りて内燃機関の欠点を補うという思想であり、SKYACTIVエンジンにはストロングハイブリッドは必要ないという見方が可能だ。

たしかに、ハイブリッドを強化していっても、内燃機関の存続に貢献するとは言いがたい。ハイブリッドは、内燃機関から電動化へのブリッジテクノロジーと言われる所以である。マツダの取り組みは、内燃機関のブレークスルーであり、存続の価値を高めるものといえる。

ただ、マツダもハイブリッドはやらない、EVはやらないと言っているわけではない。EVについてはMX-30の市販を発表している。ハイブリッドについては、資本関係もあるトヨタのハイブリッドシステム(THS)がある。条件付きで特許が公開され、他メーカーに開放されている。採用計画はあるのかも聞いてみた。

「将来の計画については答えられませんが、先ほどの内燃機関のブレークスルーという考え方に基づいて、最適な電動化技術を開発していきます」

確かに、内燃機関そのものの改良・改善に取り組むなら、動力系を2系統持つコストより電動化については素直にEVという発想は合理的だ。本格的なハイブリッドよりEV=『MX-30』を発表したのもうなずける。SKYACTIVエンジンを持っているマツダにはTHSは不要なのかもしれない。